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招かれざる来訪者

 場所と時間は再び戻って、マティス国の大聖堂。


 マティス国の女王と国王、デルタ国の国王と王妃の前に、中央の赤い絨毯の上をゆっくりと歩いて来たジーナとプログノスが並ぶ。そんな2人を、マティス国・デルタ国の両国の王候貴族達は、うっとりとした眼差しで見守る。人形の様に愛らしいジーナと、絵から抜け出した様な美貌のプログノスは、ただそこに並んで立っているだけで、見る者全てを魅了していた。

 ただ一人、紳士の仮面の下で、乙女心の嫉妬に狂うディールを除いて。

 ジーナとプログノスが祭壇の前に進んだ所で、婚約の儀が執り行われる。両国の中で一番権威のある神官が、太古の昔から言い伝えられてきた、ドラグーンの言葉を厳かに読み上げる。実際には、あまりに古すぎる言葉なので、ジーナは勿論、この場にいる者全てにその意味はさっぱり分かってはいない。 確かな事は、とにかくありがたいという事だけだった。

 儀式はゆったりと進行し、最初に両国の女王と国王が、それぞれの調印書に署名を済ます。これにより、国同士の取り決めが成立し、先ずは2つの国が1つに統合された事となる。

「両国の王の承認により、北を統べるローグラウ・マティス国と、南を統べるアルグライザ・デルタ国の、統合が今ここに成立した事を宣言致します。続いて、ローグラウ・マティス国の第1皇女・クラベジーナ=ベルジュア=ノーヴェンと、アルグライ・デルタ国の第1皇子・プログノス=バラウセア=インビエルノの婚約の儀に移ります。偉大なるドラグーンの御前にて、異議なき者は沈黙を守りなさい。異議のある者は、この場で名乗り出なさい」

 続いて、神官が参列者一同を見渡し、異議の有無を問いかけるが、こんな時に嫌という馬鹿はまずはいない。参列者達は、皆俯き、沈黙を守る。

 こんな婚約、誰が認めるものですかっ!

 嫉妬に狂ったディールは、普段の最大の猫かぶりを捨て、思わず名乗りをあげようとする。

 ぞくり・・・。その背に冷気(殺意)が吹きつけられてきたため、ディールが恐る恐る振り返ると、 背後には笑みを湛えたフィアが、いつの間にか立っていた。一見、その顔は、美しい華の様に微笑んでいる。

 しかし、その真意は。

 邪魔をすれば・・・。

 そういう、フィアの無言の圧力が、鞭なしでディールを一瞬にして縛り上げた。

「殊勝な心がけ、恐れいります。流石は、マティス国一の優雅な紳士・ディオルス=ベルクローゼン卿ですわ」

 ディールの耳元で、フィアは妖艶に微笑み、留めを刺す事を忘れない。その言葉は丁寧ながら、最大級の皮肉が込められていた。

「・・・・」

 ディールはフィアの前に敗北し、彼女の監視の元に、婚約の儀を大人しく見守る事となる。

「異議のある者はおりませんな。では、お2人共、こちらの誓約書に署名をなさってください」

 しばしの沈黙の後で、ジーナとプログノスの前に婚約の誓約書を差し出し、神官は署名を促す。ジーナとプログノスの手には、それぞれ特殊な魔法が掛けられた、羽ペンが手渡される。これで誓った事は、2度と取り消す事が出来ないという、神聖な儀式に用いられる道具である。ちなみに使用されるインクは、誓約交わす本人達の血である。

