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赤瑪瑙奇譚  作者: しのぶもじずり
第四章 事件
10/30

宿に着いて、帳場に姫様からの(ねぎら)いをことづかってきたと言うと、奥から驚きの声が上がった。


「ユン!」

カムライだった。

後に困った顔をしたホジロもいる。


「ユン、戻ってきたのか。また助手をするのか」

ユキアの胸に赤瑪瑙があるの見て、カムライが嬉しそうに眺めた。

「いえ、今度は姫様一行の衛士を、臨時だけど」

「ユン、会いたかった。ホジロが意地悪で、ユンの住まいを教えてくれないのだ」

「住所不定なのよ。ちょっとこっちに来て」

ユキアは、カムライを物陰に連れて行った。 喜んで 付いて来る。


「ねえ、わ……ユキア姫と結婚したら、新居は何処になるの? 教えて。姫様に頼まれたの」

「あ、あのう、 断りたいのだ。いろいろ手違いが…… と言うか、思い違い……ん、何だろう、とにかく 私はユンがいいのだ。好きだ」

「……………………………………えっ」


ユキアは焦った。

わたし、結婚前に浮気されてる? 

それも、相手がわたし。

冗談じゃないわよ、と思うわけだった。

でもこの状況で、自分がユキアだとは言いづらい。

ええい、正体不明の覆面女に向かって、なにトンチンカンにとち狂っているのよ。

浮気は許さないわよって、言ってもいいのだろうか。複雑……。


ややこしいので、一時棚に上げておこう。

「うるさいわねえ、それより新居は何処になるのよ。教えなさい!」

カムライは、勢いに負けて、春の離宮の場所を詳しく説明してしまった。


「ユン、私の言ったことを、聞いているか? 春の離宮をどうするのだ?」

「明日の朝、調べに行ってくるの」

「では、案内する。夕方までは空いているのだ」

知っている。

夕方から、祝賀興行の舞台を一緒に見る予定なのだ。


陰でこそこそしている二人をみたメドリが、ホジロの腕をつかんで、小さな声で問い詰める。

「あの人、カムライ殿下よね。仲がいいじゃないのよ。それに、王子様ったら顔を上気させて、まるで 恋する青年みたいじゃないの」


「何でもかんでも僕に聞かないでよ。そういう人間関係とか、人情の機微とか、惚れたはれた には詳しくないんだ。ねえ、マホロバのウケラ城の住所って分かる? あそこは何丁目何番地になるの? しつこく住所を聞かれたけど、僕そういえば 知らないなって思ってさ」


ホジロは、どうでもいいような役に立つのか立たないのか分からないことには、変に詳しいくせに、実生活上のこまごましたことには、本当に疎い。

はっきり言って 馬鹿に近い。


「じゃあ、手紙はどうやって出しているの?」

「マホロバ王国ウケラ城宛で、……あ、それでいいのか」

コクウ担当の調査責任者が出てきて、話はそれまでになった。


翌朝、春の離宮前には、なぜかホジロまでが来ていた。

しかし、春の離宮は厳重に閉じられ、あちこちに鍵までつけてある。


「どうなってるの。いつもこんななの?」

「いや、管理している留守居役が居るはずなんだけど」


仕方なく周りをうろついてみると、門の脇の門衛詰め所に、手持ち無沙汰にしている門番とおぼしき男が 一人いた。

「あれ、一人なのか? 何故閉まっているのだ。中を見たいのだが」


「あっ、これはカムライ殿下。すみません。修復工事を請け負っているアトメという大工が、工事中は危険だからと立ち入り禁止にしてしまったのです。大掛かりな工事になっておりまして、メギド様からも言うとおりにしろとのお達しなのです。申し訳ございません。しかも、今は内装用の資材が遅れているとのこで、工事が休みに入っていて、開けられる者もご案内できる者も、居りませんのです」

「分かった」

これ以上この男に何か言っても、無駄なだけだろう。


さっさときびすを返すカムライを追いかけて、ユキアが言った。

「ますます中が見たくなったわ。いったいどんな工事をしているのかしら」

「ユン、ホジロ、こっちだ。任せておけ」

二人を連れて、ずんずん歩いていくと、裏木戸のようなところに着いた。

「ここで少し待っていろ」


カムライ一人で どこかへ行ったが、めきっ、どさっ、という音が、少し離れたところから聞こえたかと思うと、木戸が開いて、隙間からカムライの手が出て、手招きをした。

入ってみると、 かなり広い。

余った資材らしきものが、庭にいくつか積まれている。

門の厳重さに比べて、中は、がらんと無防備に人気(ひとけ)が無い。


「こっちだ。ああ、やっぱり入れる」

三人で、誰もいない離宮の中を 歩き回った。


「あれっ? いったい何処を補修したのだろう。ほとんど変わっていない。第一、この離宮は一番手入れが行き届いていた。宮城を先に補修したほうがいいくらいだったのだ。何処を直したのか分からない」

