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フローティア  作者: ゆらぎからす
幕間3.暗室での対談
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幕間3 暗室での対談

挿絵(By みてみん)

イラスト:熊井くまこ様


 幕間3 暗室での対談



「こうして顔を合わせてお話するのも、しばらくです」

「ええ。お元気ですか……すみません、そんなご状態ではありませんでしたね」

「プライベートの事はお構いなく。私情に流されず、自分の務めに尽力するつもりでおります」


「先日の雨で、火災はようやく消火の完了を確認されました」

「対策部は全ての検体を回収されたのですか」

「回収漏れは確認されていないと、聞いています……ただ、全て炭化しており、死後経過の判別しないものばかりで頭を抱えているとも」

「生者かフロートかも分からないという事ですか」

「そうです……それに、私としても感心しません。『様子を見に』行ったのに、火を点けて帰って来るというのは」

「不可抗力だったとご理解下さい。この件の責任者は謹慎させております……もっとも、彼も片腕を吹き飛ばされており、今後は大人しくすると申しております」


「彼は、あなた方の中の守旧派だったとか」

「そうですね。『生者を捕食するフロート』がコミュニティに与える影響を看過出来ないと、強く主張しておりまして。私以上に、この件では懸念する所が大きかった様です。そちらでは如何でしょう?」

「私どもですか、どういう事ででしょうか?」

「対策部……第32部局の、『対フロート作戦部隊』です。苗海町があのままなら、そのテストケース第一号となったでしょう」

「それも、放火の理由の一つだったと?」

「さあ。ただ、私も不安ではあります。勿論、生者を捕食対象と見なしたフロートには、何らかの実力行使が必要でしょう。しかし、あのテストケースはそれ以外の要素を内包しています」

「『フロートがこういうものである』という事例のアピールですか」

「そうです。強烈な(・・・)アピールです。テストケースをある程度重ねた後に、フロートの存在は公にされるでしょう……対策部――第32部局はリニューアルされ、表の省庁として出現する」

「理不尽な事態に直面した市民を救済する機関としてか、それとも、人間に敵対する『化け物』の出現に対応する機関としてか」

「部局は今まで、その矛盾する両面を併せ持っていました。リニューアルによって両面性は集束され、どちらかが――恐らくは後者が――主体の組織に生まれ変わるでしょう」

「仰る通りです」


「第二種変異対策基本法の、『主権自由党』草案はご覧になりました?」

「ええ。他の一連の『フロート関連法案』も、全て確認しております。毎度の事ながら正気を疑う内容です……だけど、内容以上に、これを現段階で刊行物と公式サイトにて公開する神経が、信じられません」

「どうせ誰も見ませんからね。見て騒ぐのは、『そういうのを見て騒ぐ、一部の政治的に偏った人達だけ』ですから。報道価値もないし、内容の問題性なんて誰も考えない」

「嘆かわしいです」

「対抗するべき人達が嘆くだけだったから、そう言う事になったとは思いませんか?」

「手厳しいですね……当事者からの意見ですから、厳しいのは当然と心得ておりますが」

「当事者と言っても、参政権も、基本的人権も、生存権すらもない、文字通りの非有権者なもので。意見の重みはいまいちかもしれません」

「まあ、そう仰らずに」

「それと、『当事者』はフロートだけじゃありませんよ。法案をご覧になったならご理解頂けていると思いますが」

「『変異要素遺伝』条項ですか……対策部の研究所でも、根拠に乏し過ぎると早々に埃を被る事になった学説が、法案の中で復活している」

「あの条項が一般社会に何をもたらすかは……ご想像頂けますね?」

「彼ら自身が、これまた平気で書いています。『死の穢れを持った血筋が存在し、変異を産んでいる。未曽有の事態に対処すべく、国民の血の清濁をきっちりと区別しなくてはならない』と」

「あれは、生者が死者(フロート)を迫害する法案なんかじゃありません。生者が生者を迫害する法案です。私達(フロート)は、その為の道具となるでしょう」

「毎度ながら、ご忠告痛み入ります。肝に銘じておきます」


「私の任期も残り1年少し。再選の見込みはなく、県会は与党一色となるでしょう。彼らは浮足立っています。海老名氏の息のかかった県議を、対策部周りで見かける事も増えました」

「後任の方はいらっしゃらないのですか」

「難しいです。私が去った後、向伏では各党がそれぞれ候補を立てる様ですが、いずれもお年を召して柔軟な対応は危ぶまれる方ばかりです。そして、当選の見込み自体も薄い」

「そうですか……先生の秘書をされている、あの方はいかがですか? 今日はお見えになっていない様ですが」

「…………」

「そちらの人選について、我々が詮索するつもりもございませんが」

「対策支部も、彼らの手中では近い先の法案成立を前提に、準備を進めている様です。成立を止める要因が見当たらないのだから当然ですが……この件について、私としては、微力ながら全力尽くして流れに棹差す所存としか申し上げられません」

「まあ仕方ない事でもあります。地方じゃなくて国の法案の話ですからね。本来は先生にお願いする事でもございませんでした」

「最近では、与党の廣瀬氏とお話する機会が増えました。いわゆる平賀派の方です……遥さんもご存知かとは思われますが」

「それは意外です……廣瀬さんも対策部に?」

「国神会派の対策部への過干渉には、各県ごとでの対策も必要だと。法案の内容にも不快を隠さないご様子で」

「でしょうねえ……」


「久しぶりに顔が見れたと思い、色々申し上げてしまいましたが、ご無理はなさらず。先生のご事情も理解しております」

「ありがとうございます。しかし、無理するのが仕事の様なものですから、残りの時間も全力で果たします」

「娘さん、ご無事で見つかる事も祈っております」

「………………」

「何か?」

「いえ……では、お元気……いえ……またお会いしましょう」

「またお会いしましょう。お元気で」






「フロートに『お元気で』はねえっつったの、センセが覚えててくれて何よりだぜ」

「つうか、気付かれたかな」

「最後、おめえをガン見してたな、センセ」

「いつかは気付かれる事だと思うよ。突然行方不明になった娘。そしてすぐ近くに『動き回る死者』の集団がのさばっている。これで、関係を疑わない奴の頭がどうかしている」

「出来るだけ、傷の深くない着地にしたいけどね」

「それも難しいな……こちらのダメージを最小限にする事が優先だ。むしろ、どう彼女を切るかだろう」

「だな。対策部をただ骨抜きにするんだったら、野党よりも同じ与党ってなあ」

「津衣菜はどうしたらいいと思う?」

「んなもん、今更俺らに聞くなよ。まあ、きっついな。奴ぁ、結局、自分の生前からは逃げ続けだ。母ちゃんに向き合う根性なんて、とても期待出来ねえ」

「そうかねえ……」

「個人の問題だよ。僕らが心配する事じゃない。彼女にはやれる事をやってもらうだけでいいと思う」

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