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プロローグ

 太古の昔、魔族が住まう二つの国には、それぞれドラグーンと呼ばれる神竜がいた。

 北半球を支配する、ローグラウ・マティス国(以後はマティス国)には、ドラグーン・ローグル。

 南半球を支配する、アルグライザ・デルタ国(以後はデルタ国)には、ドラグーン・アルグド。

 混沌として未だ定まらぬ魔力を治める為に、魔族達は、ドラグーン達に自分達の王を願い出る。

 そこで、ドラグーンと魔族達の間で話し合いがもたれ、それぞれの国から1名ずつ、ドラグーンと交わり、彼等の子を成す巫女が選出される事となる。

 神竜とは言え、自分達とは全く違った種族。

 年頃の娘達は、皆、恐怖を感じ、自分が選ばれぬ事を望む。

 厳正なる詮議の結果、家柄・容姿・知性に優れた娘達が選ばれ、ドラグーン達は、その中から、優れた伴侶を選ぶ事になる。

 厳格で真面目な南のドラグーン・アルグドは、彼等の用意した候補者の中から、神官の娘にして、特殊な能力を持ち、生まれながらに盲目のウェリカを巫女に指名した。

 一方、少々・・・いや、かなり風変りな北のドラグーン・ローグルは、候補者を全て嫌だと却下した。そして、偶然見つけた盗賊の女性レベリナを、自分の感性と直感(はっきり言って一目惚れ)で巫女に据えた。

 それぞれのなり染めはともかく、彼等の間には無事に王となる子が誕生し、その後、それぞれの国を統治して行く事となる。

 それから、しばらくは緩やかで平和な時間が両国に流れていたが、邪な企みを抱く者の出現により、バランスは崩されてしまう。

 初代の王より、マティス国では女性。デルタ国では、男性がその能力と王位継承権を受け継いでいた。

しかし、能力を双子の兄に奪われ、王位を継ぐ事が出来なかった時のデルタ国王の双子の弟が、兄を妬み、懐妊中の王妃に呪いをかけた。

 それは、王妃が男児を産めぬ様にする事と、その能力をニ分化させる事だった。

 結果、王妃が産み落としたのは第1皇女だった。生まれた皇女は、女の子でありながら、代々受け継がれた能力を半分だけ有していた。これだけでも、王家や王国にとっては、十分に存続の危機。

 だが、それだけでは気が収まらなかったのか、弟は皇女をさらい、魔力とは全く無縁な人間界へとその身を追放してしまう。

 皇女の失踪に、王国は湧きたち、その身柄を必死になって捜索をしたが、遂に探し出す事は叶わなかった。

 皇女の誘拐を企てた弟とその身内の者達は、その後、兄より死罪を言い渡されたが、最期の瞬間まで、皇女の居場所を明かそうとはしなかった。そして、弟は呪いの言葉を残し、この世から去って行った。

 その後、王と王妃の間には、第2皇女が誕生し、その皇女は残りの能力を有してはいたが、デルタ国はこの後、300年の永きに渡り、魔力が定まらない不安定な時期を過ごす事を余儀なくされてしまう。

 この時、実は弟の縁者の人物が一人辛くも難を逃れていた事に、誰一人として気がついてはいなかった。

 その事がやがて、後の世の3人の継承者達と、マティス国とデルタ国、更には人間界をも巻き込む、存続の危機につながって行く。

 運命の歯車は少しずつ軋みながら、ゆっくりと、しかし確実に、その時に向って行く事となる。


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