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アルカンシエルーー双葉の核ーー  作者: 一条 洸
第一章
8/9

Ⅵ 瞳の先に求めしもの

ブックマーク及び評価してくださっ方々恐悦至極に存じます。




ハルヒは会場にいる全貴族を見渡せる玉座の上にいた。

顔こそ平然だが内心では(ぎゃあぁぁぁ死ぬぅぅぅ!手汗ビチョビチョなんで手ー洗ってきていいデスカ⁈)……相当緊張していた。

玉座の斜め後ろに控えているアルレルトを何気なく見ると、満面の笑顔で

(静かに、大人しくデスヨ★)

(怖い!逆に満面の笑が怖いよアルレルト!)

目で会話する二人。

着慣れぬ正装が余計に気持ち悪く、脱ぎ去りたい気持ちを抑えながら玉座の右斜め前に立っている翡翠の男を見る。片目を隠した白髪しろかみの男。

「ぐっ、く、くく、くっ…!」

肩を震わし込み上げる笑に耐えきれてない馬鹿・・…じゃない、アイザックはハルヒの状況に笑いこけていた。ハルヒとしては勿論もちろん面白くない。

(今ここで蹴り飛ばしたいっ!!!!)と思いつつ後ろのアルレルトが頭にぎって踏み止まる。


王位継承の儀は、順調に午後の部にうつり時計は1時を指していた。


戴冠式ーー。

大主教がハルヒの頭と胸、両のてのひらに聖油を注ぐ。

ハルヒは手汗びっしょりである上に油まで塗られ頭の上でヒヨコが飛んでいた。倒れそうだが、後ろの殺気がそうはさせない。

ハルヒに王の証であるアスフィニアント家の紋章の刻まれた指輪シールリングが授けられ大主教からのお言葉が述べられた。

大主教は大きな帽子を揺らしながら白いひげに埋もれた口を動かす。

「新たな王がここに生まれた事を改めて祝福し神のご加護に感謝します」

大主教の言葉はまだ続く。

「晴天の今日にーーーー」


ハルヒは気が遠くなる長いお言葉・・に疲れ昔の事を思い出していた。




「ハルヒ」

そう名を呼んだ彼は、常にハルヒの心情を豊かに変え、喜ばせ悲しませ楽しませた。


アテナの丘。

全面緑色の絨毯じゅうたんを広げたような何処までも続く草原の上。透き通るような真っ白な少年二人は仰向けに寝そべっていた。


ここは二人のお気に入りの場所。

緑と青がどこまでも続く開放的な空間。

彼らはここで色々な話をした。

見たことのない海の話。

空の向こうの話。

未来の話。


そしてその日は……


さん」

空へ手を伸ばすハルカ。

その右隣にいるハルヒも空へと手を伸ばした。

雲が高い。


「兄さん、僕こんなにも空が高いなんて思ってもいなかったよ」

果てしない空を見てにっこりと笑った。その顔はハルヒそっくりで目を閉じているとよくアルレルトに間違えられる。

「確かに。俺も“空”って言われても今までピンとこなかった。あっ、あの雲とか肉に似ててうまそ〜!」

「兄さん、何でも食べ物に例えないでよ。食欲旺盛すぎ」

そう言って二人で笑った。

風がなびく。

癖のある白い髪が頬をくすぐる。

「でも、あそこから出られなかったらお腹が減るって事も、空がどんなだって事も分からなかったよね。」

眩しそうに目を細める。

「あれから、俺らは自由になれたと思うか?」

《知恵の間》にある黄金の扉。

そこから出るまでは、本という記された膨大な資料が二人にとっての世界だった。

ただ本を眺め世界への期待と憧れを抱く毎日。


「あのちえしかない偽りの世界から飛び出して僕らは今ここにいる」

ハルカは手を下ろすと紅の瞳を見つめた。

紅の瞳には揺らぐその瞳がどこか寂しそうで思わず地に伏せたハルカの手を握った。

その手は熱を帯びジンジンとハルヒの中へと染み込んだ。

「俺らは外に出ていろんなものを見て知って体験した」

ハルカも強く握り返す。

「この空は偽りだ」

紅の瞳は再び真っすぐに空を見上げた。

「この国はまだ膜の中。多くの犠牲で成り立っている。変えなきゃ」

「結界?」

コクリと頷く

「僕らは小さな世界に閉じ込められていた」

「そして出てこれた。だけど、俺らを囲う壁がただ大きくなっただけだ……」

ハルカはハルヒの紅の瞳を見つめた。

「この国の人も俺らが感じたように新しいものを見つけてほしい。かごが、階級まわりのめが、結界いつわりが、俺らを囲ってる」

「変えてやるんだ。そしてもっともっと世界を知りたい」

「大変だよ?」

自信に溢れる紅の瞳は笑っていった。

「むしろ、楽しみだよ。何でも簡単にできたらつまらない。世界をもっと楽しみたい」

ハルヒは立ち上がり空に向かって手を開く。

「結界のない空ってどんなんだろう?

