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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第八章 準備
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モクドのまじない師イマナジは、一旦、迎賓館に移ったが、すぐに国に帰るといって、ユキアの部屋に別れを告げに来た。


「居候先があんなことでは、もう、ゆっくりもしていられぬでな」

「わざわざのご挨拶、いたみいります。 ところで、『妖精王の瞳』は、モクドにあったものだったとか」

ユキアの問に、イマナジは飄々(ひょうひょう)として答えた。


「戦というものは、いろいろなものを失くします。

ご神木から彫りだした御柱(みはしら)さえ、傷つけられて 倒れました。

『妖精王の瞳』も、戦で失くした多くの物の一つに過ぎませぬ。

戦いの費用として売り払われたのかもしれませんな。

一番の失くしものは、もちろん、人の命ですが」

内容のわりに、あっさりとした物言いだった。


「巫女殿、これを受け取ってください。モクドに在ったほうが良いように思えます」

ユキアの差し出した首飾りを、イマナジは躊躇(ちゅうちょ)無く受け取った。


「確かに。人の心には、夜叉も鬼も住んでいるもの。

それを押さえ込んだり、闘ったり、飼い馴らしたりして平穏な暮らしを営んでいる。

不用意にあからさまにして良いものではありませぬ。

翠玉の精霊が目覚めたとあっては、我らの元にあるのがよろしかろう」


ごく普通の老婆にしか見えぬイマナジだったが、痩せても枯れてもモクドの巫女長である。

何かを知っているとしたら、この人物以外にないだろう。

ユキアは尋ねてみた。


「メギド公の心にも、鬼が住み着いたのでしょうか。そんなに悪い方にも見えませんでしたが」

「小鬼じゃな。つけこまれて、そそのかされたのじゃろう。本来は、ただのがさつな親父じゃ」

身も蓋もない返事が返った。


だが、もうひとつ聞いておきたいことがあった。

「一つ解らないことがあります。メギド公は、何故これを盗んだのでしょうか」

「このまじない師のせいじゃ」

言って、イマナジは、しばらく考え込むように黙した。

「ユキア姫、もしかして赤い石はお持ちか」


ユキアは目を見開くと、帯に挟んであった赤瑪瑙を取り出した。

「おお、そなたを守っているのは、その石じゃ。赤と緑を間違えた」


「ええっ、赤と緑を、どうやったら間違えるのですかあ」

多少非難がましい メドリの指摘を受けて、イマナジは、手近にあった白い布を勝手に取り上げ、卓に掛けた。

その上に、赤瑪瑙を載せる。


「じっと見て御覧なされ」

ユキアとメドリは、言われたとおりに卓の上の赤瑪瑙をじっと見つめた。

イマナジが、急に赤瑪瑙を取り去ると、白い布に、くっきりと緑の影が見えた。


「赤と緑は間違えやすいのじゃ。時折、区別ができぬ者もおる」

「そういえば、赤と緑が識別できない人がいると本で読みました」


手に取った赤瑪瑙を包むようにしていたイマナジが、しばらくして、それをユキアに返して言った。

「なにやら気難しい石に思えるが、姫を気に入っているようじゃ。なついておる」

「なつかれているんだ」


「『妖精王の瞳』を目覚めさせたのは、この石じゃな。

姫のために、赤瑪瑙は、精霊を目覚めさせた。

覚えておくといい。これからも、宝玉が姫に力を貸してくれるだろう。

さらばじゃ」


言って、無造作に首飾りをかけたイマナジは、たちまち小柄な老女から、いたずらっ子のような瞳をきらめかせた妖しい美女に変わって、部屋を出て行った。

老女に似合いの、くすんだ色合いをした地味な衣装さえ、粋でお洒落に見えた。


「うわあ! ものすごいものを見てしまいました」

メドリが、目をまん丸に見開いて驚いた。

「そ、そうね」

ユキアにも、異存はなかった。



捕らえられたメギド公は、王位継承権を剥奪(はくだつ)され、とりあえず投獄された。


春の離宮のなかば勝手な修復も、カムライとユキアを閉じ込める為の仕掛けを作る目的で行われたものだった。

すべての出入り口に格子が落ちるようになっていたのだ。


ちなみに、二人が落ちた穴は、指示して作らせたものではなく、工事を請け負った、からくり好きの大工、アトメの趣味だったとか。

町外れに在った小屋は、実験場だったらしい。

それを、勝手に利用されてしまったのであった。


さらに、ツクヨリがミノセを陥れるために行われた辻斬りの被害者は、無作為を装ってはいたが、三人とも 離宮の工事関係者で、口封じの意味もあったようだ。

次は、アトメが殺されていただろう。


離宮の仕掛けは、取り外すと、建物全体がおかしくなる為、カムライとノコノコ戻ってきたホジロが立会いのもと、仕掛けが発動しないように細工された。


全く迷惑な『修復』だが、ある部分を外したたけで、簡単に動かなくなった。

しかし、原理を知らない者には、二度と復旧させることは出来ないだろう。

何をどう外したのか、見たところでは全然解らない。



コクウ国内の不穏な動きは、一応、未然に防がれたといって良いと思われた。

問題は、ツクヨリを殺した者だ。


「陛下、ツクヨリを我が手で捕らえる気になりませんでした。私の失敗です」

カムライがうなだれる。

「うむ、捕らえたところで、極刑にするしかなかった。哀れな最期だったが、仕方あるまい」


「それにしても、切り口が見事すぎます。よほどの手練(てだれ)でしょう」

「単にツクヨリを切れる者なら、いくらもいるだろうが……」

「あれだけの腕となると、そう多くはいません」

「コクウの者とは限るまい」

王の指摘に、カムライは渋面を隠せない。

「他国から潜入してきたのでしょうか」

「ツクヨリが死んでしまったから、メギド以外の協力者がいるのか判っておらん。

その辺を狙って、工作に来たのかもしれん。

もう出会いの演出は十分だろう。ユキア姫には、帰ってもらおう。

危険は避けたほうが良い」




ユキアが、マホロバに帰る時が来た。

カムライが、護衛を率いて国境まで送ることになった。

ユキアは、馬車の窓から町並みを眺めて、感慨深い思いを抱く。

もう少ししたら、ここが自分の国になるのだ。


まもなく城下を出ようとするあたりで、物陰から 一行を、いや、カムライをじっと見つめる男に気づいた。

ユキアが観察していると、相手も気づいたように視線をユキアに向ける。

互いの目がぶつかり合い、男は、にやりと不敵な笑顔を見せた。


馬で脇を進むカムライに 知らせようとして、窓に手をかけると、男は不意に消えた。

黒ずくめの衣装に身を固めた、妙に気になる男だった。


消えた場所をじっと見ていたユキアが、振り向いて言った。

「ねえメドリ、お願いがあるのだけど」


「駄目です」

「まだ、何も言っていないわよ」

「姫様の身代わりは、お断りです」

「どうしても?」

「どうしても駄目です。お嫁入り前なんですから、少しおとなしくしていてください」

メドリは、(てこ)でも動きそうになかった。


ユキアを乗せた馬車は、一路マホロバに向かった。



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