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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第八章 準備
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「なんと、軍師が直接参ったか。ウガヤ殿、して、用件はなんじゃ」


ユキアとメドリに、間違いなくコクウの軍師だと紹介された男を、王は、目を丸くして眺めた。


「知っている人間を最小限に抑えたくて、失礼ながら、こんな姿でまかりこしました。婚礼の儀について、ご相談があります」

「うむ、事情は承知しておるが、発表したからには、あまり先延ばしにするのもどうかと思うぞ」

ホヒコデ王は、ウガヤの扮装を気にしない事にした。


「はい、仰せの通りにございます。

こちらも、奴らを引っ張り出そうと、三国の王と重臣たちの会談を催しましたが、動きませんでした。どうしても、大掛かりに事を進めたいようです。

姫様を人質に、貴国を始め他国の介入を押さえたいのでしょう。

そこでご相談ですが、初めの計画通りに婚礼の儀を行いたいと思います」


「大丈夫なのか」

口ほどには心配そうでもなく、問いかけたホヒコデ王に、ウガヤも、まるで芝居の段取りを決める流れ芸人 さながらの、人を食った答えを返した。


「いいえ、危険です。

そこで万一に備え、姫様はじめマホロバからご列席の方々を、替え玉にて執り行うことを、ご承知おき頂きたく、お願いに上がりました」


ウガヤの話を聞いて、しばし考え込んだ王が黙っていると、ユキアが、静かに割って入った。

「嫌です。

自分の婚礼に替え玉を使って、わたしが欠席するなど 嫌です。

一生に一度の婚礼を、他人に譲りたくありません」


「お気持ちはごもっともですが、危険が伴います」

ウガヤは一応 念を押したが、誰も聞いてない。


「確かにな、ユキアの言い分ももっともじゃ。

マホロバ王国ともあろうものが、偽物を使うというのも沽券にかかわる。

ウガヤ殿、本物で行こう。

マホロバの者には、屈強な護衛をつける。

しかし、護衛をするだけじゃ。騒ぎには手を出さぬ。それは、そちらで何とかしてもらおう。

その代わりに、万が一、何かあっても文句は言わぬと確約しよう。

ユキアもそれで良いな。人質になっても救ってはやれぬ。その時は諦めよ」

「はい、ありがとうございます。陛下」


なんとも、胆の据わったじい様と孫娘だと、ウガヤは内心舌を巻いた。

両親である皇太子夫妻、ウナサカとテフリも、話を聞いて替え玉を断った。


こうして、婚礼の日程が決まった。

翌年の春、マホロバにもコクウにも花が咲き乱れる頃に……。




年が明けて、婚礼の話が華やかな話題を振りまいているまだ浅い春に、ユキアの元を、マサゴの第二王子おじゃる丸ことタマモイが訪れた。


「げっ、今日は何の御用ですの」

取次ぎに出たメドリは、相変わらずの拒否反応で出迎えた。

「メドリ殿に求婚に参ったでおじゃる」

「本当の御用をおっしゃってください」

「……」

全く相手にされていない、というか摘み出されそうな勢いである。


「姫君に、マサゴからのお祝いの品を持って来たでおじゃる」

大事そうに、しゃれた小箱を持っていた。


部屋に通ったタマモイは、ユキアに箱を開けて見せた。

磨きぬかれた銀の腕輪に、深い 海の色のような、真っ青な青玉が嵌め込まれている。


「これはまた見事な腕輪ですね。これをわたしに?」

セセナなら、古風に過ぎると言うかもしれない。

由緒ありげな意匠である。


「はい、モクド王国か 我が父の元に、友好の印だと、モクド金山から採掘されたという金塊が送られて来たでおじゃる。それに、巫女の長からの手紙が付いてきたのでおじゃる。

『マサゴ王国の、力ある宝玉をユキア姫に贈れ』だそうな。

この青玉は『人魚の涙』という名で、美しき乙女が精霊を呼び覚まし、王国に平和をもたらすと伝えられているでおじゃる。

是非とも、婚儀にお使い頂きたい」

マサゴ王国伝説の一品であった。


「分かりました。トコヨベ王にお礼を申し上げます」


「実は、父王も我も、よく意味が分からんのでおじゃるが、モクドの巫女長が言うなら、何か理由があるのじゃろうと思うて、お持ちしたでおじゃる」


ユキアには、よく解った。


にっこり笑って見せると、タマモイも安心したように笑って、

「ユキア姫が売約済みとは、つくづく残念でおじゃる。しょうがないからメドリ殿で我慢するでおじゃる」

と余計な一言を付け加えたばかりに、メドリに追い出された。


「我慢しなくて結構です。私が、絶対に我慢できません」



着々と準備が進められ、表面上は 何事もなく、婚礼の日は静かに近づいて行った。



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