こんな私
金曜日の仕事帰り、私は決まって、帰り道にある古い喫茶店に立ち寄る。
熱いアールグレイの紅茶とチーズケーキをいただきながら、短編小説を一話読み終えてから帰るのが、最近のささやかな楽しみになっている。
ちょっとした自分へのご褒美だ。
その日、喫茶店はめずらしく混んでいて、私のお気に入りの席には、中年の男性が座っていた。
肩まで伸びた髪に、丸い眼鏡。ナポリタンとサンドイッチを、まるで音が聞こえてくるかのような勢いで頬張っていた。
きっと、今日初めての食事か、あるいは久しぶりの夕飯なのだろう。
とにかく、お腹がよほど空いていたことはすぐにわかったし、その食べっぷりがあまりにおいしそうで、私はつい見とれてしまった。
そんなふうにぼんやり眺めていると、お店の女の子が私のところへ来て、「いつものでよろしいですか?」と声をかけてくれた。
少し恥ずかしかったけれど、私は「いつものと……ナポリタンもお願いします」と答えた。
彼女はふわりと笑って、「かしこまりました」と言って、カウンターの奥へ戻っていった。
紅茶が運ばれてきた頃には、あの男性はすっかり食べ終えていて、最後の仕上げとでも言うように、水を一気に飲み干すと、すっと立ち上がり、レジへ向かって歩き出した。
私のすぐ横を通り過ぎたその時だった――
ふと、懐かしい匂いがした。