7:中へ入れて。
カンカン――キンキン――……と都を覆う外壁の強度と高さを増設する工事が急ピッチで進んでいる様子を間近に捉えながら、ひとつしかない入口の門の列に並ぶグラウとイサネ。
たくさんの荷物を積んだ馬車や牛車、各地から集まってきていると思われる人々の群れに揉まれながら、日光浴に気を取られて進むのを忘れる亀のようにゆっくりと一歩ずつ【イスト】の都へ近づいていく。
「い、息苦しぃ……つぶされぅ……っ」
「……背負おう、イサネ」
「ふぇ……」
デデーーン――。
ひょいッとイサネを自分の頭の上の高さまで持ち上げ、肩に座らせる。俗にいう肩車だ。
「…………?」
列の群れの中で、ただでさえ頭ひとつとびぬけているグラウは目立っている。更にその上を陣取り……視線を集めることになったイサネ。目立つこともできれば避けたい……それよりも恥ずかしい……するすると無言で背中にそって降り、地面に足を付け……再び揉まれていく。
「恥ずかしすぎます……我慢しますので……」
「でも……大変だろう?」
「もう少し他に無かったんですか……!まっ……た…………うぶっ!!」
先頭の大荷物の馬車の検閲を終え進んだことにより、一斉に全体が動き出した。押されるように進むしかなくなり、イサネはグラウの視界から完全に消えてしまった。
「ぁーーーれぇーーーー……グラーーーウさまぁーーーー…………ぁーー」
「イサネ…………?」
工事の音とざわつく周りの人の声で耳を研ぎ澄ますが見つからず、匂いも辿ろうとしたが、周りの様々な種族の体臭……様々な荷物から漏れる臭いも混ざりあい正確な位置がわからなくなり慌てるグラウ。キョロキョロとしながらわずかに聞こえたイサネの声。
「…………――まぁ!…………中…………で!!」
「うん…………?中…………?」
身動きが取れないここではどうしようもないことはグラウも理解しているため、はっきりと聞こえた「中」というひとつの言葉を信じ都の中へ足を踏み入れるグラウは……進んで――進んで……進んだ先……。
「ここから先は我が国の女王ミケー様の住まう宮殿である!」
「…………中へ入れて」
「怪しい奴!名を名乗れ!!」
進みすぎて宮殿に足を踏み入れて……
「北方を統治する王妃アマロックが実子…………第三王子グラウ」
「……はっ?……え…………ほ、訪問予定の通達はなかったはず…………?!」
「しょ、少々お待ちを…………?!」
警備兵を混乱に陥れていた。
一方……先に門に流されていたイサネは、検閲の兵に質問をされたが吊橋から報告が問題なく入っていたこともあり「貴女がコンコンさんであそこの大きい方がワンワンさん」と、問題なく突破。グラウが門を人が流れるまま通り抜けられたのはイサネのおかげであった。
「ふふっ……!」
ワンワンさんと言われて3日間不機嫌だったグラウの様子を思い出し笑いをしながら、人混みが少し薄れた商店街の入り口付近に積まれた木箱に座ってグラウが現れるのを待つ。
「…………いくらなんでも遅すぎないか?」
ざわつくイサネの心……不安がよぎる。自分たちの後方にあった荷馬車が都の中に入っているのが見え、グラウの近くにいた鹿の親子も近くの飲食店に入っていくが見える。急いで駆け寄り、グラウの行方を知らないか問う。
「あの大きな方……?あなたどっちに行ったかみました?」
「ボクはみてないな……すまないねお嬢さん」
「いえ……この人混みでは仕方ないで――」
「あっちいった」
鹿の子どもが指を差した方へ視線を移動させる……見えたのは金色の屋根がぎらつく宮殿。
「はぁ……やっぱり…………ありがとうみなさん、どうかご無事で……っ!」
去り際のセリフに驚いた顔をしていたが鹿の親子は笑顔でイサネを見送った。
少し入り組んだ街の作りに戸惑いながら見上げる先にある宮殿を目指して急いで走っていく。
「グラウ様だけだと話し合いなんかまともにできるはずない…………天然ボケ王子めー!!」
ご時世で警備は厚くなり、簡単に入れることはないだろうことは想定している。だが……こういう時のグラウは何故かうまく事が運ぶタイプの天然男。王妃ミケとの対面まであと――。