「どうやら、無事に終わりそうですね。ドラグーンはお見えになっておられない様ですが、きっと、私達の事を見守って下さっている事でしょう」

 羽ペンを受け取り、プログノスは隣のジーナに安堵した様に話し掛ける。

 いや、実際は、自分自身が数日前から抱いていた、言い様のない不安に言い聞かせていたのかも知れない。

「はい」

 消え入りそうな声で答え、ジーナは淑やかに微笑む。

 ジーナは、静かに大聖堂の中を見渡す。

 確かに、ここにはドラグーン達の姿は見当たらない様だ。

 ジーナには、幻惑を看破する能力が授かっている。その為、いかに魔法で姿を変えようとも、ジーナの瞳には変化の前の姿が映るので、誤魔化す事は出来ない。

 良かった、無事に終わりそう・・・。

 この後に控えている盛大な晩餐会(馬鹿騒ぎ)にはうんざりするが、取りあえずは儀式の終了が見え、ジーナは胸の中で安堵する。

「・・・?」

 その時、ジーナの瞳の端に、一瞬何かが映る。

 マティス国の群衆の中に、黒いオーラの様なものが立ち昇り、瞬間的にかき消えたのだ。

 その姿は、一人の青年の様に感じられたのだが、あまりに一瞬の事だったので、ジーナには確証を得る事が出来なかった。

 ・・・?何なの、今のは・・・?

 途端にジーナの胸が、不安で掻き毟られる。背中には冷汗が伝い、全身には鳥肌が立っていた。

「ジーナ殿?」

 隣に立っていたプログノスが、どこか落ち着きのないジーナの様子を訝しり、話し掛けて来る。

「・・・いえ、何でもございませんわ」

 プログノスに微笑みかけ、ジーナは今見た物を、自分の気のせいだと片付けようとする。

 そして、羽ペンの尖ったペン先で自分の指を突き、血を吸いこませる。

 プログノスも指先を突き、2人が顔を見合せて署名をしようとした時、邪魔が入った。



「その婚約、妾は認めぬ」

 少女の声が響き、ジーナとプログノスの手は、誓約書の寸前で止まる。

 大聖堂はどよめき、皆が声の主を探すが、その姿は何処にも見つける事が出来ない。

「・・ちが、違うわ!私じゃないわよ!」

 ディールは慌てて、自分の背後にいるフィアに、自分の身の潔白を訴える。

「それ位、わかっております!」

 声の主に、フィアは直感的にただならぬものを感じとり、ドレスの中に忍ばせてあった鞭に手を伸ばす。

「・・・誰だ?おいで、光の妖精・レナリス。」

 デルタ国の群衆の中にいたルクサリオも、異常事態に緊張を走らせ、素早く光の妖精・レナリスを召還する。

【は~い❤】

【ルクちゃん、呼んだ?】

【かわいい~❤会いたかった❤】

 呑気な幼い少女達の声が木霊し、体長が15cm程の妖精達が姿を現す。その姿は、金の柔らかなパーマの掛った腰までの髪に、大きな空色の瞳。足首までがすっぽりと覆われる白のドレスを身にまとい、背中に生やした蝶々に似た羽で、ひらひらとルクサリオの周りを舞っている。

 その直後、大聖堂の中は、一寸先も見る事が叶わない、漆黒の闇に覆われた。暗闇の中に、参列者達のざわめきと、衣擦れの音が響く。皆、突然の出来事に混乱し、視界を奪われ、その場から動く事が出来ずにいる様だ。

「この非常事態ゆえ、御身に許しなく触れる無礼をお許し願いたい。・・・ジーナ殿。どうか、私の側を離れられぬ様に・・・」

 隣のジーナを自分の側に引き寄せ、プログノスは周囲に気配を凝らす。

 闇の中より、数日前に感じた、あの殺意にも似た血潮の様な生臭い悪意が、ジーナとプログノスを容赦なく襲う。

 やはり、不吉の前触れだったか・・・。

 自分の予知が現実となった事に、プログノスは歯噛みしたい衝動に駆られる。

「・・・」

 一方のジーナは、表向きはプログノスの影で震える淑やかな皇女を演じながら、自分達を闇から見据える相手を探し、何時でも攻撃を繰り出せるよう、拳に意識を集中していた。この暗闇なら、多少派手に暴れようが、誰の目も気にする必要はないだろう。それに、普段から鍛錬を積んでいるジーナには、光があろうが無かろうが、そんな事は大した事ではない。要は、平常心さえ失わなければ、相手が何処から攻めて来ようとも、直ぐに対応が出来る筈だ。

