ノイズの音楽隊と第三の才能(ギフト)
1. ノイズの拡張:世界が奏でる不協和音
律の聴力は、以前よりも遥かに鮮明になっていた。彼の耳には、街の喧騒だけでなく、地表の下で脈打つ**『社会の構造的なノイズ』すら、深く、重く響き渡っていた。それは、プロデューサーが言っていた「世界の欠陥」そのものが奏でる、巨大な低周波のうなり**だった。
「律くん、大丈夫?顔色が優れないわ」
和音は律の手を握る。彼女のノイズは、**『強い愛情』と『律への信頼』**という、優しくも力強い旋律で満ちていた。律は、和音のノイズを聴くと、世界の轟音から守られているような安らぎを感じた。
「ああ、大丈夫だ、和音。俺の聴覚が、世界の**『歪み』**を以前より鮮明に捉えているだけだ」
律は、ディストーションの最高幹部**『マエストロ』の正体と、彼らが目指す『原初の静寂』**の情報を得るため、和音と共に、タクトが以前接触を図ったアジトの残骸を捜索していた。
「プロデューサーのノイズから、彼女たちがノイズ能力者の**『特定の才能』を狙っていることが分かった。俺の『調律』、君の『切断』。そして、もう一つ、彼らが探し求めている第三の才能**があるはずだ」
和音は、周囲のノイズを視覚的に捉える**『切断師』**の能力で、廃墟に残された僅かなノイズの痕跡を追っていた。彼女の視界には、漆黒の部隊が残した、ノイズを圧縮・移動させた痕跡が、歪んだ残像として残っていた。
「見つけたわ、律くん。この壁の裏。ノイズを遮断する素材が使われている。ここに、彼らの隠し場所があったはずよ」
2. 第三の才能の鍵:感情の記録
二人は壁を破壊し、小さな地下室を見つけた。地下室の中は、特殊な装置と、ノイズ能力者の記録データが大量に残されていた。
律は、聴力で部屋全体のノイズを解析した。ここには、**『恐怖』『歓喜』『絶望』**など、あらゆる感情のノイズが、微細な波形データとして記録されていた。
「これだ…!彼らは、ノイズをエネルギーとして利用するだけでなく、**『感情のデータベース』**として集めていたんだ」
和音は、データ端末を操作し、残されたファイルを開いた。そこには、ディストーションが分類したノイズ能力者の**『ギフト(才能)』**リストが残されていた。
• ギフトI:共鳴 - ノイズの波形を聴き取り、調律する才能。(律)
• ギフトII:切断 - ノイズを視覚化し、物理的に破壊する才能。(和音)
• ギフトIII:変奏 - ノイズの波形を、自在に『書き換える』才能。
「変奏…ノイズの波形を自在に書き換える?」律は驚き、その才能の危険性を悟った。
「その才能を持つ者が、ディストーションに加われば、彼らは世界中の人々の感情を、意図的に『絶望』や『無関心』に書き換えることができる。それこそが、マエストロが目指す**『原初の静寂』**の準備だ!」
和音のノイズは、**『危機感』**で満たされた。律は、そのデータリストの中に、ギフトIIIの候補者として、一人の高校生の名を見つけた。
『小鳥遊 響 - 桜坂高校1年』
「まさか…俺たちの学校に!?」
3. 響のノイズ:SNSが生み出す狂詩曲
律と和音は、急いで学校に戻った。小鳥遊響は、クラスでは目立たない存在だが、SNS上ではカリスマ的な人気を持つ匿名アカウントの主だということが判明した。
二人は響を探し、彼が普段利用している屋上へ向かった。屋上には、ヘッドホンをつけ、スマートフォンを見つめる響の姿があった。
響から発せられるノイズは、『多重奏』だった。律の耳には、響の孤独な本音のノイズの周りに、数千人もの他者の感情のノイズが、目まぐるしく、しかし完全に響の意図通りに構成されて聴こえてきた。それは、まるで、一人の指揮者が、数千の感情を自在に操っているようだった。
「これが…変奏の才能…!」律は息を飲んだ。
律と和音が近づくと、響は顔を上げた。彼から発せられるノイズは、一瞬で**『警戒』と『攻撃』**の音色へと書き換えられた。
「…誰だ。僕の**『音楽』**を邪魔するな」
響のノイズが、二人に向けられた瞬間、律の聴覚神経が警報を鳴らした。響は、彼の能力を使い、律と和音の間に存在する『愛の共鳴』のノイズを、一瞬で**『憎悪』の不協和音**に書き換えようとしていた。
律の心臓が激しく脈打つ。和音は、律を憎むような感情を覚え始め、思わず刃を律に向けてしまいそうになる。
「和音!集中しろ!これは、響のノイズだ!」律は叫び、自身の**『調律』**の波形を、和音のノイズに強く送り込んだ。
律の愛の共鳴によって、和音の憎悪の感情は打ち消された。彼女は、律の**『決意』のノイズ**を感じ、ハッと我に返る。
「これが…変奏の力!私たちを、お互いに憎ませようとした!」
4. 律の決意:ノイズの音楽隊
響は、律と和音の連携を見て、その才能を評価した。
「すごい…僕の変奏を打ち消すなんて。さすがは共鳴師と切断師。君たちの才能があれば、僕の**『完璧な音楽隊』**が完成する。ディストーションに加わるべきだ」
律は、響に向かって、静かに語りかけた。
「小鳥遊響。君の才能は、世界を**『支配』するためにあるんじゃない。世界を『調和』**させるためにあるんだ」
律は、自分の**『共鳴』の波形を、響のノイズに送った。律の共鳴は、響の周りにいる数千の他者のノイズを一つ一つ分離し、『彼らが本当に望んでいる音』**に戻そうとする。
響のノイズの多重奏が乱れる。彼の多重奏は、彼自身の**『孤独』というノイズ**を隠すための防御だった。律の共鳴は、その孤独に触れたのだ。
響は動揺し、叫んだ。「やめろ!僕の音楽を壊すな!」
その時、タクトが率いるディストーションの部隊が屋上へと駆け上がってきた。彼らは、響の才能を奪いに来たのだ。
「響!逃げろ!」律は、響に叫んだ。
律は、和音と共に、ディストーションの部隊と対峙する。
律と和音、そして響の**『変奏』の才能。律は、この三つの才能が一つになった時にこそ、プロデューサーが提唱する『世界の構造的な欠陥ノイズ』**に立ち向かえるのだと確信した。
律は、響に向かって、**『未来への希望』というノイズを込めた『調律』**を放った。
「響。俺たちの『ノイズの音楽隊』に入らないか?世界を、最高のメロディで満たすために!」
響のノイズは、**『混乱』と『期待』という、複雑な旋律を奏でた。彼は、ディストーションに狙われる恐怖と、律が提案する『共鳴』**という、新たな可能性の間で揺れていた。




