第1話
読者のみなさま。
この物語は主人公・奈央の目線で描かれています。
日記のような、ちゃんとした小説とは程遠い感じですが読んでもらえたら嬉しいです。
奈央は性格がしんどい子ですが、出来れば温かく読んでください。自分に自信が無い、自分を好きになれない、それが主人公の奈央です。
ああ、分かる。と言う方、分からない、と言う方も。
最終話までおつきあい頂ければ幸いです。
少しずつ風が涼しくなる―
「奈央はクリスマスどーするの?」
受話器越しにユキの声が跳ねる。
9月にどうしてクリスマスの話題が出来るんだろう?
5ヵ月後の予定なんて分かりっこない。意味が無い。
「…さあ。…バイトかな。」
空気に染み込むような私の声。
お節介なユキは私の友達。こんな私に飽きもせずに高校時代から話しかけてくれる。
ユキが居なければ誰とも喋らないんじゃないかと思うほど。
それでも私はいつも興味の無さそうな返事しか出来ない。
「えっ?せっかくのクリスマスなのに?今年くらいは―」
だって興味が無いから。
「今年くらいは彼氏と過ごすー、とかさ。女の子らしく青春を謳歌しなよ。
聞いててさみしーよ。」
クリスマスを彼氏と過ごす=青春謳歌=幸せ。なの?
確かに23歳にもなって彼氏もいないのはナニカから逸脱してるのかも知れない。
でも、強がりでも、言い訳でも、私にはどうでもいい事。
他人に興味が無いし、言うなら自分にすら興味が持てない―。
何の面白みも無い私―。
「じゃあ、いい人紹介してあげるよ!ね。期待してて。」
「え、いいよ。いいって―」
やばい。ユキのテンションは確実に上昇してる。
本当のことを言った方がいいかも知れない、煩わしい―と。
他人の事を考えるのは面倒だと。
「じゃあ、条件とか理想は?背が高い方がいいとか?」
「条件…?」
条件。
私が選ぶ…
『顔がいいひと』と私は言った。
自分に見合わない条件―きっと諦めてくれるだろうと思ったから。
『すごくかっこいいひとがいい』
何だか馬鹿馬鹿しい言葉。情けない言葉。
「わかった!ちゃんと探しとく。―じゃあね。」
ユキは笑いもせず、そう言った。そして電話は切れた。
『えー?何それ?無理だって!』って言ってくれると思ったけど。
でも、良かった。あんな馬鹿げた条件で探すのはきっと無理だから。
『ごめんね。いなかった。』と言ってくれればいい―。次の電話で。
********
―5日後にユキから電話がかかってきた。
何だかとてもドキドキした。怖かった。
ユキはいつも通りの明るい声で―
「次はいつバイト休み?タダ券もらったから映画観ようよ。」
いつも通りでほっとした。こないだの事―忘れた、みたいで。
私も忘れよう。
今週の土曜は休みだと伝えると『2時に駅前で』とユキが言った。
とても嬉しそうに。
土曜日。少し雲っていた。
2時を少し過ぎたくらいに駅前に着くとユキが待っていた。
改札を出た私にすぐ気付いて、恥ずかしいくらい手を振ってこっちを見ている。
「ちょっと遅くなってごめん。」
と私が謝るとユキは―
「ごめんね。ホントは2時半だったんだ、待ち合わせ。」
「え?何が?」
意味が分からなかった。待ち合わせは2時のはず。
「はじめが肝心でしょ。遅れちゃダメだと思って。早めの時間にしちゃったんだけど…。」
そう言って、ユキは何とも言えないような表情をする。
困ったような、嬉しいような、泣きそうな。
その表情を見ると何故か私は苦しくなる。
そしてユキは私に向かって告白した。
「すごいよ!奈央にぴったりの人を見つけて―あと20分したら登場します!」
驚いて何も言えなくなった。
何もかもにビックリした。
先週の電話のこと。ユキが探した人。このあとにその人が来ること。
何も言わない私にユキは説明していた。
本当のことを言ったら、きっと私は素直に来てくれないと思ったと。
だから嘘をついたと。そしてごめんねと。
とても嬉しそうに。
「諒君はねー。奈央にぴったりだよ。あ、諒君て言うんだけどね。もーコレだ!この人!って思ったもん。」
どうして―。どうして。
ユキに何が分かるんだろう?
私にぴったり、だなんて、どうして言えるの?
頭の中がモヤモヤする。薄暗い曇り空みたいに。晴れそうに無い。
「ちょっと話すだけでいいよ。無理だと思ったら、それはそれでいいんだからね。」
黙ってしまった私に心配そうにユキが語りかけた。
そして自信満々に『大丈夫。』と言った。
********
2時半よりも早く、彼はやって来た。
リョウクン。…諒君。
「こんにちは!」
やけに明るい子だった。
かっこいいと言うよりも、強いて言えばかわいい方に分類されそうなタイプ。幼い感じがした。
印象的だったのは大きな口で、とてもきれいに笑う。
スマイルマークみたいだった。
「こんにちは、諒君。こっちが高田奈央。こないだ言ってた子ね。」
ユキはまだ喋らない私の代わりに喋っている。
私は…
「こんにちは」
と言うのがやっとだった。馬鹿みたいに。違う、本当の馬鹿だ。
こんなことで困って、迷って…馬鹿だ。
『大丈夫。』とユキが言ってた。大丈夫。
やっぱり馬鹿みたいだけど。
「本田諒です。よろしく。」
諒君は20歳で3歳年下の大学生。
だから幼く感じたのかも知れない。年下なんだから。
グリーンのチェックのネルシャツにジーンズ、スニーカー。
髪も染めてはいるけど目立つほどじゃない。
私が言うのも何だけど、とても普通の子だ。
不思議とほっとした。
今日一日くらいなら―
今日だけ
―つづく