三
時は前日にさかのぼる。
結局、メダカを一匹殺す羽目になったホジロは、春の離宮へと向かった。
カムライに面会を申し入れたが、門番にすげなく扱われる。
「明日のご婚儀を控えて、殿下はお忙しい。今日は無理だな」
ホジロは、仕方なく手紙を書いて渡した。
「火急の用なんだ。これを急いで渡して欲しい。読めば、絶対に会ってくれるはずだから。渡さなかったら、後悔するのは君だよ」
脅し半分に押し付けた。
門番は迷いながらも、「まあ、手紙だけなら」と受け取った。
そのまま門前で待っていると、案の定、すぐに招き入れられる。
「ホジロ、どういうことなんだ」
「同じ毒だ。四人いる。目当てはここ、春の離宮らしい。どういう段取りなのか分からないけど、たぶん明日。今日騒ぎを起こすのは、早すぎるだろ」
早々に騒ぎを起こして、翌日の婚儀を、はじめから中止にするとは考えられない。
「四人か。それなら、あの時と同じ奴らだな」
宿のゴミ箱に在った布には、ほんの少しだが、毒が付いていたのだ。
マホロバに来たカムライと初めて出会った丘の上の別荘で、襲ってきた賊が使ったものと同じ毒だった。
「まともな手段では、奴らの腕なら心配ない。
問題は、やはり毒だな。ホジロ、手伝ってくれ」
「僕、とっても弱いんだけど」
ということで、迎え撃つ準備をする二人だった。
事が起こったのは、城に向かおうとした時だった。
前祝に浮かれる町中から、一群の男たちが豹変して、春の離宮に押し入ってきた。
謀反に備える為、城中に多くの兵士を潜ませてある。
浮かれ騒ぐ城下の混乱を押さえる為にも、かなりの兵を割いていた。
畢竟、春の離宮は、思いのほか手薄になっていた。
警備に当たっていた者達が、応戦する。
時ならぬ戦いに、あたり一帯が騒然となった。
たまたま通りかかった腕に覚えのある民もいたが、めでたい祝いの日に武器を持っている者はいない。
加勢しようにも、手が出せずにいた。
入り口の騒動を尻目に、四人の男たちが忍び込んでいた。
人目を避けて、離宮の中を音もなく奥へと進んでいく。
「殿下、大事なご婚儀に血を浴びることになってはいけません。我らに任せて、お部屋で静まるのをお待ちください」
「分かった、頼む」
何処からか、慌てるふうでもない落ち着いた声が聞こえてくる。
四人の刺客は、声を追って、さらに奥へと進んでいった。
庭に面した回廊に行き着き、一つずつ扉の中を確かめていく。
次の部屋から、コトリ、物音がした。
互いに目配せを交わして、部屋になだれ込んだが、空だ。
しかし、奥の扉が閉め残されたかのように、わずかに隙間を見せていた。
三人が部屋の中に入り、残る一人が振り返って辺りを確かめた。
近くに人は居ないと思い、後に続いて部屋に足を踏み入れた時、ズトン、物が落ちる大きな音と共に、頑丈そうな格子戸が入り口を塞いだ。
急いで奥の扉に取り付こうとしたが、やはり格子戸が行く手を阻んでいた。
四人の侵入者は、閉じ込められたのだ。
二人が格子に取り付いて動かそうとしたが、びくともしない。
かなり離れた太い一本の庭木の陰から、人影が現れた。
「仕掛けを用意して待っていたぞ」
カムライの声が、余裕たっぷりに響いた。
すかさず手裏剣が飛んだが、木に隠れてかわす。
「無駄だ。おとなしくしていろ。これだけ離れていれば、かわすのはたやすい」
「くそっ!」
飛距離が長くなれば、見切るのが容易だ。
前面にいた二人が、悔しそうに、格子をつかんで揺すろうとしている。
と、その二人の隙間から二本の筒が覗き、小さな吹き矢が飛び出た。
見えないところからの不意の攻撃。
しかも、かわすには、吹き矢は小さすぎた。
人影が、ぴたりと動きを止めた。




