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二条邸の出会い

暁と吉平は早速、中納言の家に向かうことにした。

中納言の家には義光から話を通しておくとのことだったので、突然行っても大丈夫だろう。

道すがら暁と吉平は会話をしながら歩いていく。


「えっと、橘中納言様のお屋敷は、確か二条だったよね。ここから近くてよかった」


だけど吉平はうつむきながら歩き、明らかに乗り気ではない。

もちろん暁自体もルンルンと楽しいわけではないが、それでも仕事だ。割り切っていくしかないだろう。


「うぅ……やっぱり行くんだね」

「さっきから乗り気じゃないようだけど、どうしたの? 確かにいきなり仕事で戸惑うのも分かるけど……」

「僕……妖とか物の怪とか嫌いなんだよね。だって気持ち悪くない?」


「はぁ~⁉ だってそれを調伏するのも陰陽師の役目でしょ? なんで陰陽師見習いやろうと思ったのさ!」

「うちは親が陰陽師でさ……小さい頃から陰陽道を叩き込まれて。陰陽師になるのも当然だろうって感じにされちゃってさ」

「……まぁ、お前安倍家だもんね」


安倍家は代々陰陽師を輩出している名家である。その跡取りとなればほぼ強制的に陰陽師になるのは仕方ないのかもしれない。

それに吉平は嫌がっているが見鬼の才がある。陰陽師としての能力は十分だろう。


「気持ちは分からなくないけど、諦めて腹括ったら?」

「それはそうだけど……。そういう暁はどうして陰陽師に? 別に他の仕事でもいいじゃないか?」


吉平の言葉にうーんと暁は考えた。


「うちも親というか……育ての親が陰陽師になれって言うからっていうのもあるんだけどね。できたらこの陰陽道の力で困っている人を救いたいって思うんだ」


そう、小さな穢れを祓う程度ではあるが、庶民の病を治すのはそれなりに役に立てていると思う。そして何より…


「本当の親は穢れによって命を落としたらしいし。穢れによって親を失って孤児となる人が少しでも減ればいいなぁって思っている」

「暁は……孤児だったの?」

「うん。今は叔父さんが養ってくれてる」


そう、自分は叔父が手を差し伸べてくれたから生きながらえているが、世の中には孤児となり、そのまま命を落とす子供も多いのだ。自分は恵まれていると再認識した。


「そっか。……暁って、すごいね」

「そうかな?」

「そうだよ。自分の出来ることを考えてて。僕も見習わなくちゃな」

「あ、ここが二条邸じゃない?」

「そうだね。話していたらあっという間だったね」


まだ出会って間もないが、同年代ということもあって、何となく友達になれるような気がした。

暁は友達と呼べる人間がいない。

小さい頃から陰陽師の修行をしていたし、金烏と玉兎がいるから何となく人間とは関わりがなかったからだ。

だから、この同期と仲良くなれる予感がして、嬉しかった。


「さて……二条邸に着いたものの、やっぱり裏口から入った方がいいのかな?」

「どうだろう、陰陽頭様が話を付けてくれているみたいだから正門から入った方がいいかもよ」

「そうだね」


そして屋敷の敷地内に足を踏み入れた瞬間、吉平が小さなうめき声を上げて倒れ込んだ。


「吉平! どうしたの? 吉平? 具合悪いの⁉」

「ここ……いる。蛇……念を感じる」

「え?」

「苦しい……」


吉平を支えた暁の背中に何か寒気が走る。

なにか……大きな力を感じる。

意識を集中するが元凶がつかめない。

こんなことは今までなかった。

そして、そうこうしているうちに吉平が倒れて意識を失ってしまった。


「吉平⁉ 吉平しっかりして!」

「……もし、そこで何をしているんだい?」


吉平を揺さぶっていると、背後から声を掛けられる。甘くて心地よい耳に馴染むような美声だった。

振り返り声の主を見る。

少し着崩した着物からは胸が少しはだけている。緩く垂らした髪はつややかで、その目は何か底知れない魅力があった。

男の色香というのはこういうのだろう。


「あなたは?」

「私はここの客人で藤原高遠(ふじわらのたかとう)というものだよ。出入口をふさがれては入るに入れない」


「それは、失礼しました。すみません。私は陰陽寮直丁の賀茂暁と言います。こっちは安倍吉平。具合を悪くしてしまったようで……」

「それは大変だね。ここの主に頼んで部屋を用意させよう」

「え? いいんですか?」


「陰陽寮ということは、ここの女房のことで来たんだろう?」

「は、はい」

「ならば、少納言殿も追い返したりしないだろう」

「ありがとうございます」


おいでと招き入れられ、屋敷に行こうとすると、高遠はじっと暁を見た。

なんとなく居心地が悪くて暁は高遠に聞いた。


「あの……なんでしょうか?」

「いや、なぜ君はそんな恰好で陰陽師の真似事をしているのかと思ってね?」

「え?」

「だって君、女の子だろ?」


まさか、こんなことを言われたことはなかった。

顔は女顔ではあるが、立ち振る舞いは男のそれだし、見破る人もいなかったからだ。


「わ、私は男です!」

「男……? そんな可憐な男など見たことがなかったが……」

「女顔なのは自覚しています!」


それでもじっと見つめる高遠の視線が痛い。

ふいっと顔を背けると、高遠はふふと柔らかく微笑んだ。


「それは失礼した。さ、そのお連れの陰陽師殿を運ぶとしよう、暁君」


何となく負けた気持ちになるのは何故だろう。

高遠は吉平をひょいと抱きかかえると屋敷へと向かって行った。

その後を釈然としない思いで暁は追いかけた。


本日ラストの更新です!明日からは1話ずつの更新になるかと思います

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