三
「なんと、軍師が直接参ったか。ウガヤ殿、して、用件はなんじゃ」
ユキアとメドリに、間違いなくコクウの軍師だと紹介された男を、王は、目を丸くして眺めた。
「知っている人間を最小限に抑えたくて、失礼ながら、こんな姿でまかりこしました。婚礼の儀について、ご相談があります」
「うむ、事情は承知しておるが、発表したからには、あまり先延ばしにするのもどうかと思うぞ」
ホヒコデ王は、ウガヤの扮装を気にしない事にした。
「はい、仰せの通りにございます。
こちらも、奴らを引っ張り出そうと、三国の王と重臣たちの会談を催しましたが、動きませんでした。どうしても、大掛かりに事を進めたいようです。
姫様を人質に、貴国を始め他国の介入を押さえたいのでしょう。
そこでご相談ですが、初めの計画通りに婚礼の儀を行いたいと思います」
「大丈夫なのか」
口ほどには心配そうでもなく、問いかけたホヒコデ王に、ウガヤも、まるで芝居の段取りを決める流れ芸人 さながらの、人を食った答えを返した。
「いいえ、危険です。
そこで万一に備え、姫様はじめマホロバからご列席の方々を、替え玉にて執り行うことを、ご承知おき頂きたく、お願いに上がりました」
ウガヤの話を聞いて、しばし考え込んだ王が黙っていると、ユキアが、静かに割って入った。
「嫌です。
自分の婚礼に替え玉を使って、わたしが欠席するなど 嫌です。
一生に一度の婚礼を、他人に譲りたくありません」
「お気持ちはごもっともですが、危険が伴います」
ウガヤは一応 念を押したが、誰も聞いてない。
「確かにな、ユキアの言い分ももっともじゃ。
マホロバ王国ともあろうものが、偽物を使うというのも沽券にかかわる。
ウガヤ殿、本物で行こう。
マホロバの者には、屈強な護衛をつける。
しかし、護衛をするだけじゃ。騒ぎには手を出さぬ。それは、そちらで何とかしてもらおう。
その代わりに、万が一、何かあっても文句は言わぬと確約しよう。
ユキアもそれで良いな。人質になっても救ってはやれぬ。その時は諦めよ」
「はい、ありがとうございます。陛下」
なんとも、胆の据わったじい様と孫娘だと、ウガヤは内心舌を巻いた。
両親である皇太子夫妻、ウナサカとテフリも、話を聞いて替え玉を断った。
こうして、婚礼の日程が決まった。
翌年の春、マホロバにもコクウにも花が咲き乱れる頃に……。
年が明けて、婚礼の話が華やかな話題を振りまいているまだ浅い春に、ユキアの元を、マサゴの第二王子おじゃる丸ことタマモイが訪れた。
「げっ、今日は何の御用ですの」
取次ぎに出たメドリは、相変わらずの拒否反応で出迎えた。
「メドリ殿に求婚に参ったでおじゃる」
「本当の御用をおっしゃってください」
「……」
全く相手にされていない、というか摘み出されそうな勢いである。
「姫君に、マサゴからのお祝いの品を持って来たでおじゃる」
大事そうに、しゃれた小箱を持っていた。
部屋に通ったタマモイは、ユキアに箱を開けて見せた。
磨きぬかれた銀の腕輪に、深い 海の色のような、真っ青な青玉が嵌め込まれている。
「これはまた見事な腕輪ですね。これをわたしに?」
セセナなら、古風に過ぎると言うかもしれない。
由緒ありげな意匠である。
「はい、モクド王国か 我が父の元に、友好の印だと、モクド金山から採掘されたという金塊が送られて来たでおじゃる。それに、巫女の長からの手紙が付いてきたのでおじゃる。
『マサゴ王国の、力ある宝玉をユキア姫に贈れ』だそうな。
この青玉は『人魚の涙』という名で、美しき乙女が精霊を呼び覚まし、王国に平和をもたらすと伝えられているでおじゃる。
是非とも、婚儀にお使い頂きたい」
マサゴ王国伝説の一品であった。
「分かりました。トコヨベ王にお礼を申し上げます」
「実は、父王も我も、よく意味が分からんのでおじゃるが、モクドの巫女長が言うなら、何か理由があるのじゃろうと思うて、お持ちしたでおじゃる」
ユキアには、よく解った。
にっこり笑って見せると、タマモイも安心したように笑って、
「ユキア姫が売約済みとは、つくづく残念でおじゃる。しょうがないからメドリ殿で我慢するでおじゃる」
と余計な一言を付け加えたばかりに、メドリに追い出された。
「我慢しなくて結構です。私が、絶対に我慢できません」
着々と準備が進められ、表面上は 何事もなく、婚礼の日は静かに近づいて行った。