「・・・ぎゃっ!」

 突如、ジーナとプログノスの直ぐ近くの暗闇の中で、何者かが叫び、床の上に倒れ込む音が響く。声からして、神官に違いない。

「・・・ふん。こんな誓約書、俺の前では何の役にも立たん。こっちが国の統合で、こっちが婚約か」

 低い残忍な男の声が響き、次に、誓約書が燃やされる。

 一瞬の炎の中に照らし出されたのは、濃い紫色の髪と、金の冷淡な目をした、2mを超える長身の男の姿。耳は細く長く尖っており、体に刻まれた独特の文様から、魔族以外の種族である事は一目瞭然だった。

 本来なら、何があっても破棄する事の出来ない誓約書が、いとも簡単に炭屑にされた事を考えると、目の前のこの人物の実力は、ドラグーンを超えるか、それと並ぶ者である事は想像に容易い。

「来い、時の妖獣・ロードグラン!」

 相手の実力を、瞬時に感じとったプログノスは、素早く時の妖獣・ロードグランを召還する。

【我が主よ、我を呼んだか?】

 次の瞬間、プログノスの側に、全身が真っ白な綺麗な毛におおわれた、頭が鷲、体がライオン、背中に大きな2枚の羽を生やした合成(キメ)()が姿を現し、召還(マスタ)()のプログノスに低い男の声で話しかける。体長は後ろ足で立ち上がると、プログノスを優に超える大きさだ。

 このロードグランは、プログノスが魔法をより強化させる為、姿を具現化させたものである。

 先程、ルクサリオが召還したレナリスも、魔法が具現化した姿だ。

 仮に、同じ魔法を発動させたとしても、その姿は召還主によって大きく異なる。ただ、共通している事は、彼等は召還主の命には背く事がなく、人語を理解し、自らの意志で行動するという事だ。

 補足をしておくと、一定レベルの実力に達していない者には、魔法に姿や意思を持たせる事は出来ない。これは、超難関で高度な魔法技術である。

「ロードグラン。私がいいと言うまで、私達以外の者達の時間を縛れ!」

 プログノスは、短い言葉でロードグランに命じる。

【一切、承知】

 ロードグランは、プログノスの短い言葉で主の考えを全て読み取り、不敵に唇の端を吊り上げにやりの笑い、目にも止まらぬ速さで闇の中を縦横無尽に駆け出す。

 ロードグランに触れられた者達は、そのまま動きを止める。

 やがて、ロードグランは、自分の通った道筋で魔法陣を造り上げ、起爆地点を前足で力一杯踏みつける。

 その瞬間、マティス国・デルタ国の参列者達の時間と身体は、ロードグランによって凍結させられた。こうしておくと、彼等に危害が加えられる事がない。時が止められた者達は、魂と体を凍てつかされ、その姿は幻となる。従って、傷を負う事も、命を奪われる心配もなくなるという訳だ。

 魔法陣を発動させたロードグランは、その起爆地点からは動かず、ただプログノスの意思に従う。

「・・・ほう。中々にやるではないか。これだけの人数の時を、一瞬にして凍らせるとは。しかも、魔法に姿と意思を与える事が出来るとは。思っていたよりは、楽しませて貰えそうじゃな」

 先程の少女が、男の横に姿を現し、暗闇の中で、プログノスとロードグランを興味深そうに眺め、ニッと笑う。

「プログノス様、ジーナ様!レナ(レナリスの愛称)を送ります。どうか、目としてお使い下さい!」

 暗闇の中から、ルクサリオの声が響く。

【ルクちゃん、任せておいて❤お邪魔しま~す】

 元気な女の子声が響き、その直後、ジーナとプログノスの体の中にレナリス達が飛び込んで行き、彼等の目は暗闇の中も昼同様に見渡せる様になる。

 先程、ルクサリオが召還したレナリスは、暗闇を照らす以外にも、体の中に取り込めば、闇の中でも『目』として使役する事が出来るのだ。

 ちなみに、ルクサリオが今も動く事が出来ているのは、プログノスの考えを先読みし、シールドを張り、魔法を跳ね返していたからだ。ルクサリオは、自分にシールドを張ると同時に、フィアにも同じ物を張った。

