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囚われのジーナ②

「・・・ジーナ様っ!ヴァゼンシグド!ジーナ様に、一体何をしたのです・・・?」

 座りこんでいた床の上から立ち上がり、フィアは手にしていた鞭を、ヴァゼンシグドに向い放つ。 

 そのフィアの攻撃を、ヴァゼンシグドはあえて受け、自分の片腕に鞭を巻き付けさせる。

「貴様も、大したものだが、悲しいかなただの魔族に過ぎない。従って貴様には用はない。クラベジーナには、少しの間だけ眠って貰っただけだ。最も、私が命じなければ、永遠に目覚める事もないがな・・・。この娘は、俺の操り人形と化した。貴様には、死んで貰おう」

 自分の腕に絡みつく、フィアの鞭と魔法の威力に関心した後で、ヴァゼンシグドは腕を自分の体の方に引き寄せ、フィアの態勢を崩す。

「ふざけんじゃないわよ!女の扱い方も満足に知らない、この馬鹿男!」

 フィアの首を、手刀で叩き落とそうとしているヴァゼンシグドの首に、ディールは蹴りを叩きこみ、それと同時に、フィアの身を助け出す。

 ヴァゼンシグドは、素早くその攻撃をかわすが、微かにディールの足先がその肌の表面を掠めて行く。

「・・・?」

 ぶしゅ・・・という小さながし、違和感を感じたヴァゼンシグドが自分の首筋に手をやると、ディールに蹴られた部分の肌が裂け、血が滴り落ちていた。

「成程。男の癖に、ふざけた言葉を使うが、大した奴だ。俺の肌に傷を負わすなど、あいつ等以外には出来ないと思っていたからな・・・。貴様も、中々に面白い奴だ」

 自分を傷つけたディールを、ヴァゼンシグドは、どこか敬意にも似た眼差しで見つめる。

「どうして、傷がついたのかしら?さっきまでは、何をやっても通用しなかったのに・・・?」

 完璧な鎧をまとった筈のヴァゼンシグドに、自分の無意識の攻撃が通用した事に、ディールは不思議そうにつぶやく。

「いやん、そんな目で見ないで!私に惚れても駄目よぉ!これでも一応は、妻と子がいるんだからっ!それに、私はいい男が好きなのよぅ!あんたみたいな女心の分からない奴は、絶対に嫌なんだからぁ!」

 しかし、その直後、何時ものディールに戻り、ヴァゼンシグドが自分に惚れたと勘違いをし、半分は顔を赤らめ、半分は本気で嫌がり、体をくねくねさせ始める。

「・・・?何を言っている。貴様は男だろうが?俺には、男色の趣味はない」

 ディールの勘違いの言葉を聞き、ヴァゼンシグドは大真面目な顔で、否定をする。

「あら、そうなの?良かったけど、ちょっと残念だわ・・・」

 そんなヴァゼンシグドに、ディールは本気で残念がっている様だ。

「・・・こほん。ディール様!ふざけた事を言っていないで、ジーナ様を助けて下さい!攻撃が通用するのなら、ヴァゼンシグドの腕でも、足でも首でもいいから、さっさと吹き飛ばして下さい!」

 今は、ヴァゼンシグドに抱えられ、ぐったりとして動かなくなったジーナに視線をやり、フィアはディールに本気を出す様に促す。

 これがなければ、本当に尊敬が出来るお人なのに・・・。

 本当に、残念だわ・・・。

 ディールを今一つ尊敬しきれない本当の理由を、フィアは腹の中で嘆く。

「そうよね。何とかしないと、マジやばいわよね・・・」

 ジーナが連れ去られるという事は、マティス国からドラグーンの能力者がいなくなる事を意味し、それは結果的に、魔族世界への崩壊へとつながって行く事になる。

 ふざけていても、ディールの頭脳は明晰の方だ。

「ジーナは返して貰うわよ!女を本気で怒らせたら、怖いんだから!」

 ジーナの奪還を最優先事項に据え、ディールは再び、ヴァゼンシグドに肉弾戦を挑んで行く。

その後、少しの間、ヴァゼンシグドとディールは一進一退の攻防線を繰り広げていた。

「・・・・!・・・来たか。随分と遅いお出ましだな」

 しかし、何者かが自分達の空間に向って来ている気配を察知したヴァゼンシグドは、憎しみのこもった瞳で、何もない空中を睨み据える。

「・・・マム。厄介な奴等が来そうだ。今回は、一旦引き揚げるぞ!この檻を、外から破ってくれ!」

 ヴァゼンシグドは、ディールから大きく距離をとり、まやかしの空間の外にいるラニアに話し掛ける。

「・・・確かに。折角、血が騒いできたところじゃというのに、ほんに残念な事じゃ」

 ヴァゼンシグドの言葉を聞き、プログノスやフォルク達と向かい合っていたラニアは、忌々しそうに舌打ちをする。ラニアはそのまま、フィアが張ったまやかしの空間に向い手をかざし、破壊の魔法をぶつけ、大きな穴を穿つ。

 それと同時に、フィアが張ったまやかしの空間は打ち砕かれ、ジーナを抱えたヴァゼンシグドと、ディールとフィアの姿も、大聖堂の中に姿を現す。

「・・・っ!」

 自分がかけた魔法を、ラニアに強制的に破壊された事により、術者のフィアにその余波が行き、フィアは顔をしかめうずくまる。

 魔法を強制的に跳ね返されると、内側から精神的な破壊攻撃を受ける事になり、術者の精神はかなり消耗される事となる。

「・・・フィア!」

 フィアの身を気遣い、ルクサリオが側に駆け寄る。

「・・・ルクサリオ。私は、大丈夫です。ですが、ジーナ様が・・・」

 ルクサリオに自分の身の安全を伝え、フィアはジーナの体を抱えたヴァゼンシグドを指差す。

「・・・ジーナ殿!」

 プログノスは、ジーナに向い大声で呼びかけるが、意識を闇の封印されたジーナには、その声は届かない。固く瞳を閉ざしたまま、人形の様に動かない。

「ヴァゼンシグド。何じゃ、その娘は?殺したのか?」

 自分の側に来たヴァゼンシグドに、ジーナの顔を覗き込みながら、ラニアが問いかける。

「いや、殺してはいない。殺すつもりだったが、面白い事を思いついたので、このまま連れていく事にした」

 その後、ヴァゼンシグドは、ラニアの耳元で小声で何かを囁く。

「・・・成程。中々にいい案じゃ」

 そのヴァゼンシグドの言葉を聞き、ラニアはおかしそうに笑う。


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