第十死話 Iの言霊
空蝉【うつせみ】
…『現人』の訛った言葉。これらを掛けて、『空しい人の身』『魂の抜け殻』という意味からさらに転じ、セミの抜け殻を指して夏の季語としてよく知られる。
源氏物語では『空蝉』にて教養深い女性の異名として登場する。
「さて、これにて役者は出そろいました」
おっさんはおもむろに両手を広げて柏手を叩き、にやにやして言った。
実に奇っ怪。なんて奇談。まこと奇奇怪怪。訊いてわかる、読んでわかる。
そんな幻想グランギニョール奇劇の役者を務めますのは計十三名の闇の住人たちでございます。
うち、語り部となるのは、四の不吉なる数の役者たち。
かつて人であったという半妖半人。天際の雲児。
同じく半妖半人、雲児の片割れ。煙霞の空船。
人魚の姫、巽。
その従者にして、野心ある不死の男。柳。
彼らの口から語られるのは、過去と現在、二つに分かたれた物語。
一つは、消えた雲児を追う空船の追跡劇。
もう一つは、雲児と空船の正体に迫る巽と柳の回想と、亡霊からの逃亡劇。
物語は箪笥のように、彼らの記憶の引き出しを開けることで綴られます。
その引き出しを開ける狂言回しに、また二人。
黄泉にて名前を失くした船頭と、船頭の消えた過去を知るという同行者。
同行者は船頭に語り掛けます。
「思い出せ。これは、ぼくと、あなたの物語である」……。
ハテサテ?
これはいったい、誰の記憶の箪笥なのでしょう。
わたしにや、サッパリ、わかりゃあしませんが……。
……ああ、この物語に登場するのは、確かに十三名でございますよ。
百鬼夜行同盟や瀧川の村人のような端役は、もちろん含まれません。
しかし船頭と同行者は含まれての、たった十三名でございます。
エ? それじゃあ数が合わないって?
イイエ、そんなこたあ無いのです。
空船と雲児が、玖三帆と克己であるように。
人やものとは、呼び名は必ず一つ、という決まりはありません。
時と立場によって、下手人が父である場合もありましょう。
母が娘である場合もまたしかり。
しかして、ここらで解明編。
第二幕でございます。
タイトル元ネタ/愛の言霊(桑田佳祐)
次回予告
第三章『あなたはどうして生きている』
『焼けのが原』
※お盆と挿絵ストックのため、12日までお休みいたします。13日零時の更新をお待ちください。




