ふざけてんの?
「何あいつ、イラつく」
―――始まりはそれだった。
何あいつ、はこちらの台詞である。
イラついてるなら煽ってやろうと、試しに煽ってやった。
「こっちの事情も何も知らないクセに口出ししないでくれる? 何も知らないクセに」
―――次は言われた。
何を言っているんだこいつはと思った。
なんで私だけが貴女を理解しなきゃならないのだろう。
「私、何も言ってないのに」
―――今度は責任転嫁された。
呆れを通り越して笑えてきた。
火種を煽って炎にしたのは私だけど、先に火種を巻いたのはそっちじゃないの?
「私は何も知らなかったのに、酷いよ」
―――今度は「私は悪くないアピール」が始まった。
自分の都合に合わせて、彼女はその時の状況を改竄して他人に伝えていた。
どうやら味方が欲しかったらしい。彼女の味方は増えた。少なくともネットの中では。
「私が悪いかもしれないんだけどさ……」
―――突然のネガティブ発言。
悪いかも―――つまり、暗に「私は悪くない」と言っている。
何を言ってるんだろうこいつは?
「だよね、私は悪くないよね!」
ネット上の友人は居ても居ないようなものだというのに、そんな虚ろな存在に自分を正当化してもらった彼女は喜んだ。
やっぱりあいつが、私が悪いんだと。
私は名前も顔も知らない、彼女のネット上の友人に非難されていた。それこそ「何も知らないクセに」。
「なにそいつ、そいつがお前に文句言ったの?」
―――彼女のネット上の友人である。
彼女を、「何も知らないクセに」正当化した無知な友人。
どうやらこの人はヒーローにでもなりたかったようだ。たかだかネット上の友人の、ヒーローに。
「なんだろうこいつら、頭のなかわいてんのかな」
―――私は呟いた。
彼女もそうだったが、どうやら人は自分を正当化してくれる存在が好きらしい。
自分で自分を正当化するわけではなく、他人に正当化されることに意味があるらしい。彼らにとっては。
「あの子そういう子だから……私の事うざいと思ってたんだよ」
彼女はそう呟いていた。ネットの中で。
何言ってんじゃろこいつ。そういう子という理解があるのだろうか。ないと思うんだけど。
で。どうやらあいつは私をわかった気になっているらしい。なんと痛々しい事か。
なんだろこいつら、めんどくせえな。