Ⅶ 戦闘開始の合図
他のお話が少し編集されています。
読み返して貰えるとありがたいです。
→本編へどーぞ
*
「え、なに、団長から?」
ワインボトルを片手に髭面の男は振り返る。
アーチ状の柱がいくつも連なる踊り場。そこから見える壮大な芝生と空を映す池。
差し詰めここは部屋の外と内の境といったところだろうか。
庭と室内をつなぐ曖昧な空間、壁を背にガーデンテーブルにワイングラスを置いて男はどっしりとチェアーに腰を下ろしていた。
が、突然の知らせに阿呆な顔をする。
その連絡をした白隊服の男は少し申し訳なさげに声を漏らす。
「ええ、アイザック団長が至急王城へ来いとのことでして」
天板にモザイク模様の大理石が貼り付けられたクラシカルなデザインのテーブルには簡単な果物がバスケットに仲良く入れられ甘酸っぱい香りが漂っていた。
「今日休暇じゃなかったの〜?」
うなだれる男は天を仰ぐ。
男の不満げな問いに肩に伝書鳩を乗せた優男は肩をすくめた。
「わざわざ赤紐をつけて寄こしてきたんです。何かよっぽど大切な要件なんですよ」
「うーん。それなら仕方ない。」
と言いつつワインを口に運ぶ。
隊服に身を包む男は思わずため息をついた。
「昼まっからお酒なんてやめて下さいよ、バレンシアさん」
声を尖らせる男を横目に
「いいじゃないの〜」
片手でグラスを踊らすバレンシア・ダロンはニタニタと笑いながらのんきに言った。
短髪の金の髪に碧眼の瞳。
まくった袖から伸びるがっちりとした腕から、期待を裏切らない筋肉質の身体。
ボタンを2つ程開けたシャツからは、刺青と胸にかけた十字架が覗いていた。
手袋をつけた隊服の男はこげ茶けた手帳をとサラりと広げ
「今日は特に急ぎの用を入れてませんでしたよね」
「それ執事達の仕事でしょう? 奪っちゃ悪いって。ね、ターナーも飲みなよ」
ワイングラスを青年ーーーターナー・ゴットーへ渡すと“ほらっ”と言わんばかりにボトルを傾けた。
「今日はお祝いだよ。王位継承のパーティーだよ、パーっと行こうよパーっと」
笑う顔にシワが寄るバレンシア。
だが、ターナーはワインを取り上げるとピシャりと言った。
「パーっとするのは仕事の後にしてください」
「あちゃぁ〜。俺の楽園がぁ」
「大丈夫です。鬼に負ければすぐに本物の楽園に行けますよ」
「美味しいワインはあるかなぁ」
「きっとワインなんてないですよ。それどころか冥府の王が貴方をワインがわりにしますよ」
「それならその楽園に行くわけにゃいかんなぁ」
バレンシアはバスケットから青林檎を掴むと天井に向かって放り投げた
「で、団長は何て?」
「西門へ兵を率いて構えろと」
「曖昧なぁ」
顎をかくと立ち上がった。
「さて、行くかぁ」
「楽園へですか」
少し笑ってターナーはバレンシアの後に続く。
「馬鹿いぇ〜ぃ。団長のとこだよ」
「それはよかった」
少しふざけて笑いあうと
「馬車を?」
「俺達なら走ったほうが速いっしょ」
「酔っ払って足がもたついてるかと」
「俺は夢にしか酔わないよ」
青林檎にかぶりつくバレンシアとターナーは、西門へ向かったーーー。
*
聖なる木の泉ーー噴水
「田舎から越してきただけあるね〜
主都は賑やかだ」
両手に2つのカバンを持ちリュックを背負う青年は賑やかな街並みを眺めまわす。
オレンジ屋根の煉瓦造りの家が立ち並ぶ街は人で溢れかえり暖かな声が溢れる。
「折角だし王都に行ってみようよ、アヴリル」
その陽気な青年の隣に不機嫌そうに歩く少女はアヴリル・ヘルキャットル。
