明かされた因縁①
「さあ、出来たよ。これを飲んでみて」
案内された研究室で、プログノスの為の魔法薬を素早く完成させ、フォルクは別室で休んでいたプログノスに手渡す。
ここは、プログノスが傷の療養の為に案内された、マティス国の来賓用の客室の一つ。部屋の中には、他にもルクサリオとフィア、ディールと縁、それにドラグーン達もいる。
「すまない」
ベットに横たわっていたプログノスは、フォルクに助けて貰い体を起こし、出来たばかりの魔法薬を口に運ぶ。プログノスは、最初は苦い味の薬に顔を僅かにしかめるが、直ぐに、体の内側から不思議な安らぎが広がり、ラニアから受けた傷の痛みを和らげていく。
「・・・大したものだ。王宮の薬師だって、こうはいかないぞ」
人間である筈のフォルクが造った魔法薬の威力に、プログノスは目を細める。
「そう?昔からの趣味で、人間界でも魔法薬の研究をしていたんだ。でも、役に立って良かったよ」
何時もの人間の姿に戻ったフォルクが、無邪気に笑う。
「それじゃ、落ち着いたところで、話を聞かせて貰ってもいいかな?」
一同を見渡し、ローグルが口を開く。
このローグルは、魔界の北半球を治める、ドーグラウ・マティス国の守護竜だ。その容姿は、肩までのちょっと癖のあるショートカットの金髪に、よくくるくると動く悪戯なブルーの瞳。身長は160cm、体系は小柄で、見た目は十代半ばの悪戯好きの少年の様だ。ドラグーンだと言われなければ、育ちの良い、活発な少年にしか見えないだろう。
「はい。本日は、魔力の安定を図る為に、我がマティス国とデルタ国の統一を果たすと共に、プログノス様と、ジーナ様の婚約が結ばれる事になっていました」
ローグルの問い掛けに答え、フィアは今はこの場にはいない、ジーナの身を案じる。
「その事は、両国の王より聞き知っていた。私達も、この世界の安定の為には、最前の方法だと判断し、承諾をしたのだが・・・」
フィアの言葉を聞き、アルグドが静かに頷く。
対し、このアルグドは、魔界の南半球を治める、アルグライザ・デルタ国の守護竜である。その容姿は、背中までの柔らかな紅色のストレートの髪に、光の加減では金にも見えるオレンジの瞳。身長は182cmで、細くスレンダーな体型をし、見た目は20歳前半。その言動は常に落ち着き払い、鼻の上にちょんと乗せられた眼鏡が、更にアルグドを知的に見せていた。
今のローグルとアルグドは、お出かけ用の人形をとった姿であるが、人に与える印象は背中合わせである。例えるならば、手がやける生徒と、落ち着いた先生といった所だろうか?
「儀式の途中で、突然視界が闇に覆われ、あのラニアとヴァゼンシグドという2人組が現れたんです。それで、オレ達は二手に別れて闘う事になりました。プログノス様とオレは、ラニアという名の女の子(?)と・・・。ジーナ様とフィア、それにディール様は、ヴァゼンシグドという男と・・・」
ルクサリオは、ヴァゼンシグドとラニアと、戦闘に至った経緯をかいつまんで話す。
「で、こっちの坊やは誰なの?見たところ人間の様だけど、ドラグーンの力も感じるわ」
フォルクを指差し、レベリナが尋ねる。
レベリナは、ローグルの妻だ。その昔、ローグルに見初められ、マティス国の初代女王を産み出した者である。その容姿は、背中までの少し癖のある黒髪に、気の強そうな黒い瞳。身長は168cmで、スタイルの整ったスレンダーな体型。年齢は、見た目では十代後半といったところだろうか。どこかジーナに似た所がある、整った美貌の持ち主だ。
「僕は、人間界にあるバルジュ・ルベア国の第1王子のフォルク。誰かに呼ばれて、気がついたらここに来てたんだ」
自己紹介と、自分がここに来た経緯を簡単に説明し、フォルクはレベリナに笑いかける。
「彼は、私の失われた半身です。300年の時を経て、私達は再会を果たしたのです」
フォルクの言葉の足りない部分を、プログノスが継ぎ足す。
「では、300年間に行方が知れなくなった、第1皇女の血縁者なのですね。ひと先ずは、御身が無事で何よりですわ。フォルク殿、よくぞ戻られました」
プログノスとフォルクを交互に見つめ、ウェリカが穏やかに微笑む。
このウェリカは、アルグドの妻。その昔、アルグドの元に嫁ぎ、デルタ国の初代国王をこの世に生み出した女性である。その容姿は、腰までの柔らかな青みかかったプラチナの髪に、水晶色の慈愛に満ちた瞳。身長は160cmで、華奢な位の細見、見た目は十代半ば位か。どこかプログノスに似た、儚げな美貌の持ち主である。追記をすれば、ウェリカの瞳は、生まれつき光を映さない。それは、ウェリカが生まれ持った、能力に由来しての事なのだが・・・。
レベリナ・ウェリカ共に、王となる子を出産後、ドラグーンの牽族に加わり、人ならざる者となり、現在に至るまでの悠久の時を、夫と共に世界の行く末を見守り続けて来ていた。
「まあ、デルタ国に失われた能力が戻った事は良かったよ。問題は、マティス国の能力者が連れ去られた事なんだよね・・・」
深い溜息を吐き出し、ローグルは頭をかく。
「殺さずに、連れ去る?一体、何が目的なのか?」
アルグドはぼそりとつぶやき、首を傾げる。
「その事でしたら、あのヴァゼンシグドいう男は、自分の子供を産ませる為だと話していました。あなた方の真似をするのはつまらないから、ただの魔族の女ではなく、ドラグーンの能力を継いだ、我が姪・ジーナの身が最適だと・・・」
ヴァゼンシグドが話していた事を思い返しながら、ディールが話す。
「・・・成程ね。あいつらしいと言えば、まあ、あいつらしいんだけど・・・」
ディールの言葉を聞き、ローグルは大袈裟に肩をすくめる。
「でも、女を馬鹿にしきっているわ!」
「私も、そう思いますわ」
レベリナとウェリカは、互いの顔を見渡し、不快感を露わにしている。
「だが、そこまでして、私達に復讐がしたいという事なのだろう。本当に、困った相手だ・・・」
眼鏡の奥に、相手に対する憐れみさえ浮かべ、アルグドは溜息を吐き出す。




