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亡きおばあちゃんを悔いる

作者: 坂木 涼夜

 僕にはおばあちゃんがいた。元気に畑仕事をこなす人だった。小さい頃からその姿のおばあちゃんが大好きで畑仕事をよく手伝いをした。

 帰り道は畑で使う一輪車に乗り、おばあちゃんに押して貰いそこから見える景色はどこか新鮮で、魔法の絨毯にでも乗っているような気分になった。

 小さい頃の僕はそこに乗るのが夏休みの楽しみで毎年のように通ったものだ。

 でも10になる頃には僕はおばあちゃんの顔を見なくなった。夏休みに家族で行くおばあちゃんの家に同伴しなくなったからだ。

 二度と顔を見れなくなるわけじゃないしまあいいや。僕はそんな風に考えていたのだ。

 

 だけど去年。おばあちゃんが亡くなった。

 死因はよくある心不全。

 だから僕がおばあちゃんの顔を次に見たのは16になった時の葬式の時だった。

 目の前には亡くなったおばあちゃんがいる棺が置いてある。最後の立ち会いで棺に挨拶をする時間となり、僕は家族と共におばあちゃんの元に立つ。

 顔を見ると化粧で分かりにくいがやせ細っている。それでも魂の無い顔はどこか微笑んでいる。やせ細ったその体に当時の面影は無く、シワの数がだいぶ増えていた。僕は見ない間にいろいろあったんだろう。

 そんなおばあちゃんに会いに行かなかった僕は凄いほどの親不孝だ。


 最初は何が原因で会いに行きたく無くなったのだろう。反抗期だった事もある。でももっと別の何かがあったはずだ。しかし思い出せない。

 もやもやした気持ちが渦巻く中、葬式が終わってしまった。結局涙も流せなないままとなってしまった。


 休憩の時間、周りのどんよりとした空気の中一人涙も流せない僕はアウェー感からお手洗いへと向かう。

 トイレは良くある形で洗面台には鏡が設置されている。そこで僕は自分の顔を見た。

 良くも悪くも平凡。かっこ良くも無ければ悪くもない。目つきが少し鋭く多少の不良っぽく見えるかも知れない。子供の頃はもう少し柔らかかったはずなんだけど反抗期に睨む回数が爆発的に増えてしまったからだろう。髪型はまあボサボサで直した方がいいだろう。

 

 しかし僕は鏡の中の自分からすぐに目をそらした。そして舌打ちをした。

 わかってしまったから。なんで僕がおばあちゃんに会いたくなかったのか。

 顔だ。毎年しわの増えるおばあちゃんの顔を見るとどうしても自分の時が流れてしまった、僕が変わってしまったと思い知ってしまう。

 それがたまらなく辛かった。

 反抗期に入る前の僕は素直で優しかった。でも反抗期に入るにつれ僕の性格は荒れ始め、何かが変わってしまった。それは人にとっては当たり前で避けては通れない道なのかもしれない。でも変わってしまうのが恐ろしかった。その事実から目を背けていたのだ。

 

「僕は駄目だな」


 その理由だけでおばあちゃんに会いに行かなかったなんて自分が情けない。でもそれがいつの間にか意地にでもなっていたのかもしれない。

 でもそれがわかってよかった。わかったのならけじめも出来る。


「おばあちゃんに謝ろう」


 僕は前へと歩き出した。


 お墓で僕は最後まで残り、おばあちゃんに挨拶を告げる。


「おばあちゃんごめんなさい、僕はあなたの顔をちゃんと見れなかったんです。日々おばあちゃんの姿を見てるともうあの日には戻れないのだと気づいてしまう。それが嫌だったんです」


 でも、僕は言いかけて前を向いた。


「僕はもう変わってしまいました。だから僕はこれから自分が誇れるように変わりたいです。小さい頃におばあちゃんの一輪車に乗せて貰うのは楽しかったです。

 だから僕が結婚して子供を持ったら同じように一輪車に乗せます。今度は僕が押す係です。おばあちゃんみたく子供に好かれるよう頑張ってみます......だから」


 僕の瞳からは涙がこぼれ始め、体の奥から何かが込み上げて来る。


「今までありがとうございました。だから安心して見守っていてください。おばあちゃんが誇れるよう僕は自分を変えますから!」


 言葉を吐き出した僕はどこか気持ちの良い風にでも吹かれたように清々しかった。

 お墓の前で手を合わせた後、僕は前へと歩き出す。

 天国にいるであろうおばあちゃんに誇れるように。僕は前に歩き出すのだ。



 それから数年後、僕はとある喫茶店でバイトをしている。元々頭はいい方じゃないから一般会社とかは無理。なので出来る事から始めて見た。

 誇れるようになるまで道は長いけどちょっとずつ頑張ろうと思う。それが今は亡きおばあちゃんに出来る親孝行だと思うから。



 皆さんは大切な人を失った事があるでしょうか。ある人も無い人も生きている間は悔いなく生きてください。

 天国にいる人もそれを望んでいるはずですから。

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