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EndingStoryⅣ:黒狼王子36歳、父になる。

 嵐のように大きな音を立て猛吹雪に見舞われている【ノース】の地。

 安全であるドームの中であっても恐ろしく感じるほどの音が昼夜問わず響き渡り、毎度のことと思いながら暮らす民たちの様子は少しだけざわついていた。

 それにはもうひとつの理由があった。


「……これ」


 右に左に。


「……グラウ」


 チラチラと奥の部屋を覗き見たり……座ったり……立ち上がったり。


「落ち着きなさいグラウ!!」

「で、でも……」


 落ち着きなくウロウロと周りを歩き回るグラウをしかる母アマロック。珍しくグラウの屋敷に前の晩から滞在していた。


「初めての事で落ち着かないのはわかるけどね?そんな様子じゃイサネちゃんも安心できないでしょ?堂々としてなさい堂々と」


 そうは言われても……と。

 武闘大会に出たり、狩りに出たりする時とは全く違う鼓動のなり方をする自分の心臓と不安な心に困惑しているグラウ。


「ゔぅぅぅ~~~!!!!」

「!!!」


 奥の部屋から苦しそうに痛がっているだろうイサネの声が聞こえ、耳と尻尾をビッ!と立てるグラウ。


「こらこらこらこら……あんたがそんなんでどうするの!!チョアッ!」

「……痛い」


 母アマロック、奥の部屋に走っていきそうになっているグラウの首根っこを掴み引きずり戻し、脳天にチョップを食らわし再びしかりだす。


「あのねぇ?出産はもちろん命懸け……心配するのは分かるわよ?でもね?あんたのためにもがんばってるイサネちゃんをそんな風におろおろして待ってたら……赤ちゃん抱っこさせてくれないわよ?」

「そ……それは……いやだ……」

「なら信じて待ちなさい?イサネちゃんは強い子だもの、大丈夫。」


 しっかり納得したわけではないが、深呼吸をして椅子に座り……待つグラウ。


「大丈夫……イサネ……がんばれ……」


 一瞬の静寂……そして聞こえたのは――。


「「ほぁぁぁ!!ほぁぁぁ!ほぁぁあぁっ!!」」


 産声。

 アマロックが声をかける前にグラウは奥の部屋へ向かって走っていた。


「グラウは気付いてるかしら?……ふたごちゃん……うふふふ……!」


 安心したアマロックは椅子に座りなおし、奥の部屋のさわがしくなっていく声を聞きながら……いつのまにか自分でも張っていた緊張が解けたのをかんじ……ほっと息を吐いた。

 部屋の扉を乱暴に開けるグラウ。


「はぁ……ふぅ……グラウ様……赤ちゃん……驚いちゃいます……」

「イサネっ」


 ドキドキと心臓が鳴る。

 目の前にはイサネの胸ではぐはぐと小さく声を出しながらしっかりと呼吸をし、生を受けた小さな命がふたつ。ひとりはイサネと同じ人間の耳を持ち、もうひとりはグラウと同じ狼の耳を持っていた。


「……ありがとう……イサネ」

「えへへ……がんばっちゃいました」


 汗で濡れ、乱れたイサネの髪を触り撫で、その手をゆっくりと……珍しく、少し震える。


「……柔らかい……温かい……」

「そんなに怖がらないでも大丈夫ですよグラウ様……ほらふたりとも~?パパですよ~?」

「パ……パパ……」


 呼ばれなれない言葉に動揺する……でもそれは本当のこと。グラウは父となり、イサネは母となったのだ。


「その小さな命を守る為に一層精進せねばなグラウ?」

「ママさん!産まれました!」

「あっら~~~~!も~~~~!かわいいじゃない~~~!!」


 少し遅れて部屋に入ってきたアマロックはおばあちゃん全開でグラウを押しのけ孫の顔を見て喜んだ。

 医師や召使いたちが慌ただしく働き部屋中を動き回り、アマロックとイサネが楽しそうに会話する姿を少し離れたところから見つめるグラウ。


「グラウ様遠慮することはございません、お近くへいってあげませんと……ね?」


 長年屋敷で働くメイド長に腕を叩かれ、イサネのと我が子のいるベッドへもう一度近づく。


「……イサネ」

「あ、パパ」

「っ!」

「でかい図体していつまでも変わらないわねぇほんと……早く慣れなさいグラウ。じゃあ~~ばあばはいくわねぇ~?またねぇ~?」


 アマロックは部屋に残った者も引き連れ退室していき、静かに寝息を立てはじめた子供たちの寝息がかすかに聞こえる静かな時間が訪れる。そっと膝を床に付け、顔を子供たちに近づけるグラウ。


「甘い匂いがする……」

「赤ちゃんってそういうものなんですかね?ママさんも言ってました……抱っこしてあげてくださいグラウ様」

「でも……寝ているし……………こわい」

「ふふ!大丈夫ですよ……そーっと……ね?」


 恐る恐る力を入れず抱く……小さな命がふたつ自分の腕の中、もぞもぞと動き体に頭を押し付けてくっついてくる……言葉に表すことができない程の喜びと愛しさがじわじわと心を満たしていった。


