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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第七章 企み
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お茶会の翌日に、あらかじめ予定されていた晩餐の招待があった。

メギド公からの招待である。

まだ噂は広まってはいなかった。

ウガヤ厳選のおしゃべり達は、必死に我慢の限界と戦っていた。


だから、ユキアと共にカムライが現れた時、メギド公は、いたく驚いた。


「ユキア姫の護衛についてきました。護衛兵とでも思ってもらえばいい。気遣いは無用です」

「いいえ、そうもいきません。しばしお待ちください」

ユキアが、あたふたと引っ込むメギド公を目で追っていると 、廊下の端にちらりと動いた人影に気付いた。


メギド邸にぶらぶらと居ついてしまったモクドの巫女 イマナジが、ユキアにもう一度会いたいというのが、その日の招待の理由だったが、他にも何かありそうな、かすかに不穏な気配がした。


「席と料理を一人分追加じゃ、はようせい」

がさつな怒鳴り声が、奥から聞こえた。


貴賓室と呼ばれているらしい小部屋に通される。


窓がほとんど無く、壁には何枚もの鏡が飾られていた。

すっかり日が沈んで、一つしかない小さな窓も、外は暗闇で 何も見えない。


モクドの巫女、メギド公と妻、妻の複製かと思うほどそっくりな長女、そして、十人前に毛の生えた といわれている末娘が参加した。

何処かしらの鏡に不細工な母子が映りこんで、なかなか圧倒される光景になっている。

料理は、料理好きの末娘が、つい先ほどまで調理場で采配を振っていたものだという。



食事会は、ある人物に頼まれて開いたものだった。

食事会と寝室を一つ用意してくれ と言われて、どんな目論見かも聞かずに引き受けた。

が、メギドにも思惑がある。

巫女のイマナジが末娘に会って、いい人相をしていると言ったのだ。

一国の民の心を、それも、マホロバのような大国の民心を、その手中に握ることが出来る相だと。

もしも、あっちが失敗しそうになったら、乗り換える手もあるかもしれない。

メギドにしては珍しく、大雑把ながらも布石を打とうとしていた。


「殿下、腰のものを衛士にお預けください」

「わたしは、姫の護衛に来ている。剣が目障りなら、部屋の隅に退いていよう」

カムライの鋭い視線に、メギドは逆らえない。

「いえいえ、かまいません。どうぞ席に」

あたふたしながら、自ら席に案内した。


食事が始まった。

工夫の凝らされた料理で、味も洗練されている。

料理好きを自慢するだけのことはあった。


「今日は、翠玉の首飾りはなさっておられぬのじゃな。残念。拝見したかったのだが」

巫女のイマナジが言うと、メギドの手がぴたりと止まった。

明らかに怪しい。

「失くしてしまいましたの。わたしも残念です」

あとは、もっぱら、出てくる料理の話に終始した。


ある料理が出たところで、ユキアの眉がわずかに顰められた。

が、陽気な口調で、隣のカムライに話しかける。

「あら、殿下のお皿には茸がついているのですね。私のお皿には 無いわ」

「茸……、そんな勝手なことを 誰が……。わたしの献立には入れていなかったのに」

末娘が、小さな声で不思議そうに呟いた。


「殿下、お皿を替えてください。わたし、茸が食べたいわ」

言って、ユキアが強引に皿を取り替えた。

口に入れようとした、その時、

「いけません! ユキア姫」

ふらりとツクヨリが現れた。


「それは毒キノコです。メギド公が、謀反を企んでいます」

メギドの顔面が、みるみる蒼白になっていく。

何か言おうと口を開けるが、ぱくぱくと金魚のように動くだけで、声も出ないらしい。



メギドは驚愕していた。

この食事会と寝室を所望したのは、ツクヨリなのに、突然、何を言い出すのだ。

末娘を王妃にしたくはないかと誘っておいて、いまさら切り捨てるつもりか。

あれこれと力を尽くし、これまで随分と役に立ってきたはずだ。

なのに、この小僧はわしをコケにしたのか。

くそっ、何を考えている。


頭の中には言いたいことが山ほど駆け巡っていたが、口に出せたのは、一言だった。

「知らん。わしは謀反など 知らんぞ!」


わめくメギドを冷ややかに見据えて、ツクヨリは怒りに燃えていた。


計画が狂った。

兄上が来たりするからだ。

兄上さえこの場にいなければ、さりげなく現れて、食後の酒にこっそりと眠り薬を入れ、ユキア姫を我が物にしてしまえたものを。


何処まで私の邪魔をするつもりだ。

たまたま先に生まれたというだけで、何故、カムライが皇太子なのだ。

ただの(いくさ)馬鹿が、何故、マホロバの姫まで手に入れる。

許さない。


荒れ狂う心を優しげな顔に隠し、ツクヨリは部屋に踏み入った。


「証拠があります。メギドの部屋で見つけました」

懐から、布袋を取り出した。


メギドは、バカの一つ覚えのようにわめき続ける。

「知らん、わしは知らん。翠玉の首飾りなど知らんぞ」


他の全員が、

(あちゃー、やっちゃった)と思った。

目に見えているのは、ただの布袋。

中に首飾りが入っている などとは、持ち主にしか分からない。


ツクヨリが、ゆっくりと袋を傾け、しゃらりと首飾りが姿を現した。

「あなたが盗ませた、ユキア姫の首飾りですね」

言いながら、ツクヨリは、金の鎖を左の手首に幾重にも巻きつけ、まるで腕輪のようにして掲げて見せた。


重たげに下がった『妖精王の瞳』が、大きな蛍ででもあるかの如くに 瞬く。

そして、異変が起きた。


優しく、どこか悲しげだったツクヨリの面差しが、悲しみだけを強く残して、俄かに、夜叉に変じた。


嫉妬に狂った夜叉の姿が、壁の鏡にいくつも映し出された。

メギドの妻と長女が、喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げる。

末娘は、呆然と見入るばかりだ。


皆の様子を不振げに見ていたツクヨリも、やがて己が姿を映す鏡に気づいた。

人の動きにつれて揺らめく明かりが、さらに怪しく夜叉を映し出す。



「久しく眠っておった『妖精王の瞳』が目覚めたな。身に着ける者の真の姿を見せる。宝玉の力じゃ」

イマナジが、うっすらと笑みを浮かべ、モクドの宝だった翠の玉を、感慨深げに見ていた。



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