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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第九章 マホロバの星
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コクウの婚礼は、日の入りとともに始まるのが慣例になっていた。

今回ばかりは早めに始めたかったのだが、そうも行かず、少しだけ早められるにとどまった。



大広間に続く控えの小部屋に、支度を終えたユキアがいた。


年若い花嫁らしく、髪は清楚にまとめられ、細い金の冠を載せていた。

きらびやかな冠の中央には、額にかかるあたりに大粒の金剛石が輝いている。

『マホロバの星』と名づけられた名高い石である。


豪華な上掛けには、地色の白に溶け込みそうな淡い色の糸で、華やかな刺繍が施されており、長めの重たげな裳裾(もすそ)が、緩やかな襞を作って流れていた。


左腕には銀の腕輪が、帯にはいつものように金の鎖が下がっていたが、もちろん、その先には赤瑪瑙が付いていて、帯の中に挟み込まれている。

マホロバから付いてきた女官と共に、ウガヤが、この者は大丈夫だからと付けてくれた女官が、支度を手伝ってくれていた。


大広間の様子を覗きに出ていたメドリが、部屋に戻ってきた。

「皆様、ほぼおそろいのようです。モクドからは皇太子ご夫妻がお見えのようですけど、マサゴからいらしている方は、どなたなのですか」


コクウの女官が答えてくれた。

「トコヨベ王の弟君アユチ様です。ご一緒にいらっしゃるのは、ご子息様。噂では、兄君の陛下よりも数段上のやり手でいらっしゃるとか」

聞いていたユキアの顔に、わずかな緊張が走る。

が、メドリはのんきに続けた。


「そうなんですか。見た目もご立派なご様子ですよね。ところで、太政大臣はじめ、大臣(おとど)の方々の奥様は、体格の良い方が多いのですね」


それを聞いた女官が、くすくすと笑いながら言った。

「奥様方は危険なので、身代わりの者だと思います。多分、女装した兵士が多いのではないかと」


「おやまあ、でも、それに比べてモクドの皇太子妃は、本当にたおやかでお美しい。何か起こっても大丈夫なのでしょうか」

「あら、モクドの妃殿下も、確か、近衛兵が身代わりをなさっていたと思いますよ。近衛隊随一の剣の使い手だとか」


「うそーっ! 私負けてます。もう一度見に行ってみようかしら」

「……………………それは、ちょっと……」


女官があきれたその時、扉を開ける荒々しい音とともに、たくさんの足音と武器の触れ合う騒ぎが伝わってきた。


「やはり、来たようですね」


メドリが扉を細く開けて、大広間の様子をうかがった。


大きく開け放たれた広間の入り口から、押し入ってきた者たちがいた。

ここまで一気に入り込むとは、城内に手引きした者でもいるのだろうか。

意外に人数が多い。


皆、旅人が道中に着るような袖なし外套を羽織っていた。

一人が、それをするりと足元に落とすと、真っ黒い姿が現れた。


「いまさら何が三国同盟だ、和平だ。

俺の可愛い二人の弟はコクウに、竹馬の友はモクドに殺された。

納得など出来るか! 俺は認めぬ。

俺の手ですべてを破壊し尽してやる! まずは貴様らを皆殺しにする」


「ウルク殿下!」

叫ぶように声をあげたのは、マサゴから列席のアユチだった。

反乱の首謀者は、マサゴ王国皇太子ウルク。

ツクヨリを殺し、国境付近でカムライを見つめていた黒い男だった。


ユキアが、するりと扉から姿を現した。

「静まりなさい!」

ゆっくりと歩き出し、正面の壇上に登っていく。

七人の護衛が、守るようにさりげなく位置を変えていった。


「ふん、腑抜ふぬけたマホロバのお嬢ちゃんか。そなたには、我が恨みなど到底分かるまい」

ウルクは、値踏みするように真っ直ぐな視線を送った。

その顔に笑みはない。


「分かりません」

あっけないほどさりげないユキアの声は、透き通って広間に響き渡った。

敵も味方も呆気にとられた。


「わたしには、戦で死んだ身内も知り合いもいません。

察することはできても、全くわかりません。それを、幸せなことだと思っています。

ですが、マホロバから来た一部の人間を除いて、この場にいる人々のほとんどは、少なからず、あなたと同じ思いをしたはずです。

恨みは恨みを生み、連鎖して広がり、終わることを(こば)むのでしょう。

それを押して先に進む決意をした方々の強さに、心からの敬意を表します」


いつの間にか姿を現していたカリバネ王が、ゆっくりと笑みを漏らす。


「ふん、戯言(ざれごと)だな。夫になるはずだった男が殺されても、そう言っていられるかな」


ウルクの一言に、広間にざわめきが起こった。カムライの姿が見えなかった。



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