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第三章

カーテンの隙間から差し込む朝日が、凌のドレッサーに光の斑点を落としていた。

私はクローゼットに掛かった黒い布地を前に呆然とし、指先で二本の細いストラッブを弄っていた。

(··どう見ても、何か闇属性の武器の

バンデージだ)

「变態」

「私の下着を一生眺めてるつもり?」背後から続の声がした。彼女が長い髮を右肩にかける動作が、背中でくっきりと伝わってくる。

(ぎくっ!)

その言葉に触れたように手を離すと、レースの布地がひらりと床に落ちた。

ノラネコちゃん、ご主人様の下着でオナニーする気?」

綫がそれを拾い上げ、私の目の前でぶんぶん振り回す。「ヴィクトリアズ·シークレットのウィンターリミテッドよ?汚したら」

(ひゃっ!?)

終が突然接近し、鼻先がこすれそうになる。私はパジャマの裾をぎゆっと握りしめ、半歩後ずさる。背中がクロ一ゼットの扉にぶつかり、鈍い音を立てた。

「ふふつ」

綫が私の襟元をひらりとめくり、指先が肌を掠める。「真空状態、24時間継続中よ。防犯カメラにパンチラ撮られたら…」

彼女がひらりと投げてきたのは、薄く透けた黒い布の塊だった。慌てて受け止めた瞬間、レースのリボンが手首の内側をくすぐった。

(··これが···)

広げてみると、複雑な造形のブラ

ジャーだった。クロスしたストラップは、まるで中世の拷問器具の設計図のようだ。

「これ··透けすぎじゃない?」「ノラネコに選択権はないわよ」(え···?)

綫が突然、私のパジャマの裾をひょいとめくり上げる。指の腹が下腹部を撫で、細かな戦傈が走る。

「これは女の子の必須アーマーよ」

「5分だけあげる」

姿見に映るのは、不器用な私の姿だった。背中のフックは意地悪なダイヤルロックのようだ。クロスストラップが胸の谷間に食い込み、赤い痕がつく。三度目にレースの縁に指を引っ掛けた時、背後に温かな身体が密着した。

「覚えなさい」

黒いレースのブラが肌に触れた瞬間、私は思わず背中を丸めた。

「カを抜いて」

(スウー…!)

息を呑む私の声と、凌のくすり笑いが重なる。ブラジャーを着け終えると、彼女は突然私の肩を掴んでくるりと回した。

鏡には、二人の胸の膨らみを比べるかのような危険なポーズで寄り添う続の姿が映っている。私は顔を真っ赤にしてそらした。

「やっばり私より大きいわね」

「昨日の目測、誤差があったみたい」

[…目測?」

「ノラ猫ちゃんがお風呂に入ってる時

に、ついでに計っといたの」

(なっ!?)

彼女が突然ストラップをぎゅっと締め上げる。その衝撃的な圧迫感に、私は彼女の懷に飛び込むように倒れ込んだ。

薄いナイトガウン越しに、彼女の胸の鼓動が手に取るように伝わってくる。

「.·下着、買いに行かないとね」

更衣室の光灯がブーンと唸っている。私は姿見に映る見知らぬシルエットを凝視していた。黒いレースのブラジャーが、信じられないほどのくびれとヒップラインを浮かび上がらせている。

(女の子の身体って·こういう構造なのか?解剖図とは全然違う···流動する幾何学的美学だ)

(···やっばり、何度見ても凄い。自分

がこんなに美しいなんて)コンコン。

ノックの音がした。

私はドアを頭が通る程度の隙間だけ開け、外に立つ終を見た。

「これ···背中のフック、外せない··」ドアが勢いよく引き開けられ、紫羅蘭の香りを纏った続が滑り込んできた。「レッスン代は別途請求するわよ」私は身をすくめて前かがみになり、額を鏡に押し付けた。

彼女の指はまるでヴァイオリンの弦を結ぶかのように器用に動き、ブラジャーが外れた瞬間、胸の奥から見知らぬ膨張感が広がっていった。

「こっち向いて」突然の命令。

(は、はい·…?)

反射的に体を向けた刹那、続の親指が私の頭頂部を押さえつけた。

「この数値、覚えときな」

「科学は厳密さが命だからね」彼女は魔法のようにメジャーを取り出した。「動いちゃダメ」彼女が近づいて首周りを測る。垂れた髪が胸の露わな肌をくすぐる。

「呼吸が荒いと、正確なデー夕取れな

いわよ?」

(はあ·…はあ···)

メジャーがヒップラインに移動した時、私はついに彼女の手を払いのけた。

「ヒップはパンツ脱がないと正確な値

が出ないの」

「ダメっ!」私は必死にスカートの裾を握りしめる。布が裂ける音が狭い空間に鋭く響いた。

「80/64/90···罪深い数値だわ」

绫は軽く笑い、指で私の火照った類をツンツンとつついた。

「ふう··」

彼女は振り返り、ドアを少しだけ開け

て出ていった。「次は実戦よ」

私はこっそりと頭を隙間から覗かせた。下着店の暖色の照明の下、凌が商品を選ぶ様子は現代アート展をキュレーションしているようだった。彼女がビンクのブラジャーを差し出してくる。

「こんなに·露出度高くないとダ

メ?」手のひらに収まりきらない小さな布地を見て、私は目を見開いた。

「桃が熟す時期の、必要経費よ」

指先がブラの縁を撫でる。異様な触感が神経を駆け巡る。

(これが···女の子が毎日経験する儀式なのか?一見軽やかな布地は、実は身体との見えない契約なんだ···)

「手伝おうか?」続のノックが再び響く。

(やっぱり狙ってる···!さっきのと全

然違うタイプだし!)