もっと青いのかな?人々の暮らしはどう変わるだろう?鬼は? 考えるとワクワクするだろ?」

好奇心に瞳を輝かせるハルヒ。

太陽に照らされてその瞳の豊かな紅が際立つ。

「国がどうなってるかこの目で見て判断して人が取る選択を見てみたい」

ハルカの方へ振り返る。

伸ばすハルカの手を引いてやる。

「でも何でも自由ってわけじゃないぞ。選択する権利ってこと。世界は生まれた時から平等じゃないし優しくない」

背の高さも体重も生まれ持ったものは皆違う。

「ハルカ」

ほんのりと桃色の頬。

ハルヒはハルカの顔を近づけ額を重ねる。

「また、熱上がってきてる」

「ちょっとくらい大丈夫だよ。身体からだが少し弱いくらいで不平等だなんて思ってないよ、兄さん」

「ハルカ…」

それでも希望がある。

だから世界は面白い。

「僕も協力する。自由を手に入れる。

僕の居場所はいつだってただ一つ…」

「俺の居場所もただ一つ…」

「ハルカの」

「兄さんの」


「「隣だけだ」」


あの時はまだ互いが側にいた。


ハルカ以外何もいらなかった。

(ハルカ……)

ハルヒのたった一つの宝物。

たった一人の大切な弟。



ハルカの片耳に揺れる蒼色の宝石。

まるで青空から奪ったみたいに底深く濃い蒼色。


「兄さんが王になったらーーーーー」


その数日後、ハルカは鬼によって、襲われた。

ー赤いフードの集団

ー燃える炎

ー高くのぼる煙

ー鬼獣の襲撃しゅうげき

そして、ーーハルカの声

いくら手を伸ばしても届かない。

叫ぶハルカの声は今でも耳にこびりついて離れない。

“ハルヒ!ハルヒーーー!”と呼ぶ声が……。


あの日誓った約束だけが残ったまま4年がたったーーーー。


そして今日、ハルヒは王になる。



「ハルヒ王に神のご加護があらん事を」

「「神の御心のままに」」


ようやく長いお言葉を終えた大主教は、最後に立派な十字のつえを天井に掲げた。


ハルヒは立ち上がり王座から貴族達を見下ろした。


そして大主教に跪く。

王の横に二人 旗持つ兵士が並び王の前方、奥から兵士、傍に貴族、大主教が並ぶ。

赤いのマントを掴み黒の正装のアルレルトは王を固唾かたずを呑んで見守った。

手を合わせ床を見つめるハルヒ。

貴族は剣を抜く。

天に剣先を向け胸の前で構える。

「「鬼神アテナへ第七王の誕生を告げる」」

大主教がハルヒの頭と胸、両のてのひらに聖油を注ぐ。

「神の器とし勤め、時に国の盾になり

騎士を率いて国を守り、常に民の見本であらせられよ」


大主教が会釈し大切そうに王冠を手に取る。翡翠がうめられた金の王冠。

重い。それは物体としてではない。

この国の王として背負う命の重さ。

民の想さだ。国王ハルヒは玉座に戻り、列席の王族に祝辞を受ける。


代表としてシリウスが立ち上がった。

「ハルヒ王、おめでとうごさいます」

勿論もちろん形だけだと分かっている。

ハルヒは王座の下から

「私はこの国の偽りをとき真実をあばく新たなる扉を開く」


シリウスは玉座に座る小さな王に問う。

「貴方が求めるものは何ですか?」

全ての人がハルヒへと注目の視線を向ける。

少しため紅の瞳を開く。

自由・・だーー」


その短い言葉は、時に在り来たりに聴こえるかもしれない。

だが、その言葉は誰にも有無を言わせなかった。

平和や安定を望むのではなく自由を望みそのに座る少年をただ周りは見上げた。



「どあっ、!」

踏んだのは人の骨だ。

すでに白骨化し踏んだ衝撃でバキりと折れる。

「うが!っと、やべ!」

バランスを崩しゴミのなだれに吸い込まれる足。

「嫌ですぜここで生き埋めなんてぇ〜」

「自分でなんとかしろウー」

すっ、とよけるディオ。

「ぎゃあぁ!助けてくれないですかい⁉︎」

とっさにつかんだのは目の前にあった木の幹だった。

壁からありえない角度で突き刺さっているその幹に手をかけ宙を回転し埋もれた足を引き抜く。

抜けた足をその幹につき身体をまるめ回転させながら今度は足場のよさそうな煉瓦の塀へ着地する。