 ルクサリオ同様、異常を感じとっていたフィアは、自分にシールドが張られた事を感知した瞬間、自分の直ぐ前にいたディールの体を素早く引き寄せ、プログノスの魔法から身を守っていた。

 つまり、今、この場で動いているのは、ジーナとプログノス、それにルクサリオとフィアとディール。それに、長身の男と少女の7人だけという事になる。

「こんな時に、他人の心配とは大した余裕だな。流石は、ローグルとアルグドの血を継いだ者達だ。自分達の命が消えようという時に、泣かせる話だな」

 男は、半分は感心した様に、そして半分は馬鹿にした様に、プログノスをじっと見据える。

「お前は、何者だ?」

「・・・はっ。相手に名を尋ねる時は、自分が先に名乗るものだろうが。だが、いいだろう。今日の俺は機嫌がいい。特別に教えてやる。俺の名前は、ヴァゼンシグド。貴様等の先祖の産みの親の古い古い友人と言ったところか?」

 プログノスを見下ろし、不快そうに鼻を鳴らした後で、ヴァゼンシグドは自分の名を名乗る。

 はっきりとした視界でヴァゼンシグドの姿を観察すると、やはり、魔族ではないらしい。その容姿は、長さがちぐはぐの好きな方向に向いた濃い紫の髪に、金の冷淡な瞳。身長は208cmもあり、体は逞しい筋肉が盛り上がり、かなり大柄な人物。年齢は不明だが、見た目は20歳半ばといったところか。その体は、光沢を帯びた固い鱗に一面覆われている。

「・・・ドラグーン様の?」

 今まで黙っていたジーナが、怖そうな演技で口を開く。

 ドラグーンの友人という事は、目の前のヴァゼンシグドも神竜という事になるのではないか?

 しかし、ヴァゼンシグドという名は一度も耳にした事がないし、仮に神竜ならば、何故、自分達を狙って来るのだろうか?

「なんじゃ。そちは、弱そうな娘じゃな。妾の名は、ラニア。覚えておく必要はないぞ。何故なら、そなたらは今から死ぬ身であるからな」

 ジーナの全身をじろじろと観察し、ラニアはおかしそうに笑う。

 ラニアの容姿は、ラベンダー色のボリュームのある髪を、耳の両横とポニーテールの三つで結び分け、どこか気高さを感じさせるロイヤルブルーの瞳をしている。身長は130cmと低く、見た目は10歳位の愛らしい少女。しかし、口調は大人びており、本人が無意識に周囲に与えるプレッシャーは、彼女も唯者でない事を示している。

「ヴァゼンシグドよ、妾はこの男の方を貰うぞ。こんなか弱い娘を貰ったとて、満足に楽しむ事も出来ぬ」

 ヴァゼンシグドを見上げ、ラニアが話しかける。

「俺は、別にどっちでもいい。マムが男の方がいいのなら、俺は娘でいい」

 特に異論はないらしく、ヴァゼンシグドは、ラニアに素直に頷く。

 先程から観察していていると、ヴァゼンシグドよりもラニアの方が、立場は上の様だ。

「決まりじゃ。では、参る!」

 笑うと同時に、ラニアは魔法で燃え盛る炎の壁を、何のアクションも見せないまま、ジーナとプログノスの周囲に召喚する。一瞬後、漆黒の闇が、不気味な赤色に塗り替えられる。

「プログノス様!」

「ジーナ様!」

 離れた場所から見守っていた、ルクサリオとフィアが、それぞれの主を気遣い、その名を呼ぶ。離れた場所にいる彼等にも、凄まじい熱気が容赦なく吹き付けて来る。

「無駄だ。マムの魔法の召喚速度には、誰も勝つ事が出来ない。貴様達の主は、何が起こったか理解も出来ぬまま、哀れな炭屑と化した。随分と、呆気ない最期だ。いくら、か弱き魔族とはいえ、ローグルとアルグドの血を受け継ぐ者達。もう少し位は、まともな抵抗をしてくれると思っていたのだが・・・」

