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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第七章 企み
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「何かの間違いか、あるいは……」

「陰謀……」


(深窓の姫君でおっとりしているのかと思ったら、こんな話も出来ちゃうのか。いやあ、案外頼りになるなあ)

などと思いながらカムライがユキアを見つめていると、メドリが割り込んできた。

「私からも一つよろしいですか」


駄目だという理由もないし、弱みもあるので、仕方なくうなずいた。

「小耳に挟んだのですが、姫様とツクヨリ殿下が相思相愛で、結婚するかもという噂が流れているらしいのですが」

「ええ――っ! 本当ですかっ、そ、そ、相思相愛……、まさか!」

あまりの驚きように、メドリのほうが驚いた。

ユキアが、すいっと詰め寄る。


「そんなわけ無いでしょ。

助け出された時に、一緒に馬に乗って 帰ってきたのを見られてしまっただけです。町中をゆっくりと進んでいましたから、大勢の人たちに見られてしまいました。

殿下。お城の庭で、わたしにお聞きになられましたよね。国同士が決めた結婚は いやではないのかと。

わたしもお聞きします。

殿下はどうなのですか。わたしがお嫌いですか。結婚するのはお嫌ですか」


無防備なところを突かれて、真っ正直に答えてしまった。

「困った事に、嬉しいです。だから困っているのです」

カムライは全身全霊、おまけに、全力で困っていた。


ユキアは、いい流れだと思った。

今なら言える。わたしがユンだと告白できる。

「殿下、実は……」


その時、

「失礼します。ユキア様にお客様がお見えです」

迎賓館の使用人が来た。


「どなたがいらしたのかしら」

「ツクヨリ殿下です」

カムライが凍りついたが、ユキアは平然と言った。

「お会いしたくありません。お帰りいただいてください」


使用人が下がっていった後、メドリは、ホジロの言葉を思い出した。


「ホジロが、早く噂を何とかしないと、お二人の結婚にケチがつくと言っていました。

弟君の想い人を兄君が取ったなどと噂になれば、結婚しないほうがましだと」

「確かに。何か手を打ちましょう。ウガヤに相談しておきます」


カムライが出て行き、ユキアは告白しそこなった。



しばらくして、先ほどの使用人が花を持ってきた。

見事な白菊。

「これを姫君にと、お預かり致しました」


ツクヨリが自ら改良したという菊だろうか。

庭の案内を断って帰ってきたユキアには、はじめてみる花だった。

普通より丈の短い茎に、ふっくらと咲いた花から、上質の酒のように芳しい匂いがした。

酔ってしまいそうだった。



それから三日間、毎日同じ白菊が届けられた。

そして、またもや辻斬りが一件起きた。


三日後に、ユキア主催のお茶会が催された。


こうした行事のために用意されている迎賓館の特別室に、招待客たちがやってきた。

急遽使いが来て招待されることになった高官や、町の有力者夫妻の何組かが、出迎えたユキアに挨拶をしては席についていく。


上品に取り繕ってはいるが、時折盗み見るような視線に、押さえきれない好奇心が見え隠れしていた。

ほぼ全員が、例の噂を知っている。


カムライが入ってきた。

略式ではあるが、正装に近い凛々しいいでたちに、 自分の衣装を心配そうに見直していたりする招待客もいる。

「本日はご招待いただき、ありがとうございます」

まっすぐに、ユキアに対した。

「お越しいただき、恭悦に存じます」

ユキアが返して、そのまま見詰め合う形になった。


『為すべきことを してください』

メドリを通じて届けられた伝言は、そっけないほどにつれない一言。

それきりユンは姿を現さない。

ホジロは逃げた。


一国の皇太子である。

カムライは、おのれの責務を重々承知していた。

承知していながら諦めきれない想いだったのだ。

しかし、さすがに、もう道は無い。


カムライは、為すべき事を為しに来た。


短い周期で、しかも重なっていたりもしたが、心奪われる女性に立て続けに出会ってしまった遅い春。

初恋は成就しないものだ、と誰かが言っていた。

二度目の恋を成就できる自分は、幸せなのだろう。

自分だけではなく、目の前のこの人も幸せにしよう。

二人で一緒に幸せになろう。


(さようなら、ユン……)


一瞬、谷間に咲く百合の花を思わせるような、はかなげな表情が浮かぶが、ユキアのふんわりとさりげない笑顔に励まされて、カムライは口を開いた。


「ユキア姫、わたしと結婚していただけますか」

突然の、思いもよらぬ求婚に、会場が静寂に包まれた。

「はい、喜んでお受けいたします」

恥ずかしそうな笑顔で答えた一拍の後、祝福の声と喜びの歓声に、会場が騒然となった。


招待客は、ウガヤが検討の上、選んでいた。


日ごろから顔が広いことを自慢する人、

知っている事はもちろん、よく知らないことまで話したくて仕方がないおしゃべり、

噂が三度の飯より好きだと公言する人、

そういう人たちが、このお茶会の招待客だった。

さらに、給仕や世話係についている使用人たちも、ひそかに同じ基準によって選ばれていた。

彼らが、目撃した世紀の瞬間を黙っていられるわけが無い。


「公式発表されるまでは、まだ他の方々には言わないでください。

コクウの王子とマホロバの姫ともなれば、本人同士の意思だけでは話が進みません。国家間の交渉が必要になります。上手く事を運ぶ為に、くれぐれも、まだ内密にしておいてください」

と釘を刺されたが、彼らにとっては拷問に等しい。

いつまで持つやら、見ものであった。


当日と翌日は、かろうじて持ちこたえていたらしい。

中には、自室に鍵をかけて閉じこもり、七転八倒していた者もいたとか、いなかったとか。

町外れの山に入り、大木の根元に穴を掘って叫んだ者がいたとか、いなかったとか……。



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