ツインテールの金髪は彼女のチャームポイント。
色とりどりの七枚重ねのスカートにエプロン着た彼女は青年とは反対に身軽な手持ちバックと愛らしいウサギのぬいぐるみを胸にアスフィニア王国の3番通りを歩いていた。
「バッカじゃないの?」
「う…!」
突然放たれた棘のある言葉に驚く青年。だが、彼女は全く気にしない。
「王都なんかそうそう簡単に行けるわけないでしょ。本当馬鹿」
「馬鹿………」
少女に乱暴な言葉を浴びせられた青年コディー・ブレイズガードルはガックリと肩を落とした。
少女はまだ馬鹿馬鹿言っている。
「馬鹿、脳みそ腐ってんじゃないの?いっぺんあの噴水で綺麗に洗ってきなさいよ!そしたら少しは清めらるんじゃない?」
ブンブン片手バックを振り回す少女。
「そんなに振り回したら危ないよアヴリル。誰かにあたったら大変……」
の言葉は少し遅かった。
少女のバックは綺麗な円を描き前から走っていた男の顔面めがけて勢いよく飛んでいった。
「どはっ!!」
「す、すみません!」
思わず謝ったのはコディーの方だった。両手に持っていたカバンを投げすてると顔をおさえる男に駆け寄る。
「怪我は…って!大丈夫ですか‼︎」
バックの金具を引っ掛けたのか男の顔からは流血していた。
「どどどど、どーしよ!ひとまず医者に、いやまず止血!」
慌てる青年の隣アヴリルは道に落ちたバックを拾い上げる。
「なんのなんのこれしきのこと問題ないさ」
「でも…」
怪我をした本人よりも痛そうな顔をするコディー
「いーじゃない、相手が大丈夫って言ってんだから」
コディーの隣、アヴリルはバックについた砂を落とす。
「アヴリル!」
怒りをあらわにする青年だが彼女の様子は変わらない。
「早く行くわよ、コディー」
「ちょっと、!」
「気にするな、坊主。では、俺はいかなくてはならないところがある!!さらばだ!」
だはっはっはっはっはっはーーー!
と駆け出した男は元の道に向かって走り出した。
心配そうに男の背を見送ったコディーは再びカバンを持ち上げる。
スタスタと先を行くアヴリルに追いつくと
「アヴリル、ちゃんと謝らなきゃダメじゃないか!」
説教モードのコディー。
「うるさいわね! 人間そんなヤワじゃないのよ」
“僕はそういうことを言ってるんじゃない”と言いかけたところで爆発音がしたーーー。
それは物凄い大きな音で爆風で髪を乱すほどではなかったものの、鈍くボンッ‼︎っとなった。
それと同時にコディーが行きたがっていた王都から硝煙が空に線を引いた。
*
アスフィニア王国城内-地下一階
大振りにカットされた石を隙間なく積まれた灰色の壁。その間をなぞり水滴がポタリ、またポタリッと滴る。
牢でもありそうだが生憎ここはもう使われなくなった倉庫の一室だ。
3人の黒刀血者は部屋の隅を囲んでいた。
辺りは暗い。
白い隊服のみが宙に映る。
ここには一つたりとも窓はない。
代わりに男の1人が握る松明のみがチカチカと明かりを作っていた。
男は屈み灯りを高くする。
「ダメだ。全然ダメ」
ため息まじりに呟いた。
後ろで覗くように見ていた2人も頭に手を当てため息をつく。
ポタッーーン
ポタッーーっ
辺りは再び静寂に包まれる。
チィチィチィチィとネズミが這いずり回り赤い目が不気味に光る。
「せめてこの臭いだけでもどうにかしてくれ。鼻が曲がりそうだ」
顔を押さえる長身の男は眉間にシワを寄せて言った。
辺りは湿気とカビの匂いだけでなくドブのような酷い臭いが鼻をつく。
