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アルカンシエルーー双葉の核ーー  作者: 一条 洸
第一章
6/9

Ⅳ 王位を継ぐもの

アスフィニア城の控えの間ーーー


かぐわしい紅茶の香りが部屋中に広がる一室。

クレオと使用人メシャは別件で外しているが他の4人は既にアスフィニア城一階のフロアにいた。

テラスのある控えの間。

派手な装飾のない清楚な一室は少し高く登った太陽で白く輝いていた。

白のテーブルクロスの上、アイリスの花が生けられたラウンドテーブルを囲む4人。

ヘンリエッタは座らずアイザックの後ろで控えアルレルトは紅茶のを入れていた。

ひとしきり作業が終わるとアルレルトは燕尾服の中から懐中時計を取り出した。

のどかだ。

温かな紅茶をすする。

豊かな甘み。

ほっ、と一息ついた。

儀式の時間まであと少し。

だがーーーー

「ハルヒ様」

懐中時計をポケットへしまうとアルレルトは口を開いた。

「絶対にお行儀よく、礼儀正しくですよ!」

「分かってるってアル」

ハルヒよりもアルレルトの方が緊張していた。落ち着かないのか再びポケットを持つと何度も右へ左へ……。

「ハルヒ様くれぐれも大人しく、敬語でお話くださいね!」

「おう、」

ギロッ

「はい、……」

「本当にアルレイトくんはお節介さんですね〜」

アイザックは片手の紅茶に角砂糖を一つ、二つ、と入れていく。

「彼は底なしの馬鹿・・で敬語もろくに使えない社会のクズみたいな人間ですが、やる時はやる人間だとおもいますよ」

アイザックはたっぷり砂糖を入れた紅茶をすする。

「褒めてんのかけなしてんのかどっちかにしろよ」

「もちろん貶してます☆」

「俺が王になったらまず最初にやることはアイザック《ゴミ》の排除だな」

「キャーコワイ(棒読み)」

クククッと楽しげに笑うアイザック。


だが、アイザックの背後で控えてるヘンリエッタは、赤縁メガネを曇らせていた。自分の主人が子供をからかって遊ぶなんとも言えない光景に思わずため息をつき首を振る……

「なんだかヘンリエッタくん疲れていませんか?

