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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第五勝 襲撃
13/30


ノミ川砦で腹をすかせていた孤児のイヒカは、 カムライの計らいにより、城の調理場の使い走りをしていた。


床掃除やら荷物運びやらのはしたな仕事ばかりで、もちろん、王様がなにを食べているかも覗かせてもらえない。

残り物ばかりの食事では、目標の「お腹いっぱい」には程遠いが、飢える心配は無くなった。

何より、自分が食べる為だけではなく、多少とも誰かの役に立っているのがうれしい。

自分にできることを見つけては、楽しく働いていたら、大人たちが少しずついろんなことを教えてくれるようになっていた。

名前も覚えられて、ますます重宝にこき使われている。


「イヒカ、注文しておいた大鍋が届いてないんだ。ひとっ走りして催促して来い。出来てるようだったら、持って帰って来い。代金は城の会計に回ってくるから、受け取るだけでいい。夕方までには帰って来いよ」

ということは、急がなくてもいいという意味だ。


近頃は、こうやって、たまに息抜きをさせてくれようとする。

何も言わないと、イヒカは、全速力で行って全速力で帰ってくるからだ。

そう言われても、イヒカが遅くまで帰らないことは 無い。

一人で ぶらぶらするよりも、みんなにこき使われているほうが楽しいからだ。



言いつけどおり店に着くと、大鍋は出来上がっていた。

布に包んで背負い、歩き出した目の前を、覆面の人物が 通り過ぎた。


「あっ、ユン姉ちゃん」

ホジロに教育的指導を受けて、こう呼ぶようになった。

助けてもらったおかげで、今はとても楽しく暮らしていると報告したい。

もう一度、ちゃんとお礼も言いたい。

だが、イヒカの声が届かなかったのか、走るようにどんどん遠ざかって行く。

重い鍋を背負って、必死に追いかけた。


やっと追いついて、息を切らせながら袖をつかむと、

「何よ、あんた。あっちにお行き、しっしっ」

違った。ユン姉ちゃんじゃない。

でも、どうしてそっくりな恰好をしているんだろう。

あれっ、ここは何処だ。迷ったみたいだった。


いつもお使いに行く店以外には出歩くことが無いから、走っているうちに知らない場所に来てしまい、分からなくなったのだ。

あたりを見回すと、二つほど先の通りにカムライの姿が見えた。

殿下の後を付いていけばお城にたどり着くかもしれないと、安易な思い込みで歩き出した。


ところが、周りの風景が寂しくなっていく。

町外れのようだった。


気がつくと周りには、戦火の跡が残ったまま片付けられもせずにある残骸が、いくつか立ち並んでいた。

雑草が生い茂り、それらの隙間を埋めようとしているばかりか、焼け落ちた建物の間からも容赦なく伸びている。

かろうじて家の形をしている物も、何時崩れ落ちても不思議はないほどに痛んでいた。


それらの奥に一軒だけ焼け残っている、随分と寂れた小屋があった。

そこにカムライが入って行くのが見える。

間違いに気づいた。


がっかりして誰かに城へ行く道を聞こうとしたが、人通りが全く無かった。

畏れ多いが、あの小屋に行って殿下に聞くしかない。

恩人だし、気さくな殿下だからまあいいか、と再び歩き出そうとした時、小屋の影から男が出てきた。

扉の中を覗いて、ニッといやな感じの笑みを浮かべる。


イヒカは 隠れた。

あの男は見たことがある。砦で 追いかけてきた男たちの一人だ。

これは変だ。


遠回りして小屋の後ろに回り、板壁の隙間から覗いてみた。

誰もいない。


荒れ果てた小屋の中には、不相応な新しい床が見えるだけで、誰もいないばかりか何も無かった。


カムライ殿下は、何処に行ったのだろう。

何がどうなっているのか、全っ然分からない。

誰かに相談しなきゃ、と思ったその時、後から頭をぽんと叩かれた。


突然、後ろから頭をたたかれたイヒカは、飛び上がりそうになって驚いた。

振り向くと、ホジロがのんきな顔で 立っていた。

「よお、元気……」


ホジロの口をあわてて塞いで小屋から離れると、訳がわからないまま、見たことを全部話して相談した。

「ホジロさん、どうなってるのかまるで分からないけど、いやな感じなんだ」


「確かに、いやな感じ満載だ。ユンに知らせなきゃ。イヒカ、迎賓館まで走れ!」


「ごめん。俺、大鍋を背負って歩いてきたから、もう限界だ。それに、道が皆目分からない」

「分かった。僕が行くよ。焼け跡に隠れて見張ってて」

結局、ホジロが知らせに行って正解だったのだろう。

イヒカはメドリを知らないし、迎賓館も追い出されていたに違いない。



手紙の差出人は、『ユン』となっていた。

結婚したらもう会えないから、最後に、どうしても一度会いたい、という内容だ。

上手くはない字で書かれた、切ない恋文に、どうしようもなく違和感がある。