「そうは言っても、任務を終えるまでここを去ることは出来ない。早く紙鬼を除去して上へ上がろう」
「紙鬼なんて雑魚だろ。どうして除去しきれない?」
瘴気の漏れる部屋の隅を睨む。
「おそらくーー」
と言ったところで背後から
「鬼獣の排除は終わったか」
3人は驚きの表情を隠すことなく突然の声の主に振り返る。
灯りを上げると細身の男が不機嫌そうに眼鏡の奥から3人を覗いていた。
しかし、この不機嫌そうな顔は生まれつきだ。決して不愉快なわけではない。昔この顔で子供になかれたことがあり少しコンプレックにな顔を男は兵士へ向けた。
「「お疲れ様です!」」」
松明の灯のみの曖昧な境界の中、3人の中級黒刀血者は敬礼をする。
三人の中級黒刀血者へ歩み寄った男はやはり重い空気の中を漂う異臭に顔をしかめた。
辺りを見回す。
蜘蛛の巣の囲った天井。
足元の砂利。
「それで、どうなんだ?」
3人は何とも言えない顔をして肩をすくめた。
「ワーナー分隊長、それが次から次へと出でくるものでして……」
煉瓦がいくつか抜けた壁の隅。
瘴気と共に人型の紙切れのようなゆらりとした小さな鬼がはさはさと落ちてくる。
「紙鬼か…面倒だな。しかしどこから湧いる」
瘴気の漏れた煉瓦の隙間その奥を覗くようにして松明を持つ1人の部下は
「地下、でしょうか…?」
「ここより下に空間はない」
「では、この壁?」
「その可能性の方が高い」
「壊してみますか?」
少し悩んだあと男は口を開いた。
「うむ。王宮では間も無くアテナとの契約が始まる。結界展開の準備をしておかなくては何かと面倒だ。急いで片付けるぞ。」
隊服の男ーーワーナー・ムアヘッドは若さに見合わぬ威圧感を放って言った。
兵の1人があっと思い出したかのように声を漏らした。
「先程兵士長から団長の命を伝言されたのですが、我々の隊は城の東門前にて警備せよとの命令が」
「随分突然だな」
「えぇ、現場判断との事でして…」
「分かったさっさと紙鬼を駆除し東門へまわろう。」
「はい!」
その時、背をえぐるような冷たい感覚が灯りを持つ男を襲った。
生唾を飲み込み一歩足を引くとグチャりと何かを踏んだ。
「うわっ、!」
男は足を滑らせるとタンッと軽い音を立て松明を床を突いた。
「何してんだ」
「な、何か踏んで…」
松明に照らされその時やっと自分達がどこに足を踏み入れているのか悟った。
「うあぁぁぁぁあ!」
「これは…‼︎」
床に描かれた紋様と血。
腐りかけネズミの餌となった人間の死体。
その腕を踏みつけた男は壁までよろめくと込み上げる吐き気を抑えられず吐瀉物を吐き出した。
地響きとともにそこはかとなく禍々しい気配が4人を襲った。
「⁉︎」
「今度はなんだ⁉︎」
男は地に足を着き口元をおさえる。
背を這うような冷ややかな感覚
は紛れもなく4人が覗いていた壁の端から放たれていた。
そして、壁の破壊音と共に蒼く発光したそいつは現れた。
再び悲鳴をあげた男の声は広い地下室に遠く遠く、響いていったーーー。
*
事はいきなりだった。
何も変わらないいつも通りの日常がある一人の男との出会いによって、急変したーーー
サジカルテープを両頬につけた青年はまさかこの後、今日という1日がこんなにも濃厚な日になるとは思いもよらなかっただろう。
ことの始まりはディルさんの家へ薬の配達をし終わった後のことだったーーー。
・
・
・
噴水の前ーーー。
林檎の甘い香りを胸いっぱいに吸い込んで紙袋を抱え弟達が待つ家へ帰ろうと思った矢先のこと
「団長ぉ〜〜!」