女性がストレスを溜めるのは良くありませんよ」

(いつも誰のせいでストレス山積みにされてると思ってんじゃいっ‼︎)と内心思いつつ…

ヘンリエッタはアルレルトを気遣う。

「大丈夫ですよアルレルトさん」

ヘンリエッタは胸の前に拳を作る。

「ですが、心配なんです…。神父様が祝福とご加護のお言葉を述べている間に眠ったり…」

「「「…ん⁉︎」」」

「着慣れぬ正装で階段で転んでしまわれたり、お言葉の際にはろくに礼儀も作法も知らぬとあれば私は使用人として一生の恥‼︎」

「って自分の心配かよ!」

思わず怒鳴るハルヒ。

「もちろん、冗談ですよハルヒ様」

ははははははっと笑うアルレルト。

いぶかしげな表情のハルヒ。

ジーー

にっこりと笑うアルレルト。

だが、ヘンリエッタとアイザックは内心

(アー、アリソー)と思うのであった。


「まぁ、確かに心配ですねぇ〜」

翡翠のまなこはむくれているハルヒを見た。

「ハルヒくん、はじめに言っておきますよ。王位継承の場は皆が皆祝ってくれるわけじゃありませんからね。特に貴方の場合は…。」

「………」

「まぁ、一生に一度のイベントです。

自分自身が楽しむことを忘れないでくださいね」

アイザックはニッコリと笑ってみせる。そうして窓際にいつの間にやらいた猫を膝の上へちょこんと乗っけるのであった。

そして温かな紅茶を一口飲むと満足げな顔をする。


ハルヒは時々アイザックが恐ろしく思えることがあった。

先ほども、少し怖い声音で忠告したと思えば、にっこりと笑って話してきたり何を考えてるのか分からない。


読めなくて恐ろしいーーー。


「怖いですか?」

アイザックは紅茶に反射する片方だけの翡翠の瞳をぼんやりと見た。

突然の言葉にハルヒは喫驚きっきょうした。

内心を見透かされたような違和感。


アイザックは猫の首を優しく撫出てやる。

黒猫は気持ちよさそうにグルグルグルと喉を鳴らし甘えた。

金の瞳を閉じアイザックの手に頭をすりつける。

「緊張せずとも大丈夫ですよ。

なんだかんだ言ってアルレルトくんや皆さん、貴方のことを思っていますから」


その言葉にハルヒは返事が出来なかった。


「貴方には王位につく理由があるのでしょう」

翡翠の瞳はハルヒを真っ直ぐ見た。

ハルヒは右耳の蒼い雫型のピアスにそっと触れる。ラピスラズリ、誓いの印。

(ハルカとの約束……)

声とは裏腹に、ハルヒの様子をアイザックは少し冷ややかに見ていた。

……でも、少し悲哀の入った目でーー。



城の出入り口付近では馬車の行列が出来ていた。仕方なくメイは馬車から降り歩いて入口へ向かう事にした。

辺りは色鮮やかなドレスや正装をした貴族が溢れかえっている。

門番の兵に家の紋章を見せ会場に入ると、細部に描かれた絵画かいがが天井を覆い隠すように飾られていた。

もちろん家の比ではない。

どれも神や天使に関わるものばかりだ。鬼獣の襲撃や戦争が起こった場合、騎士は皆戦いに出なくてはならない。26年前に起こったホワイト・クリスマスの悲劇や父も命をした“隠されし日”など命を賭けた戦場では頼れるのは自分達の力と神のご加護だけだ。故に騎士は神に感謝し敬意を表し祈る。だから絵画に神や神の使いである天使の絵が多い。


