表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第七章 企み
18/30


「ユキア姫を救い出したのは、ツクヨリだったのか……」

カムライの報告を受けて、カリバネ王は絶句した。


人払いをして、部屋には二人きりだった。

王は苦悶の表情で、カムライはどこか泣きそうな顔で、沈黙が長く続いた。


王の密命を受けた手だれが探しても、一晩以上かかった探索である。

たった一人の衛士だけを伴って、あっさり見つけた意味を、見逃すわけにはいかなかった。

「単にユキア殿が好きになったというだけならまだしも、やり口を見れば そうではあるまい。平気で姫を危険にさらしているように思える」

「……」

「カムライ、おまえが姫を守れ。それしかあるまい」



就寝前にメドリが戸締りをし、廊下の様子も確認しようと扉を開けると、カムライがいた。

「殿下! なんですの、こんな夜遅くに」


「うむ、ユキア姫の護衛をしに泊り込むことにした。向かい側の部屋にいるから、何かあったら、いつでも呼んでくれ」


「殿下がじきじきに護衛ですか。 まあ、昔話でも、姫君を守るのは王子様と相場が決まっていますけど、向かいの部屋は、窓も無いような召使用の部屋ではありませんでしたか」

「寛ぐために泊まる訳ではないから、それでいいのだ」

「では、姫様にもそのようにお伝えします。お休みなさいませ」



「おはようございます。殿下」

「メドリ、なにがあった!」

カムライの部屋を訪れたメドリに、噛み付きそうな勢いで返事をする。


「わっ、大丈夫です。何もございません。朝ごはんがまだでしたらご一緒にどうですか、と姫様が……、是非、お話もございますから」


朝からの呼び出しに戸惑いながら、身支度をしたカムライは、ユキアの部屋に赴いた。

食卓には、すでにカムライの分も用意されていた。

いつもの朝食よりも豪華だ。


イヒカが聞いたらがっかりするだろうが、実は、コクウ王家の食事は、安全が考慮されているだけで、庶民と大して変わらない。

目端の利いた庶民のほうが、むしろ良い物を食べているかもしれないくらいだ。


「今朝は殿下とご一緒しようと思って、いつもより豪華に用意させました」

ユキアが言ったことから、マホロバでも似たようなものなのだろうと察せられた。


食事が始まった。

いつもよりさらに美味しく感じるのは、隣にユキアがいるからだろうか。

太ってしまいそうだ。

カムライの心境は複雑である。

ユキアも意外に健啖家だ。食卓上の物が勢いよく消えていく。


「わはっ、けっこう豪快に食べるんですね」

「殿下は本当に美味しそうに召し上がるから、見ていて気分爽快です」

「そうかい、なんちって」

「あっ、この付け合せの白いのが美味しいです」

「どれ? あっ、美味い美味い」


あほくさいくらい楽しそうな朝食が終わって、カムライが聞いた。

「さて、お話というのは、なんでしょうか」

「内密な話です。メドリ以外の者は下がりなさい」


三人になると、カムライはドキドキしながら、あれこれと考えてしまった。

メドリからユンの事を聞いて、文句を言われるのだろうか。

正直に言ってしまって良いものか、しかし嘘をつくのは下手だし、ばれたら却って怒らせちゃうかもしれないし、どうしよう。


「いくつか気になっている事がありますので、お話しておいたほうが良いかと思います」

冷静なユキアの口調に、思わず緊張してしまうカムライだった。


「お城のお茶会の日に……」

(そら来た。あの手紙だ。どう説明しよう)

カムライは覚悟も決められないまま、ユキアの言葉を待った。


「空き巣に入られましたの」


「えっ、空き巣ですか。取られた物は?」

思わぬ話の展開に、別の緊張が走った。


「殿下は、ほとんどわたしをご覧になりませんでしたから、覚えていらっしゃらないかもしれませんが、祝賀式典と晩餐会で身に着けていた翠玉の首飾りが、盗まれました。他のものは手付かずで残っていますので、首飾りが目的だったのだと思います」

カムライは覚えていなかった。


「首飾りだけが盗まれたのですか」

「はい、大変に失礼な事を申し上げますが、晩餐会の席で、メギド公が、奇妙なくらい興味を示していらしたのが気になっています」


「いえ、失礼ではありません。全然失礼ではありません。あの人は、世の中に宝玉など無ければ良いのに と言った人です。

大勢の娘たちからせがまれて、すっかり嫌になってしまったようだ。首飾りに興味を持つ御仁ではない。 仰るとおり奇妙です」

奇妙ではあるが、理由が皆目分からない。見当もつかなかった。


「事を荒立てないほうが良いと、黙っておりましたが、 殿下にだけは申し上げておこうと思いました」

「配慮して頂き、感謝します。申し訳ありませんでした。 早速調べて探し出し、取り返すよう算段しましょう」


盗ったのがメギドにしろ、ただの泥棒にしろ、困った事をしてくれた というしかない。

コクウの面子(めんつ)が急降下している。


「はい、あと、言い(にく)いことばかり申し上げるようですが、お聞きしたいことがございます。辻斬りの件です」

ユキアは、ちっとも言い難そうではなかった。


「そういえば、被害者を最初に見つけられたのでしたね」

「はい、観劇の帰り道で」

「では、辻斬りが言った言葉というのもお聞きになった」

「はい」


言い難いと言いながら、まっすぐに聞いてくるユキアに、困ったことだが、ますます好感をもった。

ユンのことを訊かれても、言い逃れができそうにも無い。


(いくさ)の最中の事とはいえ、ミノセは一番慕っていた男を、目の前で、無残な形で亡くしています。悲しみから立ち直っていません。

あれは、見かけは強そうに見えても弱い。

しかし、己の弱さもまた良く知っています。そこが、ある意味、わたしより強い。変な説明ですが」


「いいえ、なんとなく分かります」

「一見、今のミノセは、いかにも辻斬りをしそうに見えても、実は一番しそうに無い事だと思っています。何かの間違いか、 あるいは……」


「陰謀……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