「もー、こんなんばっかですぜ。いい加減、何時間歩くんですかい!」

砂の海の次はゴミの山。

黒フードの青年ウーは飽き飽きした表情でなだれを避けるディオへ顔を向けた。

「まだ4時間しか歩いてないだろ」

「4時間しかって…。はぁ、」

肩を落とすウー。

カタカタと音を立てる背中の箱をしっかりともってディオの元へ急ぐ。

「バテたなら帰れ」

「帰る場所なんてありゃしやせんよ。ちょっと休憩しやせんかぁ?」

「帰らないなら黙って歩け。そんなんだから無駄な体力を消耗するんだ」

「うぐっ…」

空は明るい。

丁度昼時といったところだろうか。

しかし、太陽の光が入ってこない地下にいるためか少しひんやりとし薄暗い。

「ここの空気は乾燥しててうまく馴染めないんすよ〜。

それに、さっきから同じような場所ばかり」

深々とかぶっていたフードの帽子を脱いだ。

大きく深呼吸するウー。

ディオはフードを脱ぐと仕方なくランタンを取り出し蝋燭へ向かって

「火の踊りフゥーエクラ

ふっ、と息を吐く。

たちまち蝋燭に火が灯り辺りを照らしだす。

「さすがディオ」

ウーはディオの隣に並ぶ。


「アスフィニア王国って人の国ではかなりの大国なんじゃなかったんすかい?」

「大国と呼ばれたのは26年前までだ」

照らされた先は酷く荒れている。

道という道がない。


「ホワイト・クリスマス以来国の4分の1、主に南の地域は荒地と化し一般の人間は足を踏み入れない」


両側を囲む建物。

割れたガラス。

置き去りの人形。

欠けたグラス。

「被害のあわなかった東と西でこの国は何とかやっている状況だ」

「崖っぷちってわけですね」

うんうんと頷き、

「……で、ここは何処ですかい」


「五層階級ベゼル。国の境から主都の壁まで続く最も治安の悪い土地スラム。さっき説明した南の地域だ」


一応補足をしておこう。

ここは街だ。

いや、谷と言うのが正しいだろうか。

日のささない谷の底。

煉瓦や板を組み合わせ何層にもなっている家が壁のように周りを囲み、その間に鉄くずや捨てられたゴミが鴉にでも荒らされたかのように広がっている。


「14年前の事件から一層治安が悪くなりアスフィニアはほぼこの街を放棄している」

足元の灯りを頼りに進んでいくと銃弾やら欠けたナイフやら物騒なものまで落ちている。

「ここなら不法侵入してもとがめる者はいない」

「だからって此処ここにはいたくないですぜ」


一本道。

少しすると明かりが見えてきた。

おそらくさっきより地上に近くなってきている。

太陽の光もそうだが青いランプの明かりも見えてきた。

ようやく辺りの光景が変わると思った矢先、飛び込んできたのは痩せこけた子供だった。

その日その日を生きぬくので手一杯で

ゴミ溜めの中から鉄を引き抜き集める子供達。ワインボトルと仲良く路上でいびきをかく男。その男の金を奪う派手な格好の女。円テーブルを囲み賭け事をする男達。また、刃の血糊ちのりを落とす者までいる。

「ここでは奴隷売買や武器輸送、ドラッグ、犯罪者なんかが集まってくる。気をつけろウー」


「はぁ、……」

ため息をこぼすウー。

「こんな場所に本当に旦那達がいるんすかい?」

「昨日の報告によればそうらしい」

ウーは突然足を止めた。

「またバテたのか?」

「この国、何なんすか……。

人でも鬼でもない…何か別の者がうじゃうじゃしてやすよ」

身震いするウー。

「人とは憐れな生き物だ」

ウーは再び黒フードをかぶった。

「僕らも早く旦那と合流しましょうぜ」

「いや、俺らは別行動だ」

ディオもフードをかぶる。

「あの男に会うように言われてる」

「あの男……?」

「あぁ、アスフィニア城にいるーーー」


その時、地響きと共に大きな爆発音がした。

「行くぞウー」

「あいよ!」


二つの影は走り出したーー。


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