赤い壁の端に対照的な何十もの白い柱が圧倒的な存在感を放っている。

そのずっと奥正面には、グラウクスとオリーブの金の装飾のされた玉座がある。

今まで6代にわたる王がその椅子に座り王位継承をしてきた伝統の椅子だ。

その背後、この国の象徴であり鉄壁の鬼神きしんが織り込まれたアスフィニア王国の王旗がかかげられ自然にこの国の揺るぎない繁栄と富を暗示していた。

騎士団の隊服に刻まれたつばさつるぎはここから来ている。グラウクスは知恵の翼、剣は強さや正義ある戦を表している。

騎士はこれにのっとり神の加護のもと戦う。

鬼神きしん

国を守護する神。

知恵、芸術、工芸、戦略の女神がアスフィニア王国の鬼神である。第三の扉の守護者。呼び方は様々だが、大昔ギリシヤの地の神の名を取り“アテナ”と呼ばれている。


曇りなく輝きを放つシャンデリアの下、多くの王族や伯爵など位の高い貴族が集まっている玉座の間は自慢会が始まりつつあった。

人混みに揉みくちゃにされながらもメイは自分の居場所を探す。

辺りでは、高位貴族との結婚話が決まっただとか、息子が国家黒刀血者になっただとか平和な話ばかりをしている。そんな脳楽主義のお貴族様にメイは飽き飽きしていた。

「平和だな…」


その時だった。

背後から声がした。

「おやおや?」

聞き覚えのある声。

「やたら地味な格好の奴がいると思えば蛾…、じゃなかった。サーカイルじゃないかぁ」

あからさまに間違えて小馬鹿にしたように笑うと、馴れ馴れしく肩に手を回してきた。

少年は、自身のストレートの黒髪にさっと触れると同じ金の瞳に視線を向けた。

年は同じくらいであろうか、少年は、赤いシャツに黒のベストというやや派手目の服を着こなし取り巻き二人を連れていた。

「メイルが死んでサーカイルは落ちぶれたんじゃないかぁ?」

取り巻きが笑う。

回した方の人差し指に力を込めてメイの胸にぐりぐりと指を押し付けてくる。


「はっ、毒蜘グモみてぇにやたら派手な奴がいると思ったらリトルトンじゃねぇか。なんだ? 怪我でもしたのか?シャツが真っ赤だぞ」

ふっ、とメイは鼻息を立てる。


モーリス・リトルトン。

サーカイルが武力ならリトルトンは財力でのし上がってきた貴族だ。

両者あまり仲が良くないのは説明しなくともわかるだろう。


メイは肩を上げ、回してきた手を振り払うと服装を整えた。

貴様きさまのお遊びに付き合うほど俺は暇じゃねぇんだ」

ふっ、とまた鼻息を立てその場を去ろうとするメイに

「おやおや、逃げるのですか?」

絡みつく蜘蛛の糸。

やや高い彼の声と獲物がかかるのを待ち構えているようなその目が、メイは昔から気に入らなかった。

「あぁ、分かった! 早くお家に帰りたいのかぁ、そんなにママが恋しいのかいサーカイルくん? はははははっ」

「うぜぇー」

ギロリッと金の瞳はリトルトンを睨んだ。

「あぁ、君の愛しのシャーロット夫人だが、最近見かけなぁ。ちゃんと生きてるのかぁい?」

「父君のように既に絶たれていたりして」

取り巻きも同調する。

「うるせぇ、蜘蛛だな」

「はははははっ、あんまりにも君が可哀想だから、優しーぃ僕が情けをかけてあげようじゃないかっ」

ニンマリと笑うリトルトン。

「はぁ?」

「我がリトルトンの配下にしてあげよう。どうだい? 嬉しいだろぅ

はははははっ!」

両手を広げ高々というリトルトン。

ニヤリと笑う憎い顔に一発入れたい欲求を必死でこらえる。

「サーカイル家を乗っとろうってかっ。笑わせんなよ蜘蛛ごときがっ‼︎

俺の家はてめぇらが喰えるほど小さくねぇんだよ」

「ククッ、使用人一人連れずによく言いますね。お供も呼べぬほど弱り果てたサーカイルを、喰らい尽くす事など造作もない」

取り巻きはまだ続ける。

所詮しょせんあなたは蝶々。野に咲く花を点々とし蜘蛛に狩られるが運命なんですよ。」

「もしくはだ、光の周りで蛾のごとく飛び回る害虫。くっははっ、」

「ウゼェ、罠張って待ち構える事しか能の無い縛られた蜘蛛め! さっさと散れっ」

「はっ、宙を飛べる蛾でもおんボロの羽では地に足をつくのが落ちよ。

かつては栄えていたサーカイル家も当主が貧弱で臆病などっかの誰かに変わってから、一向に廃れていくなぁ」

「ですねぇ、リトルトン卿。

英雄とはまで歌われていたサーカイル家の面影は何処へやら」

「母君が御心を病まれたのもそれが原因なんじゃないですかぁ?」

ダンッ!

