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初めての依頼

翌日。

暁は意を決して出仕することにした。

初めての宮中は正直広すぎてどこに何があるか分からなかった。

もちろん陰陽寮がどこにあるかもよく分からず、暁は人に聞きながらそこを目指していた。


「えーと、確か陰陽寮はこっちかな?」

うろうろと歩いていると、普通の人間には分からないように姿を消した金烏が声をかけてきた。

「迷子か?」

「うん。迷ったみたい。それより金烏も玉兎もついてきて平気だったの?」

「あぁ、暁一人では心配だ」

「そうだぜ、いきなり暁一人で宮中に行かせるのはさすがに気になるだろ?」


玉兎も金烏も暁を主というより可愛い妹のように思ってくれているのだろう。ちょっと過保護かとも思ったが、こうやって心配してくれるのはありがたい。


「ありがとう、玉兎。金烏。……と、そろそろこのあたりだと思うんだけど」


常人には姿を消した状態の式神二人は見えない。だから少し油断した。

ドンと人にぶつかったと思ったら、その少年が血相を変えて叫んだ。


「わ、お、鬼だ!」

「嘘だろ? 俺たちが見えるのかよ」

「暁、とりあえず消えるぞ」


金烏も玉兎も慌てたようにして、自らの異空間(テリトリー)へと潜っていく。

これは暁にとっても想定外の出来事だった。ただの陰陽師でも金烏と玉兎の姿を見るのは難しいからだ。

だが完全に気配を消して空間に潜らないとバレるとは……誤算だった。


「き、消えた⁉」


尻もちをついたまま少年は金烏と玉兎が消えた先を指さして言った。

まぁ……陰陽師であれば式神を連れてきているのは問題ないだろうが、このように式神を鬼の一種だと勘違いして騒ぎになるのは避けたかった。


「えっと……大丈夫?」


とりあえず平静を保ち笑顔を浮かべながら暁は尻もちをついて廊下に座っている少年に手を差し伸べる。

だが、当の少年の目には恐怖がありありと浮かんでいた。


怯えたまま少年は空を指さして、暁が差し出した手も見えないようで固まってしまっている。

もうこれは、正直に言った方がいいだろう。


「あ、あの! 今のは鬼じゃなくて、私の式神というか……」


慌てて弁明して気づいたが一般の人間が姿を消した人外のものを見れるというのはかなり凄いことだ。

暁は思わず感心した。


「ってか、貴方見鬼の力があるんですか? 凄いですね」

「凄い? あんなの見たくて見てるんじゃないよ! 大体あんな得体の知れないもの見たくないよ!」

「まぁ、陰陽師ではないとあんまり意味のない能力かもしれませんが……」

「陰陽師だよ……見習いだけど」


少年はようやく暁の手を握って立ち上がると暗い顔をしてそう言った。


「では陰陽寮の方なんですね。ちょうど良かったです。今から陰陽寮に行きたくて」

「じゃあ案内してあげるよ。僕は安倍吉平(あべのよしひら)。君は?」

「私は賀茂暁です。今日から陰陽寮の雑用係としてお世話になるんですけど……」

「君もなんだ! 僕も今日から陰陽寮の雑用係さ。年も同じくらいだし、敬語はやめようよ」

「そっか。じゃあ、改めてよろしく!」

「よろしく。確か陰陽寮はこっちだよ」


今日からということは暁の同期になるのだろう。

喋ってみると年が近いこともあり、吉平とすんなり喋ることができた。

こうして吉平とは雑談しながら長い廊下を歩いて行くとやがて陰陽寮に着いた。中では陰陽師達がせわしなく働いていて、ばたばたしている。


「あの……」


声をかけようとするが、陰陽師たちは暁の存在など気に留めることもなく、自分たちの仕事で手いっぱいのようだった。

ここまで来たもののどうしたものかと立っていると、奥から光義がひょっこり顔を出してきた。


「あぁ、もう来たんだ。早かったね。こっちにおいで」


そして呼ばれるままに奥の個室に通される。

少し先ほどの喧噪が遠くなる。さて、と言いながら光義が切り出した。


「おぉ、暁。それに君は……確か吉平君だね。よく陰陽寮に来たね」

「はい……よろしく……お願いします」

「叔父……じゃなかった、陰陽頭様。早速ですが私たちは何から手伝えばいいでしょうか?」

「見ての通り、ちょっと今陰陽寮は立て込んでてね。小さい怪異の対処をしてほしい」


いきなりの光義の言葉に驚く。

雑用と言われたから、書類の整理や掃除、天文の観測手伝いなどをするかと思っていたからだ。

それは隣に座った吉平もそのようで、首を傾げていた。


「怪異……ですか?」

「そうだよ。橘中納言の家で、実は原因不明の病が流行していてね。女房達が倒れているようなんだよ」

「叔父……えっと陰陽頭様、私は雑用係として今日からこちらに勤める約束です。いきなり怪異の対処など聞いておりませんけど……」

「まぁまぁ。そんなに大した仕事じゃないんだよ。あと十日もすればこの馬鹿みたいな忙しさからも解放されるし、申し訳ないが今回だけ頼むよ」


反論しようと暁が口を開いた時、御簾越しに他の先輩陰陽師が声をかけてきた。

どうやら別件の怪異についての報告があるらしい。

光義の中での決定事項であり、反論してもいつもの調子で躱されるのは目に見えている。

暁はしぶしぶと返事をした。


「……分かりました。調査します……」


これが中納言自身であれば陰陽寮での対応ができるのだろうが、女房となると確かに陰陽寮が動くのは厳しいのかもしれない。

暁は仕方なく承諾すると、恐る恐る吉平が口を開いた。


「あの……それって僕もやらなくちゃいけないんですか?」

「君たちはまだ陰陽師見習いだからね。二人でも半人前なのは否めないけど、頑張ってほしい」

「分かりました……」


吉平もまたしぶしぶといった体で承諾する。


「じゃあ、頼んだよ」


光義は二人にそう声をかけて微笑んだ。

初仕事。

基本的には今までやってきた穢れを祓う仕事だろうし、何とかなるのではと暁は内心思いつつ、光義の部屋を後にした。


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