二
やがて、調査を終えた調査団員も帰還し始め、技術援助の具体案や予想できる見返り等が検討され、それぞれの国の担当者の行き交いも始まった。
彼らを通じて、不穏分子の取り締まり状況について、情報も入ってきていた。
頑張っているらしいが、肝心の首謀者が未だになんともならないようだ。
復興や技術援助の計画は、着々と話が進んでいったが、それらに対しての妨害は一切無い。
利用するつもりなのか、それとも関心が無いのかも、不明のままだった。
しばらくして、三国に対するマホロバからの援助計画の骨子が発表され、カムライとユキアの婚姻も、ほぼ同時期に、正式発表になった。
ツクヨリの死が、一時、 カムライの仕業とか、マホロバの暗殺とかいう困った噂になったが、
お茶会の求婚が信憑性の高い噂として流れ出すと、すぐに消えた。
だが、婚儀の日取りが決まらない。
鳴りを潜めている不穏分子が、その日に蜂起しかねない、という不安があった。
「蜂起させちゃったら」
ユキアが大胆なことを言う。
「逆に、こちらが罠を張って待ち構えているの。来なければ来ないで、もう立ち向かってくる力が無いと安心できるでしょ」
危険な賭けになる。
しかし、敵は一向に動く気配を見せなかった。
もう力が残っていないならば 良し、万が一、地下にもぐって勢力を拡大させようと活動しているならば、早く叩いたほうが安心なのも確かだった。
コクウ王カリバネをはじめとした三国の王家では、婚礼祝賀会が、不穏分子が蜂起する引き金になりかねないと懸念していた。
婚儀には、三国の中心になる人物が一同に揃う、大々的な祝典にしなければならない。
大きな花火にならなければ、意味が半減する。
そこを襲って一気に皆殺しに出来れば、簡単に片がつく。
他国からの介入を抑えるために、マホロバの姫とマホロバから列席する重要人物を人質にすればいい。
そう考えるのは、容易に察しがついた。
敵にとって、絶好の機会を与えるようなものなのだ。
だが、このまま時間稼ぎをして、敵の弱体化を待っているわけにも行かない事情があった。
どうやら大物が絡んでいるらしいことを思えば、時間があれば、勢力を拡大する恐れがあった。
そんなある日、詩語りの流れ芸人がウケラ城にきた。
楽器を奏でながら詩を語り、歌い、定住せずに各地を流れ歩く輩である。
彼らは、国境を気にすることなく、何処にでもふらりとやってくるが、さすがに城にまで押しかけてくる者は、めったにいない。
メドリに詩を見せたい、と言っているらしい。
心当たりは無かった。
「なんで詩語り、私にですか」
取り次いだ召使に聞き返す。
「はい、詩を預かってきました。気に入られたら、姫様にも語ってお聞かせしたいと申しております」
何気なく渡された紙を読んだメドリは、目を見開いた。
そこには「怪傑赤瑪瑙頭巾の詩」という、みょうちきりんな詩が書かれてあった。
何処の誰やら知らねども いずれ誰もが知っている
怪傑赤瑪瑙頭巾の姐さんは 正義の味方だ良い人なのだ
疾風のように現れて 疾風のように去ってゆく
怪傑赤瑪瑙頭巾は誰なんだ? 怪傑赤瑪瑙頭巾は 一体全体誰なんだ?
「あらまあ、気に入ったわ。その詩語りは何処にいらっしゃ……いえ、いるの? 会いますから、待たせておいて」
召使が去ると、メドリは、あわててユキアに紙を見せた。
「まず、私が会って確認してきます」
メドリが、きりりと表情を引き締めた。
赤瑪瑙頭巾と名乗ったのは、コクウの騒ぎの折だけだ。
それを知っている人物ということになる。
「こういう手段で会いに来られるからには、どなたであるにしろ内密なお話でしょう。大きな声でお名前を呼んだりしては駄目よ。
それにしても、これって詩なの? ひどすぎる……」
詩語りは、琵琶をかついだ、いかれた恰好のおやじだった。
「姫様が、是非、そなたの語る詩をお聞きになりたいとの仰せです。そそうの無いように」
メドリは、案内しながら小声でささやいた。
「その格好、似合い過ぎです」
「気に入っていただけましたか。ちょっと自信がありました」
詩語りも、小声で返す。
「ホヒコデ陛下に お会いしたい。取次ぎを頼む」
「かしこまりました。でも、なんですの。あの『怪傑赤瑪瑙頭巾の詩』というのは」
「わたしの顔を知っている姫の随行員たちに会おうとしたのだが、東国使節団の随行をしていて、国内には 居なかったので仕方なく。
あれなら、あなただけに分かると思いましたので。
カムライ殿下に、話は全部聞いています」
メドリは、そっと溜息をついた。
「いえ、そういう意味ではなく……」