リトルトンの胸ぐらをつかむ。

かかった、とばかりにニンマリ笑うリトルトン。


「蜘蛛の巣に捕らえられた哀れな蛾のように早く私が喰ってあげますよ」

「くっ、」

「なぁに、蜘蛛はとても優しい。喰べる時苦痛のないように眠らしてから喰べるんですよ。ね、優しいでしょう?」


「はっ、食えるのか?俺の羽はやいばだぞ」

両者一切の引け目なし

きつく睨み視線を変える事なくゆっくりと顔の横まで腕を上げた。

手首の蝶を見せつけ挑発する。

睨み合う両者

リトルトンも腕を下に下ろしたまま手首をメイへ向ける。

そして、服の袖を上げニンマリと笑いながら蜘蛛の刺青トライバルを覗かせた。


周りには会場内で盛り上がる他の貴族たちがいたが二人にはその話し声も笑い声も何も聞こえない。

ただ、静寂。

互いの間合いを詰め入り込む隙を狙っている。

各柱の間に待機していた兵達は警戒し緊張の糸が走る。



その緊張を破ったのは

「よっ、メイ」

という、低い男の声だった。

「トヴイア叔父、さん」

「なんだ?同じ種の人間同士噛みつきたいはよくないぞ」


きつく睨むと

「興が削がれた」

リトルトンは背を向け

「だが、忘れるな。蜘蛛はどこにでもいる。その身喰らうまで俺はお前を離さない」

不敵な笑みを浮かばせると取り巻きを連れ人ごみの中へ消えていった。





アスフィニア城の玉座の間中央ーーー


ここではお貴族様の“自慢会”が行われていた。

「ダーストン卿にこれ程美しい娘がいらしたとは。息子さんが5人いるとしか聞いておりませんぞ」

貴族は笑ってみせる

「これは、私のお気に入りなんです。サンク挨拶なさい」

優しく微笑むダーストンと呼ばれた男。

「はい、父様」

ドレスを軽く上げ会釈する16・7の少女。

「ご機嫌麗しゅうー様」

少しばかし上目遣いをした少女は丁寧に挨拶をした。

肩まで伸びた艶やかな黒髪が彼女の身体をなぞる。

「この子は学のすじもいいのだよ」

ダーストンは誇らしげにいう。

「自慢の娘と言うわけですな。

さぞかし他の男もほっとかないでしょう。どうですか私の息子とーー」

「めっそうもない。ー卿と私などの娘では家柄から何まで釣り合いませんよ」

軽く笑いあった男爵。


少女の愛くるしい黒の瞳を強調する目の下の涙黒子。しとやかで美しいシルクのような肌。

華やかな儀で風変わりの黒のドレスを着た彼女は会場の中でひときは目立っていた。


「それでダーストン卿、例の件ですが…」

耳元で囁くように密かに語る。

「問題ないよ。」

番号ナンバーは“10972”。いつもの荷台です。」

そう言って布で包んだタバコの箱をダーストン卿に渡した。

「手はずはいつも通りに」

ダーストン卿はそのまま一卿と別れタバコの箱を何気ないそぶりで少女の手に渡す。

そしてダーストン卿と少女はそれぞれ真逆の方角へと足を進ませた。


メイとその叔父トヴイアは騒がしげな会場の中央を避け端にある白く立派な柱にもたれた。

アイリスの花が生けられた小さなニッチの隣は人気ひとけも少なく落ち着きのある空間だった。

