9:そして……さようなら。
「……どうしてぇ」
宮殿の地下……一時的に無礼者を捕らえ閉じ込める牢がある。そこにイサネはいた。
「俺でも……分かる…………」
「なんでですか!一番平和な解決方法だったじゃないですか!男の人たちも私の考えた平和な仕事なら!!残った家族もみんな納得して――……」
鉄格子を挟んでグラウと話すイサネはすみっこで小さく体育座りで、
「確かに……男たちが働くことに関しては……俺もいいと思う……だけど……争うことに支配されているミケ王妃に届けるには少し弱い……攻めて奪えばいいという思考になって……侵攻が早まった」
「そんなぁ……というかなんでグラウ様だけ外にいるんですか……バチバチしてたのに……」
「……身分?」
「わぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
泣きやまないイサネを心配そうに見つめるグラウ。なにかいい方法はないかと一生懸命に話しかけ慰める
。先ほどの謁見時の話と今後のことも問いながら。
「ズビビビッ……着地は私の考えで問題ないですか……?」
「うん……そもそも……なんだが……争いの原因がわからない……」
「あ」
グラウたちが国を出る前に行われていたであろう各国の王同士の会談。母であるアマロック王妃も普段と変わらず、異変が起きているというような態度はなかった。もし大事があるなら……急に嫁探しをしてこいなどというわけはない。
「一応……食事会を開いてくれるらしい……そこで……うまく聞き出す……」
「今度は口喧嘩しちゃだめですよグラウ様……」
「大丈夫……イサネを出してもらうように……する」
グラウの傍に移動し、両手を掴むイサネ。
「こういう場所は慣れてますから……目的はまず原因を聞き出すこと、ですよ?」
「…………」
「……?グラウ様……?」
出会った時のイサネを思い出したグラウは悲しい顔でイサネを見下ろす……ギュッと手を握り返し、無言で牢を後にした。
**********
会席会場に移動し、案内された席に着き王妃ミケを待つグラウ。
「……少しは見れる格好になったのうグラウ?」
牢から上がったグラウは宮殿の召使いに連れられ入浴をし、王妃ミケが用意したギラギラの服を着せられていた。
「……」
「わらわに無礼な言葉を吐いておきながら……アマロックの倅じゃからと許したというのにまだその態度かえ?」
「……ありがたきしあわせ」
「ふふん!」
進軍を早める決断をした王妃ミケの機嫌は戻り……先ほどよりも上機嫌と言った様子だった。
王妃ミケが席に着くと料理が運ばれ始め、静かな食事会が始まった。
「グラウよ……この話は知っておるかえ?」
静かに手に持ったフォークとナイフを置き、ナプキンで軽く口元を拭い……王妃ミケが語りだしたのは【聖女】の伝説。
” 青き海 が 干上がり 橙色の大地 は 赤く燃え 白銀の凍土 は 崩れ落ち 穏やかな草原 は 枯れ 滅び を 迎えし時 暖かき日が差す 丘 に 女神 の 祝福 を 受けし 聖なる乙女 が 舞い降りん 世界 の 穢れ を 乙女 の 祝福 を 授かりし 者 と 共に 浄化せし 時 世界 と XXXX を 手に入れる だろう ”
「……有名な……おとぎ話……では?」
「おとぎ話……そう思うのかえ?【サウス】と【ウェスト】が今どのような状況にあるのか知らんのじゃなぁ……」
くふくふと笑う王妃ミケの目の色が変わる……変わり方が尋常でないのが一瞬で分かり、グラウは食事の手を止めた。
「この間珍しい訪問者が来てのう?教えてくれたのじゃ……世界を……手に入れるのは……わらわじゃと」
「……誰が……そんな」
「こちらも聞いたことがあろう?……【紫炎の魔女】よ」
こちらも【アニマ】の世界にあるおとぎ話の人物、厄災が近づく時に現れると言われる預言者……【紫炎の魔女】。【聖女】とは違い、争いを生む存在。
「(……原因はこれか)」
「新たな採掘の場所も村を襲うことで伝説になぞらうことも……すべてわらわの為に――」
ご満悦にはなし、グラスの酒を飲み干した王妃ミケ……瞳にまとわりつく紫色の炎の揺らぎ。
「【聖女】を探しておる……火種は……撒いた………あとは………癒しのちからをもつ――」
酩酊の揺らぎも重なり、話の途中でうつむく王妃ミケ……席を立ったグラウは心配したふりをして近づき囁いた。
「量の加減は……俺にはできない……魔タタビ……食事と酒に……混ぜさせてもらった……」
「………そんな悪知恵……どこで覚えたのじゃ……」
「イサネが……こうするのがいいって……でも……入れなくてもよかったかもしれない……話をして下さりありがとう……そして……さようなら」
「毒ではない……ものの……王族の食事に混ぜ物をする……ことを薦めるなど……牢に入れて正解じゃ……った……」
召使いに預け、グラウは会場を後にした。