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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第三章 人質
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そうこうするうちに、モクドの末っ子王子までが人質になりにやってきた。

何故こんなに早く来たのかと問われて、

「マホロバ王国を早く拝見したくて。それと、タマモイ王子がいらっしゃるとうかがい、見物に……」


マサゴの第二王子は、結構な有名人らしい。


モクドの王子はおとなしい少年で、マホロバの王子たちと歳も近い為か、オトヒコと気があったようだ。

以後、目立たない二人が一緒にいるところが目撃されるようになった。

二人とも、独りでいると何処にいるやら検討もつかないので、分かりやすくて良いと好評だ。

が、何をしているかといえば、タマモイの追っかけである。

やはり、たいしたことはしていない。


タマモイは、二人をからかって煙に巻いているかというと、そんな事は無く、案外真面目に相手になっている様子で、追っかけ王子たちは、ますます熱を上げているという。

平和な王宮の風景である。



調査団との連絡が行き交うようになって来ていた。

一部の専門家たちは、すでにマサゴとモクドに入って調査をしていたが、遊軍のホジロは、途中から マサゴに行く予定になっていた。

それを、モクド行きに変更した。カムライの勧めだという。

やはり気づいたのだろう。

好奇心の(かたまり)みたいな男を、一人で行かせられない。



もう一方で、結婚の話も極秘の内に相談が進められていた。


知っている者は、当事者とその周りを含め、一部に限られていた。

モクドの末っ子王子でさえ、兄上とセセナ姫が結婚すればオトヒコと兄弟になれたのにと、残念そうに言ったくらいだ。

知らないに違いない。


当人同士が顔も知らないあからさまな政略結婚では、盛り上がりに欠けるだろう。

運命の出会いをして、愛をはぐくんだことにしようと演出が考えられた。

もちろん、極秘で。

姫が、親善のために王の名代としてコクウを訪れ、迎えた王子と恋に落ちるという筋書きだ。

クサイ。

どうせ、重臣の(じじい)たちが考えたのだろう。


しかし、ここに来てやっと気づいたのだ。

セセナの様子がおかしいと。


以前の華やかさが、まるで感じられない。

ともすると、オトヒコやモクドの末っ子と一緒のことも多くなって、口の悪い連中から『壁紙三兄弟』になってしまったなどと言われたりしている。

急激な変化に、皆驚いていた。


父ウナサカと母アリソが、心配して呼び出した。

「セセナ、何があった」

「正気に戻りました」

ひどく落ち着いた声だった。

アリソが目を見張る。本当に変わってしまった。


「わたしたちにも分かるように話してくれる?」

「今まで、『とにかく何が何でも目立つお姫様』を目指して、無理を重ねてきました。でも、タマモイ様も モクドの王子も、エヒコもオトヒコも、ありのままの自分を受け止めた上で頑張っている。わたしは間違えていたような気がしてきました。ユキアお姉さまは、何をしても何処にいてもユキアお姉さまなのに、わたしは、何をして何処に居たのだろうと……。それに、わたしがなりたかったのはユキアお姉さまだったのです。国を挙げての大花火ではありません。嫌なのです。長い間戦に明け暮れていたような国にお嫁に行くなんて」

  

「だからセセナが、平和の女神の象徴として行くのではありませんか」

アリソがあきれたように言う。

いまさら何を言っているのだ、この子は。


「わたしは、女神にもなりたくありません」

消え入りそうな声で俯き、涙をこらえている。

猶も言い募ろうとするアリソを、ウナサカが止めた。


けっして気が強いとはいえないこの姫が、こうなったら(てこ)でも動かないことを経験上知っていた。

無理に嫁がせても泣き暮らすだろう。

気持ちが変わるまで、十年くらいかかりそうだ。


こうなったらユキアしかいない。

いくら女装させても可愛いからといって、エヒコやオトヒコを嫁がせるわけにもいくまい。

国際問題になる。


実は、気が強いユキアのほうが動かしやすい。

上手く説得できれば、華やかな姫にもなるだろう。

ホヒコデ王に次第を話すと、

「やはりそうなったか。運命じゃ。ユキアには余から話そう」

驚く様子も無く、納得した。



「陛下、ごきげんよろしゅう」

挨拶したユキアをじっと見つめたホヒコデ王は、(うなず)くと、単刀直入に言った。


「コクウに嫁げ」


「セセナのはずではありませんの」

「あれには務まらぬ。余は、はじめからおまえを考えていた。他の者はともかくな。セセナも泣いて嫌がっておるそうじゃ」


ユキアは唖然(あぜん)とした、一目惚れはどうなったのだろう。

王は、そんなユキアをじっと見つめていたが、おもむろに話し出した。


「おまえが生まれた時の騒ぎは聞いておろう」

「はい、うんざりするほどに」


「祝砲の二発目を撃った者は、居らぬのだ」

さすがにはじめて聞く話に、目が点になる。


驚くユキアを見据えて、ホヒコデは冷静に続けた。

「喜びのあまりとはいえ、死人が出た騒ぎになったのでな、責任を明らかにせよと命じたが、ついに判らなかった。祝い事でもあるし、重い罪は問わぬ、その罰も余の初孫誕生の祝いに恩赦にする、とまで言ったのだが、隠したわけでも、ごまかしたわけでもないらしい」


二台目の砲台を指揮した男が、数日前に男子をもうけたばかりだったこともあって疑われたが、慎重な男で、姫という知らせが入った時、念のために砲手を二歩下がらせた。

大砲に手の届く位置に居た者は無かったというのに、二発目の祝砲は鳴り響いたのだ。


ただ、砲台にお守りが落ちていた。

指揮官が我が子のために買ったもので、小さな柘榴石(ざくろいし)が飾られていた。

柘榴石は「力と勝利」を意味する。

父親から子への祈りが込められていた。


他には何一つ、誰一人無かったのだ。


「ユキア、おまえの運命じゃ。人々から注目され、騒がれる運命なのじゃ」

運命はともかく、セセナが泣いて嫌がっているなら、しょうがないかという気になっていた。


上に生まれた子は、こう言われて育つ。

『お姉さんなのだから、妹や弟には優しくしなさい』

『お姉さんなのだから、我慢できるでしょ』

カムライが夫としてどうなのかは経験が無いから分からないが、少なくともいやな奴ではない。

ただし、思いっきり目立たなくてはならないのだ。

運命とやらは、人の努力を一瞬で無駄にするものらしいことに、ちょっと腹が立つ。



三国同盟結成一周年の祝賀記念式典が、各国それぞれにおいて大々的に行われることになった。

マホロバからも、王の名代として、マサゴには赴任中のタヅムラが、モクドにはユゲ大納言が、そしてコクウにはユキア姫が列席することに決まった。


それを聞いた女官たちは、「引きこもり姫」をどうやって王の名代らしくしようと騒然となったが、王も 両親である皇太子と妃も慌てる様子が無い。


「案ずることは無い。我が城には、セセナがいる」

王の言葉が、皆を落ち着かせた。

装いに関しては、セセナは間違いなく凄腕だ。



母のテフリから、一つだけ忠告があった。

「ユキアは まだ若いのに声が低い。えーと、なんというのだったかしら。新入りの侍女に 聞いたのだけれど……。 そうそう、下々では、ドスが利いているというのですって。だからほんの少しだけ、声の音色を高くしてみては。その方が華やかな感じになるわ」


衣装選びと発声練習が始まった。



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