入った時は人が多すぎて会場の大きさにまで目がいかなかったが端から見るとよく分かる。

さすがに広い。


「また喧嘩してたのか?好きだなぁ」

トヴイア・サーカイル。

父の弟-メイの叔父だ。


「うるせぇ。今日であの蜘蛛始末してやろうと思ったんだよ」


「祝いの席だろう。今日くらいよせやい」

楽しげに言うトヴイア。

納得いかないと言わんばかりにむくれるメイ。

「それにしても久しいなぁ、メイ」

低く落ち着いた声。

何年ぶりだろうか。

3年、いや4年は会っていなかっただろうか。

「背も伸びてー。昔はこんなだったのに」

と言って腰より下に手を当てる。

「それ何年前の話だよ」

「はっはっはっは」

カラリと笑った目尻にシワが寄る 。

父も生きていたらこんな顔をしたのだろうか。

いつも見るあの肖像画は優しくそれでも凛々しげな姿だった。

生きていたらこんな風に幼い頃のメイの話をし盛り上がる事があっただろうか。

「本当にメイは兄さんにそっくりだ。一瞬見間違えたよ」

「よく言われる。俺は肖像画でしか父さんを見たことがないけどさ、母さんがよく似てるって。」

床を見つめる。

「さすが親子だよな」

太陽みたいに笑うトヴイア。

メイも口角を上げ、誰にも見られないように拳を握った。


「その剣」

青のソードベルトにささる聖剣に視線をおくる

「あぁ、父さんの。

あの家に再び光を、それが俺の今やりたいことで俺の当主としての責任だと思ってる」

「俺も蝶だ」

手首の刺青トライバルを見せる。「何か困ったら事があったら俺に言えよ」

そう言って少し笑った。

「危ないことだけはするな」

「大丈夫だよ」


そう言うと、華やかな衣装とスーツの黒が入り混じる会場を見つめた。

自慢話をする人々の中で黒いドレスの少女が人の間をくぐるように会場を出るのを何となく見つめる。漆黒の髪のなびく綺麗な少女だった。

「次の王様、どんな人だろうなぁ」

トヴイアが騒がしげな会場を遠目で見つめた。

正面、同じようにあるニッチにもたれている一人の男。

腕を組み貧乏揺すりを絶えずしている。

「6代目の王は守り重視の引きこもり。それでも、戦争中に死んで五代目の王だった今の大王が今までこの国の政治を動かしてきた。が、それもここまで。戦争重視もやだけど偽りの平和を堪能する今の貴族体制は終止符を打つべきじゃないか?」

「確かになぁ。お前も意外に考えてるじゃないか。」

メイに視線をおくる。

クスリと笑うと

「当たり前だろ。俺は十三騎士になって王に仕えるんだ。そうすればサーカイルも安泰あんたい。だろ?」

「さっすが兄さんの子だ。いう事が違う」

「まぁ、王様なんてみんな同じ。大王はいい王だったが大抵は横暴で世間知らずで臆病者な命令や、だろ?」

メイがトヴイアの顔を覗く。

「それが王だろ。いやむしろ他の王は今の国では生まれないさ。王族内でも四つの派閥があるんだ。偏りが生じて国内の地位争いでゴタゴタだろう。王はみんな自分を守るので必死さ」