「絶対いらない!」私は慌てて背を向け、肘が金属のフックにぶつかりガシャン!と大きな音を立てた。

ピーポーピーポーピーポー!

更衣室に甲高いブザーが鳴り響いた一

背中が非常用呼び出しボタンを押して

いたのだ。

「お客様、大丈夫ですか一!?」店員のドアを叩く音と続の爆笑が同時に炸裂する。私は慌ててブザーを止めようともがいた。

「事故の証人は必要よね」彼女がドアを開けて入ってくる様子は、まるで自分の寝室に戻るかのように自然だった。白いシャツの裾が私の太腿を撫でる。

「.··お願いします」

私は絶望的に絡み合った背中のストラップを見つめた。

(はあ···)

私は棒のように硬直し、背中を這う彼女の指先を感じる。ブラジャーのストラップが締まるたびに、布が擦れる「サッサッ」という独特の音がする。

「交差させて、三回巻いて、それから···」突然の締め付けに私は彼女の胸に押し付けられる。「···捕獲完了」鏡の中、彼女は私の肩に顎を乗せ、指がブラの縁をなぞる。「私のとは感触が違うわね」

「一緒のデザイン、着てみる?」彼女は自分のシャツのボタンを外し、白いブラジャーが鲎光灯にきらめく。「こんな感じで」

「待って!」振り返りすぎて、後頭部がハンガーに直撃した。

(ぐわっ!)

痛みで視界が揺らぐ刹那、続の指が痛む箇所を撫でているのを感じた。「本当にドジ猫ね」ため息交じりの彼女の声。「こういう時は、『脱がせてくれ』って甘えるんだよ」

「若いって素敵ですねえ」店員の忍び笑いが聞こえた。

レジ前で続はマーカーでメモ帳に書き込み続けていた。「ベーシック3セット、キメブラ2セット、スペシャルシチュエーション用·」

「スペシャルシチュエーションつ

て?」

彼女は突然メモを私の胸にペタリと貼り付け、ボールペンの先で丸を描いた。「卒業式のオープンバックドレスにはノーワイヤー、体育の授業にはスポーッブラ···それと、」

ペン先が突然ウエストラインを滑り降

りる。「私に破られた交換用」

レジ前の拷問は数分続いた。続は商品を一枚一枚ガラス台の上に広げ、まるで戦利品を披露するハンターのようだった。

店員がパンティの必要を尋ねた時、彼女は私の首筋を軽くつまみながら笑った。「ノラネコには、一番恥ずかしいデザインを履かせて、恩を忘れさせないようにしないとね」

ミントグリーンのストラップタイプが紙袋に詰められる瞬間、私は魂が砕ける微かな音を聞いた。

(··はあ)

ところが綫は突然、私をもう一度試着室に押し込み、黒いパンストを丸めたものを投げつけてきた。「入学試験よ」

(下着の洗礼をくぐり抜けたんだ、女

子の装ぐらい··)(··できるはず!)(···甘かった)

私は試着室のドアを自ら少し開けた。

「お手伝いしようか?ノラ猫ちゃん」案の定、続は予備のストッキングをぶらぶらさせながらドア際に寄りかかっていた。「それとも、その格好でクラスメイトを迎えるつもり?」

鏡には、ベンチにまたがってもがく私の姿が映っていた。パンストは膝のあたりで悲しいシワを作って引っかかつている。

「はあ···」続がため息をついて入ってくる。跪座した時、スカートの裾が私の足首を撫でた。「足上げて」

突然の浮遊感の中、彼女の指先がふくらはぎを撫でる。

(ひゃっ!?)

ストッキングの縁がようやく腿の付け根に収まった瞬間。

「呼吸、乱れてるわよ」彼女が突然手のひらを私の胸に当てた。布越しの鼓動が指先を痺れさせるほど激しかった。

(あ·…!)

その時初めて、彼女がストッキングの股部分を私の股間に向けて合わせている動作に気づき、耳まで熱くなっていった。

買い物を終え、绫が紙袋を受け取ると同時に私の小指を絡めた。「これは君の給料から天引きね」

「·給料?」

「家政アシスタント、時給1500円よ」彼女は私の親指をPOS機のサイン欄に押し当てた。「試用期間は三ケ月」

(··はあ?)

電車の窓ガラスに、重なり合う二人の姿が映る。彼女が突然冷えたミルクティーを私の首筋に押し当て、身をすくめた隙に耳たぶを軽く啮んだ。「動かないで」

帰り道、続は『ちびまる子ちゃん』のテーマを鼻歌交じりで歌いながら小石を蹴飛ばしていた。夕陽が二人の影を長く引き、また縮める。彼女が突然、何か冷たいものを私の手首に嵌めた一下着店の防犯タグだった。

(な、なんで··…?)

「ねえ、なんで僕··私にそこまでしてくれるの?まだ知り合って間もないのに」電車の中で、私は绫に好奇心に駆られて尋ねた。

続は私の問いには答えず、いたずらっぼく言った。「あなただって、断らないじゃない!」

暮れなずむ空の下、続のドレッサーは戦利品で埋め尽くされていた。彼女はピンセットで新しい下着のタグを透明なアルバムに挟み込みながら、突然黒いストラップのナイトガウンを投げてきた。「今夜はこれ」

(また··…か)

真夜中、胸元の見知らぬ締め付け感で目が覚めた。いつの間りか来ていた緌が、私の枕元で丸くなり、私のナイトガウンから滑り落ちたストラップを指先で引つ掛けていた。

(···凌)

(この世界に来れて···よかった)

(好きな人に、こんなに近くにいられ

るなんて)

そっと薄手の毛布を、二人の身体の上にかけた。




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