という叫び声にも似た男の声が路からした。
だがその言葉も段々と小さくなり噴水前で途切れた。
「もう…だ、め……」
ググゥ〜〜っと腹を鳴らす男へ
「お困りですか?」
真っ赤な林檎を疲れ果てた男の目の前へ持っていく。
「よかったらどうぞ。貰い物ですが」
生唾を飲み込み生気を取り戻した目で
むくりと起き上がると男はすがるような目で林檎を見つめた。
「いいのか坊主」
「えぇ、沢山ありますから」
林檎を掴むとかぶりつこうとしたが止まって、十字を切ってから勢いよくかぶりついた。
「3日ぶりの飯だ‼︎」
満面の笑みで林檎の芯まで飲み込んだ。そしてカロに促されるまま紙袋へと手を伸ばす。
男は見たところ20代前半でやたら目立つ赤スーツを着ていた。
「さっきから言ってる団長ってアイザック団長の事、ですよね?」
「団長を知ってるのか!」
「うっ、ぁはい。有名人ですから」
あまりに勢いよく聞いてきた男へ少し引き気味に返事をするカロ。
「もちろん、僕なんかは会ったことも言葉を交わしたこともないですが」
頭をかきながらカロは補足を加えた。
「変わり者ってよく聞きます。王族なのによく街に出たり騎士団の団長もやってるとか? 凄い人だって」
「そうなんだよ!」
林檎をあらかた食べ終わると腹の膨れた男は力のこもった声で語り始めた。
「団長はいつも俺を城の3階から蹴飛ばしたり鬼獣の大群に一人取り残したりするが基本根の良い人で、そんでもって凄い人なんだ‼︎」
(それって嫌われてるんじゃ…)とは言えない。
笑顔で話す背の高い男は本当にアイザックのことを尊敬しているように見えカロは少々哀れんだ目を向ける。
「そうだ坊主。城はどこだか知らないか?」
少し首を傾げてからカロは人差し指を壁へと向けた。
「アスフィニア城なら右に曲がってすぐですよ?」
「右、右だな!ありがと。そしてごちそっさん!」
といって走り出した男は両手を元気よく振った。
空になった紙袋を畳み一件落着っと体を伸ばす。
このまま平穏な日常に戻っていたならば彼の人生が大きく狂いだすことはなかっただろう。
赤い服が再び目の前に現れたのは来た道を帰ってしばらくの事だった。
「右右右右、ん?坊主また会ったな」
赤スーツの男はカロが差した方角と全く違うところから現れた。
「えっと、辿り着けましたか?」
(辿り着いて帰ってきたんだよねー?そーだよねー?)
「それがまだなんだ」
「ですよねー」
(あぁ、この人ありえないくらいの方向音痴だ……)
「いくら右に曲がっても辿り着かないんだよ」
困り果てた表情をする男だが、原因は明白だった。
「右に1度曲がればいんですよ」
「何⁉︎」
(えぇぇーーー)と小さな悲鳴。
(右に4回曲がればそれは元来た道になりますよねー。それでもって何回も右へ右へって進んだらよが開けますよーー)
内心叫んでいると肩腕を掴まれ
「坊主も来てくれ」
「えっと、⁉︎」
やや強引に引っ張られた。
・
・
・
そして現在に至るーー。
全身真っ赤なスーツの男ーランドルフ・ローリーは鼻歌を歌いながらカロと共に街を歩いていた。
そんな男を横目に考える。
武器はもちろん隊服もジャラジャラした金や宝石の装飾品もつけていないため貴族には見えない。
それどころか平民にも商人にも見えない。
彼はいったい何者であろうかと。
アイザック=アスフィニアント=レチェルとどんな繋がりなのだろうかと。
城に出入りするほどの身分の高い者、にしては3日も食にありつけないのは果たしてどういうことなのだろうか?