「……必ず守るよ……イサネも……お前達も……」

「あ……ちょっと泣いてます?」

「泣いてない……」


 この幸せがずっとずっと続くようにと……イサネと子供たちをグラウはそっと優しく抱きしめる。

 しばらく親子水入らずの時間を過ごした後、出産の疲れもあるから……と、医師から説明を受けグラウも部屋を出る。

 ふたり同時に授乳をしながら……ふとイサネは窓際に飾った折り鶴を見る。


「(ユヅキさんにも報告しなきゃ……いっぱい心配してくれてたもんね)」


 子育ての合間……イサネは鶴を折り、幸せの報告をユヅキに届けた。


 **********


 新たな命が生まれ数か月後。


「前代未聞のこと…………わかってるわよね?グラウ」

「……はい」

「先に子供たちが産まれちゃいましたからね……すみませんママさん……」


 グラウが【ノース】に戻り花嫁探しを終えたことを報告し、アマロックに許しを得たのはいいものの、復興を終えるまで婚礼は延期という話になっていた。その間にイサネは妊娠し、更に婚礼は延長という事態。


「謝ることないのよイサネちゃん!こんなにかわいい子に罪はないわ~~!ほらいってきなさい!この子たちはみてるからね」

「ママさん寛大で良かったですねグラウ様」

「うん……行こうイサネ」


 礼装をしたグラウとイサネはゆっくりと民たちの前へ姿を現すと祝福の声がそこかしこから溢れ、どこからか花びらも舞い出す。新たな命の誕生も、婚礼が遅れることも民たちは受け入れてくれていたようだった。順番がどうあれ、喜ばしいことには変わりはないと。

 特別招待席に座っている見知った者たちと目が合う。

 王妃ミケとヴァルロス王、レパード王、ユヅキとリンクスとユヅキの母ヒスイ……花を操っていたのはユヅキとヒスイだったらしい。イサネに向かってユヅキはパチンっとウィンクをした。

 民たち同様に、拍手と笑顔でグラウとイサネを祝福してくれた。


「……ちょっと恥ずかしいかも」

「綺麗だよイサネ」

「もぉ~~どうしてそうやって追い打ちをかけるんですかぁ……わっ!」


 イサネを抱き上げ、婚礼の会場に訪れた人々に見えるように口づけをする。


「イサネ……」

「はい……」

「愛してる」

「私も愛していますグラウ様……ずっとずっと離さないでくださいね?」

「もちろんだ……ずっと一緒に――君を幸せにする」


【ノース】に春という概念はない。

 だが、この日の光景はまるで春の日だまりの中にいるように感じるほど穏やかであたたかく、幸せが溢れる特別な日になった。


 end

お楽しみいただけたでしょうか?最後までお付き合いいただきありがとうございました!


↓書かれてないちょっとしたこと。※御託はいい!終わってくれていいよ!って方はここでストップ!









ヒスイ(【アニマ】における人間)について

女神の分身としてうまれた彼女の寿命は、翡翠の森の女神の加護を受けた宝石の影響も重なり、一般的な現代の人間よりはるかに超過しています。とはいえ不老不死ではなく、ゆっくりと年を取っています。

獣人という形ではなく、人間の形をとったのは特別な存在である象徴と女神は考えたのだと思います。

ユヅキはヒスイの娘の体に宿った魂の名前です。ユヅキとして覚醒してからはその名でずっと過ごしています。体はヒスイの娘のものなので年齢自体はえらいこっちゃになってますが、森から離れたことによって、この世界に生きる獣人たちとほぼ同じように年を取るようになりました。獣人と人間のハーフということも影響してるのでしょう。

イサネは転移者に当たります。なので【アニマ】に存在する人間とはまた違う……現代の人間と同じです。女神の力を受けたことで【アニマ】の世界になじむように少しだけ体に影響はあったようです……子供できましたしね!w


多種族との交配について

基本的に混ざって産まれてくることはないです。

たとえばウサギとネズミの夫婦の間に子供が出来たとしたら、ウサギだけ、ネズミだけか、両方の純種族で生まれてきます。なので、イサネとグラウの子供は人間と黒狼のひとりずつで生まれてきました。不思議ですがそういうものだということです。

ミケとヴァルロスの子供もいつか生まれるかもしれません。楽しみですね!w


【聖女】【紫炎の魔女】

単語自体は【アニマ】に住む獣人が生み出したもの。

女神は気まぐれで拾い上げたユヅキの魂をヒスイの娘に閉じ込めました。わがままな願いのせいでもありましたが、目覚めたユヅキの行動がいつの間にか語られてきたおとぎ話になぞらう形に世界が進みはじめ、それなら純粋な聖女と呼ばれるものが必要になる……とイサネを聖女とし力を与え招いたというかんじです。


イサネの獣化

代償なく傷や病気を癒すのは理に反すると女神が与えたものです。

ヒスイも癒しの力を使い続ければいずれ獣となり【アニマ】の一部になるはずだったのですが、森にばら撒かれた宝石のせいで女神の力が及ばなくなり免れました(それでいうとヒスイの力が弱まったのは女神の分身なのに女神から直接なにかを得られる状況がなくなったせいとも言えます)。森に住んでいれば力を使うことが少ないという理由もありました。イサネの獣化が激しいのは、癒しと浄化の力だけ与えられていたからということで。


たぶん謎だと思われてるのはこの辺かなと……少しでもなるほど~!と思ってもらえたら嬉しいです。


ここまで読んでいただきましてありがとうございました!!

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