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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第三章 人質
8/30

コクウ王国カリバネ王のもとに、参謀でもある側近ウガヤがやって来た。

祝賀式典の準備について、相談と報告である。

着々と準備が進められていた。


「おお、よいところに来た」

顔を出したカムライを、すかさず手元に招き寄せた。


「主役のおまえに段取りを説明せんとな」

「何の主役ですか」

暢気に聞くカムライに、王はにやりと笑って言う。


「使者に発つ前に言ったろう。華やかな両王家の結婚じゃ。

式典に、マホロバから王の名代としておまえの結婚相手が来る。

あからさまな政略結婚ではなく、愛の物語を演出するのだと。

段取りと予定を把握しておくように」


「えっ、私の結婚? 誰と?」

驚きのあまり、食いつくように王に迫る。


「なんだ、いまさら。『は~い。わかりまひた、まかせれくらさ~い』と、良い子のお手本にしたいくらい 元気ないいお返事だったぞ。うむ、壮行の宴で相当酔っていたからなあ。でも、ちゃんと言ったぞ」


「え――――っ! そんなの、ぜっんぜん記憶にありません。嘘でしょ。からかってます?」


「いや、本気も本気、その線で両家は準備を進めて、 後は、二人の出会いをばっちり決めるだけ」


カムライ、顔面蒼白。

確かに、あの晩は飲みすぎていたかもしれない。

初めて自分の目でマホロバを見ることが出来ると思うと、浮かれていたようにも思う。

しかし、記憶が無いってどうゆうことだ。

そんなの初めてだ。

酔って覚えていないと言う奴は、醜態をさらしたことへの言い訳か、照れ隠しだと思っていた。

嘘だ。ありえない。


カムライは、ウガヤに視線を移した。

真剣に頷かれてしまった。


「中止にしてください。困ります。 絶対ヤダ! わ、私には心ときめかす女性が……………… あああぁ」

「いまさら中止には出来んぞ。おまえが了承したから、こちらから出した話だ。しかし初耳だな。どのような女なのだ?」


「ユン、名前はユン」


「ふむふむ、それから?」

「えーと、年齢はいくつだろう。マホロバの民です、多分。何処に住んでいるのかは、ホジロに聞いたけど、あ――っ、はぐらかされた! いつも覆面をしているので、顔ははっきりとは分かりませんが、声が 低めの迫力のあるドスの利いた感じで、……で、でも剣の腕はなかなかのものです。性別は女」


王とウガヤは顔を見合わせた。

「カムライ、ふざけているのか」


二人に説明しながら、言っている本人が何も知らないことにあせっていた。

そうだ、ホジロを呼び戻そう。いろいろ聞かなくちゃ。

頭の中がぐるぐるしていた。人生の危機だ。


「押し倒した時の感触が、しなやかで締まりのある女鹿のようなのに、 どこかふんわりとやわらかくて……」

「押し倒したあ!」

異口同音の大声が響く。


「運命を感じたんです。……あっ、そうだ。とても柔らかな唇をしていて……」

「おお! 口付けをしたのだな。あれっ? 覆面をしているのではなかったのか?」

聞いていた方も、ますます訳がわからない。

まさか、毒を口で吸い取ってもらったとは思わない二人だった。


カムライも、必死にあれこれ説明したが、どっちにしろ、縁談は引き返せないところまで話が進んでいるのだ。



(きら)びやかに仕立てられた馬車に揺られ、ユキアは再びコクウに向かっていた。


今回は、王の名代で祝賀式典に列席する国賓の姫として、仕組まれた運命の出会いを演じる女優として、華やかな衣装に身を包み、思い切り目立つ為に……。


ユキアの仕度を取り仕切ったのは、もちろんセセナだが、見事な手腕を発揮していた。

自分の装いを選ぶときとはまるで違う。

ユキアと目的にあったものを、的確に用意していた。

道中に纏っている物も、色はごく淡い朱色で華やかだが、余計な装飾を排して、その代わりに生地と仕立ては 極上。

高貴な気品をかもし出して、ユキアによく似合う。

宝飾も、数を抑えて良い物だけを身に着けている。


原石そのままの赤瑪瑙の首飾りは、さすがに合わない為、帯に絡めて、内側に挟んでいた。

金の鎖が見えるだけだが、それなら、帯に下げた飾りのように見えて、違和感は無い。

もはや、どこからどう見ても、華やかな姫君以外の何者でもなかった。

ここまできたら、腹を括って頑張るしかない。

大きく深呼吸をして、自分に言い聞かせた。



「もうすぐ国境ね」

景色を眺めていたユキアが何気なく つぶやいた時、同乗していたメドリが、思い出したように懐から手紙を出した。


「忘れるところでした。おじゃる丸が姫様に渡してくれというので、預かってまいりました。お忙しそうで お会いできないので、お手紙にしたそうです」

「おじゃる丸って、はいはい、タマモイ殿下ね。何かしら」


「万が一、つまみ食いがどうのと書いてあるようでしたら、帰ってからわたくしが絞め上げますから、おっしゃってくださいね」

「それなら、自分で絞めるから大丈夫よ。あら、それどころじゃないみたいよ」



《警告でおじゃる。

我らが情報網に引っかかり申し候事有り、急ぎご注意参らせ候。

マホロバの姫が狙われておるやも知れず、お身の回りの警護、おさおさ怠り召さぬよう、ご用心なさるべく申し上げ候。

我が鋭き推察によれば、ご婚儀までは動かぬと思い候えども、

機会ありし折には、今のうちにご新居の宮などをお調べ置かれますれば、後々ご安心かと存知参らせ候。

セセナ姫なれば、警護の者に伝うるべきところ、そなた様はすでにご承知のことにて、直接お知らせする次第にて御座候。

ユキア様  ご存知より》



隣にいるメドリが心配そうに見ているので、渡してやると、読んでこめかみに青筋を立てている。

「こんな一大事を 怪しげな候文で……、理由が何も書いてないではありませんか。おまけに、下々(しもじも)の恋文でもあるまいし、《ご存知より》ってなんですか」


「すぐには動かない様子みたいだし、必要だと思ったらわたしが言うから、警護の者達にはまだ内緒にしておいてね」

「はい。剣と覆面は、お言いつけ通りに持ってきましたけれど、無茶はなさらないでくださいね。 他国なのですから」



こうして馬車は、コクウの城に到着した。


迎え出た者たちは、一様に目を見張った。

降り立った姫君は、 大国マホロバ王国の気品ある豪華な華やかさと、文化の薫り溢れる美しさをまとっていた。

平和な国が生み出した豊穣ほうじょうを目の当たりにして、心が震え、温かく開いていく。

そして、長い戦に明け暮れた日々の愚かさを思い知った。


新しい未来があるはずだと、それぞれの胸の中に、その姿が浮かび上がる。



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