罠かもしれないと思った。

だが、ユンに悪い事が起こっている可能性も否定できない以上、放って置くわけにもいかなかった。

カムライは、用心して出かけた。


手紙にあった小屋は、長く見放されていたような小さなあばら家だ。

物陰に潜む気配があったが、おそらく一人。

いつでも剣を抜けるように、油断無く踏み入った。

閉じ込められても、あの扉ならば蹴り破るのも簡単だ。

しかし、何も無かった。

気配すらない。


数歩進んだところで、床が消えた。

「痛い、それより悔しい。同じ手に引っかかった。くそっ!」


今度は独りだったが、さすがに二度目だけあって、落ち着いていた。

それに、こちらは、ほんの少しだが、どこかに隙間があるようだった。

しばらくして目が慣れてくると、ほんのりとした明るさがあった。


短刀を壁に突き刺して目印にし、上から下まで探った。

案外に狭かったが、正真正銘出口が無い。

掘った人間が律儀なのか、小屋に合わせて方形に近い形のようだ。

四箇所、角度が狭くなった場所がある。

そこの両側の壁の所々を短刀で削って凹みを作り、足がかりにしてよじ登ろうと試みた。


闇の中での作業は、困難を極めた。時間がかかりすぎる。

無理かもしれない。



イヒカは、小屋の見えるところに隠れて、ホジロが戻ってくるのをじっと待っていた。

あの男が入り口を見張っているので、近づけない。


どのくらい待っただろう。

道さえ判れば、自分が走ったほうが速かったかもしれないと思い始めたころ、男が五人来た。

うち四人は、布に包んだ細長い物を持っていた。

かなり長い。


男たちは、辺りに人気が無いのを確信しているのか、普通の声で話し始めた。

「上手くいったか」

荷物を持たない男が、見張りに聞く。

「はい、首尾は上々です。見事に落ちました」

「おまえは戻っていいぞ。おまえたち、じっくり狙って確実にしとめろ。開けてしばらくは、眩しくて動けないはずだ。隠れる所も無いから、慌てる必要は無い」

見張りを返し、四人の男たちに言った。


布を解いて出たのは、弓だった。

それぞれが筈に弦を掛け、矢筒を持って小屋に入って行く。

イヒカはこっそりと裏手に近付き、壁の割れ目から覗いた。


真ん中を避けて四人が四方に立つと、矢を(つが)えて待機する。

残る一人が、その様子を確認して、壁の仕掛けに手を伸ばした。

床が開いた。

男たちが 一瞬戸惑う。

そこに居るはずの カムライが 居ない。


そのとき、つむじ風のように突っ込んできた二人がいた。

覆面姿のユキアと、侍女の姿そのままのメドリである。

ユキアが立て続けに二本の弦を切り、メドリも一本切った。

残る一人も近すぎる相手に、弓を捨てて剣を抜く。


「無事なの?」

「ユン! 」

穴の中から答えが返った。

広くはない小屋の中に、剣を持つ人間が七人。

おまけに、床の真ん中には大きな穴が開いている。

誰もが、不用意には動けない。

一人が意を決して、ユキアに切りかかった。

かわされてよろめいた男を、メドリが蹴飛ばして穴に落とす。

男は、待ち受けたカムライに一撃で倒された。

「うむ、一丁上がり」


戦いの態勢は少しずつ動いて、小屋の外に移っていく。

二人と一緒に駆けつけていたホジロがあわてて逃げ、裏手に隠れていたイヒカのもとに行った。

「ホジロさんは戦わないの?」

手に汗を握って見ていたイヒカが、飛びついて言った。

「弱いから」


「じゃあ、あれ取って。俺、届かないから」

小屋の外壁に、荒縄がかかっていた。

ホジロがはずし、二人で所々に結び目を作る。

それを持って、見つからないように進んでいった。

イヒカは、布に包まれた大鍋を被っている。

「いいな、それ貸してよ」

ホジロが大鍋を欲しがったが、

「やだ」

にべもなく断られた。


残る敵は二人。強そうなのが残っている。

イヒカたちは、見つからずに中に入ると、縄を柱に結び、穴に投げ入れた。

倒れた敵が一人転がっているので、びくびくものだ。

カムライが縄を伝って上がってきた。外に飛び出す。


「おまえは何者だ」

一味の頭目と思しき男が、ユキアと対峙して吠ほえていた。

「聞いてどうするの」

「おまえの墓に、彫ってやる」

「じゃあ、怪傑赤瑪瑙頭巾なんてどうかしら」

言い終わらぬうちに跳んだユキアが、剣をはじき飛ばした。


「うわあ、かっこいいなあ、怪傑赤瑪瑙頭巾。いいよそれ」

「イヒカ、かっこいいのは、そこなの」


倒れた仲間の剣を拾って、再度攻撃しようとした男は、あっさりカムライに殴られて気絶した。


それで全員やっつけたはずだったが、小屋の中に倒れていた男が、むくりと身を起こし、剣を握る。

目の先には、カムライと、その背中に隠れるようにくっついているイヒカがいた。


(小僧、邪魔だ。まあいい、一緒に串刺しになれ)


男は、力を振り絞って、剣を飛ばした。




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