「街はいいな。楽しげで」
少し懐かしむような目で言ったランドルフは頭に手を回した。
向かい側から道を走ってきた数人の子供が楽しそうにはしゃいでいる。
「14年前は酷いものでした。今の街は、3番通りは安定してきました。それでも、裏道や五層階級はまだまだです」
かけてくる少年達。
その1人が煉瓦の道に足をかけ転けてしまう。
「うわぁっ!」
“危ない!”っとカロが言う前に
「おーっと、大丈夫か?」
ランドルフは少年を腕で抱えてやる。
「うん、おじちゃんありがと」
元気に走っていき他の子供達に混ざる。
少年の背を見つめたままランドルフは呟いた。
「坊主は鬼を見たことがあるのか?」
「え?」
突然の問いに言葉が詰まる。
「確かにまだまだこの国は安定しない。南はほぼ死んでる」
振り返るランドルフ
「それでも平和になったほうだと俺は思う」
少し真剣な目をしたランドルフをカロは黙って見つめた。
*
「ねぇ、アヴリル…」
「…………」
「ねぇ、ねぇ、アヴリル」
「…………」
「ねぇったら、アヴリル」
「うっるさいわね!黙って歩けないの⁉︎」
「うぅ…」
さっきの説教のせいでアヴリルの虫の居所は初めより悪くなっていた。
先ほどの爆発の後、街の人々も煙に気づきざわめいたがそれも一時だけ。
今は何事もなかったかのように賑やかな街の姿へと戻っていた。
のんきというか平和というか、主都の人は皆ちょっとしたことでは驚かないのだろうか?
コディーは内心そう思いながら斜め前を歩く少女の名を呼んだ。
「アヴリル」
「なに!?」
「えっと……、僕いつまでアヴリルの荷物持てばいいの?」
「はぁ?レディーにそんな重たいもの持たせるき?本当サイテー」
「……はい」
火に油を注いだ青年は渋々重い荷物を持ち上げた。
彼女がイライラしているのは何も今から始まったわけではない。
「入学試験まで1ヶ月きってるのよ⁉︎私はともかく、貴方はダメダメなんだからちゃんと勉強してよね!」
そう、黒刀血者特別教育機関専門軍事学校の入学試験まであまり日がないのだ。おまけにコディーは勉強不足……。
そして、何日にも渡って田舎の貧相な村から都会へ旅してきた疲れがピークにたっしているのだ。
ため息をつき彼女の後ろを歩くのコディー。
ふと、屋根の上を見上げると二つの影が目の前を通り過ぎた。
「ねぇ、アヴリル」
無視する少女に気にせず話し続ける
「あれ何かな?スタントマン?舞台ショー?屋根の上をささささーーっ!って、まさか倭の国に伝わる忍者かな!」
「はぁ?頭がおかしくて幻覚でも見たんじゃないの?」
無視するのも限界の域に達したアヴリルは怒りの礫を浴びせる。しかし、動じないコディー。
「本当だってば見てよアレ!」
一瞬の出来事で黒い影は消えた。
「何処にもそんなものないじゃない。くだらないこと言ってないで早く学園都市ラエル・ゼランに行くわよ。」
スタスタと歩き出すアヴリルはぬいぐるみを抱く反対の手をはたはたと振った。
「はぁ、早くお風呂行きたい」
影が過ぎ去った方角を見つめるコディー。
王都に向けてまっすぐ過ぎ去った影「一体なんだったんだろう?」
コディーは何ともやからね黒い影の行く先をしばらく眺めるのだったーー。
*
「今日、王都では王位継承の儀が行われていて立ち入りが禁じられてるんじゃないんすか?」
もう白い壁が見えてきたころカロは隣の男へ問いかけた。
ランドルフは頷くと内ポケットを探る。
「あぁ、紋章を持ってないと入れない」
そう言って馬と王冠の紋章を取り出す。
「貴方!貴族の方だったんですか⁉︎」
「見えないだろ」
少し自慢げに鼻をさすった
「えっと、その…」
口ごもるカロはどう反応して良いかわからず目を伏せた。
「あの、ここです」
指をさすと今度こそ絶対に迷わないくらい間近に壁があった。
門の両端に兵がいない。
「?」
壁の中はやたらと騒がしく地響きが鳴る。
「今日が新王即位の日とはいえ少し騒がしすぎじゃないすか?」
「城でなんかあったのかんもな」
ーー突如、大きな音を立て爆発音がした。
「「⁉︎」」
硝煙が立ち込める空を仰ぐことなく柵を越え2人はアスフィニア城へ走り出したーー
警鐘がなり響きあたりに緊張が走る。
それが戦闘開始の合図となったーー。