カムライは不審そうに、触ったり眺めたりしながら進んでいった。


いつの間にかホジロがはぐれて、二人になった。


応接室に使っていた部屋に入ったとき、やっと以前と変わっているものを見つけたカムライが、嬉しそうに 何かを動かした。

「あっ、これは前には無かったな。 おお、動くぞ、何だこりゃ。分からん」


そうして、二人揃って、一歩部屋の奥に踏み出したとたん、足元の床が消えた。

「うわあ――――っ」

落ちた。

そんなに高くは無いが、不意を突かれて、受身も取れずに転がる。


「痛てて、ううっ、ここは何処だ。 真っ暗で何も見えないじゃないか。ユン! 大丈夫か」

「ううっ、頭ぶつけた」


何処にも隙間が無いのだろう。

確かに、これを作った者はいい仕事をしている。

目の前にかざした自分の手さえも見えない。真の暗闇だ。

ユキアは、覆面を解いて頭を調べたが、幸い傷にはなっていないようだ。

どうせ何も見えないから、そのまま覆面を懐にしまう。


「何とか大丈夫みたい」

手探りしてみる。

下は土のようだ。

落ちた場所からは、他に触れるものが無い。


「きゃあ、お尻触るな!」

「ご、ごめん。だって見えないのだ。怖いから手を繋ごうとしただけだ。本当だ。そちらから手を出してくれ。 私は何処を触られても嬉しい、違った、 大丈夫だ。うぐっ」


ユキアの手が、カムライの顔面にぴたりと当たった。

その手をつかんで繋ぐ。ゆっくりと立ち上がった。


「ホジロー、助けてー」

二人で叫んだが、離宮は広い。近くに居ないようだった。


「全く、補修だなどといってこんなものを作っていたとは、最低だ。 しょうがない、手探りで出口を探そう」


闇の中をゆっくりと進んで、壁を探り当てた。

それを離さぬように伝って、進む。

時々声をあげて、ホジロを呼んでみるが、返事が返ってくることは無かった。

役に立たない男だ。


壁伝いにかなり進んだはずなのに、何処まで行っても変化が無い。

互いに繋いだ手のぬくもりと声が無ければ、心細いことこの上ない。

「ねえ、もしかして、同じところを何周もしているのじゃないかしら。このちょっとでこぼこした感じ、さっきも触ったような気がする」

「うん、ということは出口が無い。……一休みして、座って考えよう」


カムライが言って、その場で腰を下ろし、あるはずの壁に背を預けようともたれかっかったが、 壁は無かった。

どたりと転がる。

手を繋いでいたユキアも引っ張られて、カムライの上に倒れこんだ。


「うわあ、穴が開いている。こんなに低い位置にあったから素通りしていたのだ」


四つん這いになって探っていたら、もっと早くに気づいたかもしれない。

真っ暗闇の中で立ち上がる勇気があった為に、余計に手間取ったといえよう。

手で探ってみる。

狭い坑道のようだ。這って進むしかない。


探っていた手を、胸の上に載っているユキアの顔の辺りに伸ばしてみた。

「うふ、ユンのほっぺは、すべすべで柔らかい。覆面をはずしたのか」

逃げられた。


「ユン、何処だあ――っ!」


「行ってみましょう。はい進んで頂戴、付いていくから。それとも、そこをどいてくれたら、わたしから行くわよ」

「いや、私が先に行く」


坑道は、ゆるい上りになっていた。

「ユン 、居るか」

時々、心配になったカムライが声を出して確認するのに、ユキアが面倒くさそうに返事をし、二人は進んでいった。


やがて、カムライが止まった。

「あれ、突き当たった。行き止まりかなあ……。あっ、竪穴になっている」

立ち上がって、腕を伸ばしてみる。

塞いでいる物を持ち上げると、一気に光が押し寄せた。


目が慣れるまでしばらく待って、よじ登るように外に出た。

そこは裏木戸の近くだった。


ユキアを引き上げようと、振り向いたが、 すでに覆面を被ったユキアが、自力で上がったところだった。

カムライが一人で、ぶつぶつ言っている。

「覆面なんかしなくていいのになあ」

「落とし穴があるなんて、物騒な離宮だわね」

ユキアが、かまわず文句を言った。


「私の知る限り、あんなものは無かったはずだ。あそこは応接室に使っていた部屋だが、 気に入らない客なら、通す前にとっ捕まえるのが、我が王家の家風だ。修復とかいって変、な仕掛けを造ったものだ。 要らないのになあ、危ないし。出られてよかった」


そういえば、もう一人いたはずだ、と二人が思い出した時、 ちょうどホジロがぶらぶらとやって来た。


「いやあ、すごいね。まるでからくり屋敷だな。面白すぎる。作った人に会いたいなあ」

どうやら、他にも いろいろあるらしい。



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