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第八章


神宮寺綾の香水と血の匂いが混ざり合い、私は眠りから覚めた。 明かりに思わず目を細める。綾は腰に片膝を立て、パジャマの肩紐は肘まで滑り落ちている。 彼女の手には暗赤色の液体に濡れたタオルが握られていた。


「やっと起きた?」冷えたコーラの缶が首筋に押し当てられる。「痛みを感じない体質かと思ったよ」 「な…」 腹部を締めつけるような痛みが、私はエビのように体を折り曲げる。ネグリジェの下の不快な感触に胸が騒ぎ、布団をめくった瞬間、シーツに珊瑚のような赤い紋様が広がっていた。 (うっ…) 男性だった記憶で築いた防壁が轟音と共に崩壊する——体育館の更衣室でこっそり聞いた女子の囁きが蘇る。「生理の色が濃いほど…」 「生理講座は有料だからね」綾は子猫の絵が描かれた冷却シートをパチンと額に貼った。 マグカップの縁に残った口紅の跡が視界に大きく映る。生姜と黒糖の甘ったるい香りが鼻腔を直撃する。 「自分で飲む?それとも私が飲ませる?」顎をつまみ上げられる。 「そんな時になって貞操観念なんて見せつけなくていい」スカートの裾を護ろうとする手を、一本、また一本と剥がされていく。 (やめて…) パンティーが床に落とされる。彼女の嘲笑が突然止まった——私の灼熱の涙が頬を伝っていたのだ。 (…っ) この発見が、さらに恥ずかしさを募らせる。 綾は指先で私の涙を拭った。私は彼女の垂れた髪を握りしめる。 「毎月…こんな痛みに耐えなきゃいけないの?」尋ねる。 「骨折より痛いだろ?」綾はぬるま湯で濡らしたタオルを私の下腹部に当てた。


綾が太ももの内側を拭う動作は恐ろしいほど優しかった。コットン地が肌を摩擦するサラサラという音は、蚕が桑の葉を食べているようだった。 痛み止めが効き始めた頃、私は突然彼女の手首を掴んだ。「綾がいて…よかった!」 (あ…) 彼女の手のひらが私の左胸に当たる。激しい鼓動が、二人の指先を震わせた。


---


朝、綾はマジックで私の太ももの内側に十三本目の縦線を引いていた。冷たいペン先に全身が震える。 「午前三時から現在まで、葵ちゃんは合計二十七回『殺して』と言った」 腹部のショベルカーはどうやらドリルにチェンジしたらしい。彼女は体温計を振り、水銀柱が36.8度の目盛りで止まるのを見る。 「平熱」 「痛みレベル?」 「満漢全席級の痛み…」枕を噛みながら曖昧に答える。 綾はネグリジェをめくる動作をバンソウコウを剥がすように滑らかに行い、ローズオイルを塗った手のひらを下腹部に押し当てた。 「時計回りに三十六周。呼吸のリズムに合わせて」 「吸って」 (綾のまつ毛、何回震えるかな…) 彼女のまつ毛の震える回数を数えて気を紛らわせていると、突然力が加わった。 「ここよ」指先が柔らかな脂肪層に沈み込む。「子宮の投影区」 「学術用語で説明しないでよ!」 オイルの熱で痛みが少し和らぐと、綾は魔法のようにあるピンクの玩具を取り出した。 「バイブレーションが緩和するわ」 「却下!絶対いや!」枕を引き寄せて真っ赤になった顔を隠す、彼女の悪魔のような轻笑いが聞こえた。


タンポンの包装が胸元に放り投げられる。その白いアプリケーターを宇宙兵器を見るかのように凝視する。 「実践授業」綾が包装を開ける動作は拳銃に弾丸を込めるようだ。「リラックスして、ストッキングを穿く時を想像して」 「それ関係ある!?」 突然膝を開かれた拍子に、私は感電したように跳び起き、後頭部をベッドのヘッドボードにぶつけた。混乱の中で彼女のネグリジェを破いてしまった。 (あ…) 奇妙な姿勢で固まる二人。彼女がクスリと笑うまで。 「パジャマ二枚分、弁償ね」 (はあ…) 最終的にナプキンを使用することに同意した瞬間、中世の騎士が鎧を着装する心境を理解した。


綾はカイロを私の腰に貼る。「今日だけは特例でロングスカートの制服を許可する」 後ろからスカートの裾をめくるりと捲り上げられ、「見え防止用マグネットカバーよ」と言われる。


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スーパー店内はおでんの湯気で霞んでいる。私は商品棚に向かって読解問題を解いている。 綾が突然超薄夜用をカートに放り込む。「多い日はこれ」 「そんな大声で言わないでよ!」慌てて口を押さえようとするが、指先を咥えられる。温かい感触に全身が硬直し、カートは特設売り場に激突した。 「お二人様、何かお困りですか?」店員の忍び笑いの表情に即死願望が芽生える。綾は私の腰を抱きしめ、「合宿の買い出し中なんです」と宣言した。


黒糖湯がテーブルに置かれ、iPadのブルーライトが綾がペン先を噛む横顔を照らす。 画面には様々な角度の私が映っている——渋い顔で黒糖湯を飲む私、胎児のように丸くなる私、下着のフックをかけ間違える私。サムネイルの瀑布には《ノラネコ観察日誌》第19章と記載されている。 「これ…は?」 「子猫成熟全記録」彼女は突然、浴室で着替えている盗み写真を表示する。「成長速度が驚異的ね」


腰のカイロが虚偽の温もりを放出し続ける。綾が猫玉のように丸まる寝姿は、枕に髪を広げている。こっそり彼女のまつ毛を数える。 「明日は…買いに…行かなくちゃ」彼女が突然夢呓する。 (綾は…女の子同士の恋愛を受け入れてくれるだろうか) 滑り落ちた彼女の一房の髪をそっと握りしめ、そう考えた。



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