二人の会話の途中、会場奥、玉座の間に向かってある集団が入ってきた。

「どうやらもうすぐ始まりそうだな」

誰もが彼らに注目した。

いや、目に止まらないわけはない。

メイ達は深々と礼をする。

帽子を取り胸に手を当て、男性は片足を出し深く礼をし、女性は両手でスカートの裾をつまみ軽くドレスを持ち上げた。


控えの間入り口ーーー


「少々困った事になりました」

黒猫を抱きながら翡翠のまなこはヘンリエッタへと向けられた。

「嵐の予感です」

黒猫を床に下ろすと彼はニヤリと笑うのだった。

「ヘンリエッタくん、お仕事の時間です」

ヘンリエッタの目が変わる。

「アイザック団長・・

アイザックは控えの間を後にしたーーー。

ヘンリエッタは出て行く背中に敬礼する。



白い髪に碧眼の集団が大理石の床にを鳴らし入ってきた。


“美しい”そう言えばいいのだろうか。

凛とした趣で何処どことなく落ち着きのある風貌の男ーーー

シリウス=アスフィニアント=クロス

第四王位継承者

彼は軽く手を挙げ会場の貴族達に敬礼をとかせる。

貴族達は顔を上げるとたちまち彼らの美貌に囚われた。

シリウスの斜め右に、幼さの残るつり目がちな目元の少年

ユーリ=アスフィニアント=ロゼリス

第五王位継承者

そして二人の後ろに、眉を歪ます

ジューイ=アスヒィニアント=チェイン

第六王位継承者

ユーリとジューイは13・4歳くらいだろうか。

ハルヒよりは見た目はやや二人の方が上に見える。


最後に少し遅れ気味にやって来た

アイザック=アスヒィニアント=レチェル

王族特別階級者


シリウスはアイザックに気付くや否や歩みを止め振り返る。

「アイザック様、お久しぶりです」

「4年ぶりくらいですかね〜、シリウスくん」 締まりなく笑うアイザック。

シリウスの隣、背の低いユーリは荒々しく言った。

「アイザック様!僕は何も聞いてません‼︎」

訴えかける蒼翠そうすいの瞳。

「本来ならシリウス兄様が継ぐはずの王位、アイザック様ならまだしも4年前に突然現れたものに王座を奪われるとはどういうことなのですか⁉︎」

小さな体で目一杯怒りを表している様子は少し微笑ましい。そんな彼をなだめるようにシリウスは優しく言った。

「ユーリおやめなさい。彼は正当なベルルの血を引く者ですよ」

「ですが、僕は兄様に従いたかった!僕は、悔しいのです…」

薄っすら涙を浮かべる蒼翠の瞳。

「王は我らの神アテナを身に宿すだけの器があり、大王が継承を認めた者のみに与えられるもの。

我らが何を言っても覆すことは出来ません。でも、ありがとうユーリ。」

シリウスはユーリの白い髪を優しく撫でた。


そんな彼らの後ろ、

「王位を授かっても本当に王が務まるのやら……」

皮肉と嫌味を込めぽつりと呟くのはジューイだ。

「聞けばアイザックの推薦があったようじゃないか」

冷たく淡い若葉色ひすいの瞳はアイザックのまなこへ向けられた。

「何を企んでるんだ?

王の後ろで糸を張りこの国を操るのが目的なのか?」

シリウス達もアイザックを見た。

「お戯れを」

口角を上げるアイザック。その笑みは余裕より愉快といった笑みだ。

「私はこの国を思って言っただけですよぉ」

「どうだかな、分家のクイーサー家だったお前がどうやって軍部を取り締まるレチェル家までのぼりつめたか僕は知ってるんだ」

アイザックは微笑を浮かべたままジューイの方へ足を進めた。

その顔は愉快さでも怒りでもなく、ましてや無情でもない。“不気味”《ぶきみ》だ。

それでもジューイは続ける。

「26年前の“あの悲劇”でお前がやったことーーーー「やった事を知ってるなら話が早い」

急にアイザックの口調が変わる。

「貴方も気をつけた方がいい」

「……っ‼︎」


殺気だった。

それは、会場内で彼にだけしか分からないくらいほんの少しの殺気…。

笑みをこぼしたまま、瞳孔の開いた翡翠の瞳はジューイを見下ろした。数多の戦場を駆け巡り人を鬼を殺してきた“人殺し”の目。


「な、何だよ。僕に何かしたら母様に言いつけてやる!」


「冗談ですよ、じょ・う・だ・ん・☆」

楽しげに笑うアイザックは、いつものアイザックに戻っていた。

あのニタニタ笑う締まりのない顔に…。




再び会場が騒つきだした。


ハルヒ=アスフィニアント=カイロ

第三王位継承者

が控えの間から現れたのだ。

他の王族の時とは裏腹に、周りの様子は新王へ祝福というより見物や見定めの目に近かった。

無理もない、消息不明だったハルヒが突然発見されて僅か4年しか経っていないのだ。王位が務まるのか、また幼い容姿がより継承に対し疑問を抱かせる。

彼に対してはそれだけではない。

いろいろな噂があるのだ。


「あの幼い方が次の王ーーー」

「確かあの方って……」

「えぇ、アイリスお嬢様の……」

「呪われた鬼の子だ」

「言葉を慎め呪われるぞ」

「鬼の血を継いだ者を王位に上げていいのか………」

「どうせ鬼の血だから器に選ばれたのよ」

「鬼の血だから」

「鬼の血ダカラ」

「鬼の血」

小声でこそこそ話す貴族達。


しかし、その声もアイザックが会釈した途端静かになった。

シリウスも同時に会釈し続くようにユーリも渋々。

ジューイは相変わらず不貞腐れている。


長く引きずったマントを羽織り、そのすそを持つ黒服の男と共に少年はゆっくりと王座へと足を進める。

幼げな顔立ちの中に見え隠れする気品と気高さ。


「さすが本家ベルルの血を引く者…どの王族より清い純白の髪」


中央の階段をゆっくりと上っていく。


ボーン、ボーン、ボーンーーー。


古錆びた鐘が重々しい空気の中、王位継承の儀式の始まりを告げた。


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