 フィアとルクサリオに冷たく言い放ち、ヴァゼンシグドはつまらなそうにしている。

「・・・いや、そうでもなさそうじゃ」

 そんなヴァゼンシグドを仰ぎ見、ラニアは嬉しそうに笑う。

「随分と、物騒な輩の様だ。いきなり、人をウェルダンのステーキにしようとは・・・」

 炎を引いた後には、涼しい顔のプログノスと、彼に護られる様にして、その背後にジーナが立っていた。2人共無傷で、衣装に焦げた跡もない。

「素敵❤」

 プログノスの雄姿に、護られているジーナを自分に置き換え、ディールは頬を赤らめ、場違いな溜息を洩らす。

 場面は緊迫している為、今は、誰もそんなディールには気を止めてもいない。

「・・・ほう」

 ヴァゼンシグドが、感心した様に目を細める。

 未来を見通す能力を持つプログノスは、ラニアが炎の壁を召還する事を先読みし、それよりも早く、幾重にも水と氷の壁を張り巡らせ、自分達の体を耐熱ガラスの様な膜で覆っておいたのだ。その為、炎の熱と威力から身を守る事が出来た。

プログノスが、魔法の腕とスピードが魔界一と言われる由来は、この能力から来ている。

凄い・・・!

プログノスの魔法の腕前に、ジーナはただ感心していた。

それと同時に、自分も暴れたくてうずうずして来る。護られているのなど、自分の趣味には合わない。

「思っていたよりも、ずっと楽しめそうだ。次は、俺だ!」

 言葉が終わる前に、ヴァゼンシグドはジーナとプログノスとの距離を詰め、足を大きく振り上げ、かかと落としを繰り出してくる。

「・・・!」

 魔法は得意なプログノスだが、素早すぎるヴァゼンシグドの動きにはついて行けず、一瞬遅れを取る。

「・・・あっ!」

 そんなプログノスの体を、あくまで自分がよろめいた素振りで突き飛ばし、ジーナはヴァゼンシグドの攻撃を難なく交わす。

「フィア、お願い!」

 そして、フィアに向い、目くらましの空間を作るよう、合図を送る。

 誰の目も気にせず、自由に暴れまわる事が出来る様にと。

「かしこまりました」

 フィアは直ぐに頷き、ジーナとヴァゼンシグドの体を、目くらましの空間へと閉じ込めてしまう。

「ジーナ殿!」

 ジーナとヴァゼンシグドの姿が消えた事に驚き、プログノスはその後を追おうとするが、ラニアがそれを許さない。

「何処行く?そちの相手は、この妾ぞ。油断をしておれば、今度こそ、その麗しい容姿を、二目と見れぬ姿にしてやろうぞ」

プログノスの行く手を遮り、ラニアが不敵に笑う。

「女子供を、相手にするのは気が進まないが、致し方ない。悪いお嬢さんには、お痛が出来ない様にお仕置きをしておかないといけない様だ・・・」

 ラニア相手に、手を抜く事は一切出来ない為、プログノスは目の前の相手に集中する事にする。

「言って置くが、妾は、そちよりもずっと年上ぞ。可愛がってやろう、かかってくるがいい、坊や」

「私は、坊やではありません。言い忘れていましたが、私の名はプログノス。デルタ国の第1皇子です。呼ぶのなら、きちんと名前で呼んで頂きたい、ラニア殿」

 見た目は、自分よりも遥かに子供のラニアに坊や扱いをされ、プログノスは気分を害す。

「生意気な。デルタ国と言えば、アルグドの血脈か。確かに、その品の良さはかの者に良く似ておる。いいだろう。では、プログノスよ、何処からでもかかってくるが良いぞ」

 プログノスを見上げ、ラニアは鼻を鳴らし、彼を挑発する。

 その後、プログノスとラニアは、互いの隙を窺い、しばらくは無言で睨み合う。


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