6:……いいのだろうか?
都までの道のりの途中、数多くの焼かれた村を見て進んだ。
【チーニ村】の時のように襲われた直後ではなく、すでに廃村と化しているのがほとんどだった。北の国境に一番近く、都から遠かったおかげだったのだろう。
そして……もうひとつ見たもの。
「ここが採掘場への入口みたいですね……兵士がいっぱい」
捕まえていた兵士から聞き出した情報と一致していた……偽りの情報では無かったことに安心しつつ、少し離れた小高い丘からこっそりとうつぶせになって草木を背中に乗せ、様子を見るグラウとイサネ。
採掘場の山の麓の街を駐屯地として構え、国内の各地から連れ去った労働力の男たちを過酷な状況化で住まわせている街、元の名を【グラーベン】。街の規模も大きく、もうもうと黒い煙を吐き出す鉄工所のような場所、兵士の訓練の場にも事欠かない場所として作られた広場も見える。
「まるで軍事基地…………本当に戦争をするんですね……」
「場所は……状況はわかった……進もうイサネ」
「ここだけぶっ壊しても【ノース】が喧嘩売ったことになって帰るところなくなっちゃいますもんね」
物騒な事を言うイサネにちょっと引くグラウ。自分をぶっ壊し役にしようとしているイサネを置いて早足に丘を下るグラウ。
整備された道に戻り、しばらく進んでいくと大きな吊橋が見えてきた。
「(わ……すごい……形がそっくり…………上京した時思い出すなぁ……)」
鼻歌を歌い始めたイサネ。不思議そうに見るグラウ。しかしそんな上機嫌の時間もすぐに終わった。
吊橋の入口に兵士の影……簡単に渡れそうもない雰囲気を感じ取り眉間にしわを寄せるイサネ。
「…………封鎖できてるじゃん」
「戦争を始めるかもしれない…………要所要所に兵の配置があるのは当たり前……だとおもう」
「わかりますけどそうじゃなく――あっ!グラウ様!見てあの人!」
兵の交代で詰所から出てきたのは見覚えのある兵士だった。
知り合いのよしみで簡単に通れるかもしれないが、他国の獣人が気安く話しかけたところで怪しまれる可能性もある。どうしようかと考え立ち止まっていたイサネだったが……グラウは前へ前へと…………
「止まりな――っ!?」
「…………」
「君、ここは自分が対応する…………少し休んでおいで」
「はっ!……ありがとうございます!!」
心配する必要はなく、兵士の方が気を利かせてくれた。
「……出世か?」
「…………こちらに記帳所があります……怪しまれるといけませんので移動してお話を…………」
慌てて追いかけてきたイサネと一緒に記帳所に移動し、兵士は小声で話をする。
「――兵長は一応は信じてくれました……が、統率を乱したのは事実なので当たり障りのないこんなところに左遷になりました。ここに居るのは新人ばかりなので必然的に自分が一番上になっただけで偉くはないんです。」
「ふふ……とってもいい上司をしているんじゃないですか?」
「いえいえそんな!締まりがない……とさっき兵長から水鏡の通信で怒られたばかりで――」
イサネと兵士の和やかな話声に聞き耳を立てつつ、記帳するために筆をとったグラウの手が止まったまま動かないでいた。
「……イサネ」
「はい?」
「…………偽名……の方が……いいのだろうか?」
「兵士さん…………」
救いを求めるふたりの視線が兵士に注がれる。一瞬困った顔をしてしまっていたが、すぐに真剣に考え、コソコソと耳打ちをした。
「…………名を考えろと……言ったわけじゃ――」
「こちらにいらっしゃったのですね!ただいまもどりました!!」
「「「!!!!」」」
背後からかかる元気いっぱいの声に3人は驚き、兵士は思わず……、
「ワンワンさんとコンコンさん!観光なら問題ございません!ど、うぞお名前をこちらに!!」
グラウも慌てて言われた通りに書くしかなく……図体に似合わない名前を記すことになってしまった。
「それでは良い旅を!!」
吊橋側の扉を開けられ、進むように促される。
「で、ではいきましょう……わ、ワンワン……ギ……ッ!」
「………………」
不機嫌なグラウと笑いをこらえるイサネ。すれ違い様に兵士がこっそりと囁く。
「都は荒れているようです……共に解放してもらった者が数名そちらに……なにかあれば頼ってください」
会釈で返し、扉が閉まる……吊橋を渡って都の圏内へとふたりは進んでいく。