EndingStoryⅢ:紫炎の魔女は幸せを知る。
隔離された塔の中でひとりベッドで横になっているユヅキ。
「……寒い」
これは罰ではない……【ウェスト】の王族の婚姻に必要なしきたりのひとつ。
「身を清めるなんて都合のいいこと言って……なんでこんなことしなきゃいけないのよ……」
文句は言うものの、素直に従い3日後に控えた結婚式に思いをはせていた。
世界を壊そうとしてしまった罰を受けることなく自分を受け入れてくれたリンクスとレパード王……その優しさと温かさに触れたこと……そしてイサネの気持ちに応えるために。
「(グラウはイサネと出会えたかしら……人を守る為に術を使ったのよ……絶対に……あんたも幸せにならないと今度こそ許さないんだから……)」
怒っているのか、心配しているのか……ひとりでいる間のなにもない時間色々と考えてしまうユヅキ。
こんな風に考えることが出来るようになった自分に驚きながら……ひとり寂しい夜を過ごしていた。
なかなか寝付けないユヅキは天窓から覗く月をぼーっと眺めていたのだが……突如視界が暗くなった。
「な、なに?!」
驚いて起き上がると同時に、その黒い影が天窓から落下し、部屋に入ってきた。
「リ、リンクス?!」
「来てしまった……」
月明りが照らしたのはリンクスの姿だった。
「ダメじゃない……!これは大事な儀式の時間で……!」
「君と離れている時間なんていらないと思った。ひとり寂しい思いをしているだろうと心配だった……泣いていないか不安だった。」
「……っ……もう……結婚できなくなったらどうするつもりなの……?」
「古いしきたりなんて私たちが変えたらいい……こんな心を試すようなこと必要ないんだ」
強く抱きしめ合うユヅキとリンクス……嘘のように寒さが消えていくのをお互いに感じていく。ふたりでベッドに座り、毛布を掛け寄り添いながら温め合った。
「実は……父にそそのかされたのもある……きっと同じことをしたんだろうな」
「あなたたち親子ってば本当にそっくりね?………ふふっ」
「あぁ……その可愛らしい笑顔が見たかったんだ」
「リンクス……」
幸せそうな表情を浮かべ、笑うユヅキの顔をなぞるリンクスはそっと顔を近づけていく……。
「そこまでは許しておらん」
「うわぁっ?!」
いつの間にか部屋に入っていたレパード王、声をかけリンクスを止めた。
「妻との昔話を聞かせた後にいそいそと部屋を出ていったものだから追いかけてみれば案の定……さすがの余でもそこまではしておらん!!」
「ふふふ……怒るところはそこなの?」
「ダメですか……父上……」
「ダメ」
リンクスはがっくりと肩を落とし、レパード王に寝首を掴まれ部屋から退出させられた。
「ユヅキよ」
閉められた扉の向こうからレパード王が声をかけた。
「今晩の出来事は誰にも話してはならんぞ?知られれば余にも咎めがあるやもしれぬ」
「あはははは!本当に変な人たちっ」
「寒さは少なからず消えただろう……ゆるりと眠るといい……ではな」
あまりにもおかしな親子に、初めて涙が出るほど大声で笑ったユヅキ。
足音が遠のき、再びひとり静かな時間が訪れたが先ほどまで感じていた寒さはもうなくなっていた。
「本当に不思議……こんな風に普通にしていたら良かったって今頃気付くなんて……」
【アニマ】の世界に来る前のことを思い出しながら目を閉じる。
現代での姿も、今のユヅキの外見と等しく美しかった。
家庭環境は決していいものとはいえなかった。父と母は毎日喧嘩をし、その声を聞きながら毎晩過ごしたこと……その後離婚し、母に引き取られてから日々見知らぬ男性を家に招くようになった母を見て過ごしたこと。自分はそうならない、と幼いながら心に決めたこと。
だが成長するにつれ自分の見た目が周りにいる同性よりも勝っていることに気付き、なぜか自然と異性に囲まれるようになっていた。自分はそんなつもりは無いのに……会話も態度も自然に母が男にみせる態度にそっくりになっていく。変わりたいのに変われない、周りに流されてどんどん自分がおかしくなっている……わかっているのに……。
「……小さい頃から自分でどうにかしなきゃって思ってたの……ひとこと『いえす』と言えば食事も、素敵な洋服も、かわいいバックも全部手に入って……ばからしくなってしまった……救われたと勘違いしてしまった……どこまでも弱い私の心」
それが普通……そう思って過ごしていった。
ある朝電車を待っていた……トンっと背中を押された……高いヒールが仇になった。
「イサネの言う通り……本当にどうしたいかを女神に言えばよかっただけなのにね……女神もそれを待っていたはず……なのに私は変わることは選べなかった……」
レパード王の王らしさを見せず接してくれる優しさに触れ、同性で初めて自分のことを嫌わずに受け入れてくれたイサネ、そして……惑わしの術なんて関係なく本当の自分を見てくれるリンクスの愛に……。
「(ほんとうに……バカなんだから……)」
寒さを越え、押し込めていた本当の自分になり始めこと……本物の温かさに気付くことが出来始めた夜。
城の中庭に大勢の民たちが集まった。
見上げる先のバルコニーから美しい白いドレスを身にまといすこし照れくさそうに笑い、リンクスの手を取りながら仲睦まじく手を振る姿があった。
メイドから受け取った花束……ユヅキが自分で花を摘み、作り上げた思いのこもった花束。
「ずいぶん可愛らしい花を集めたんだねユヅキ」
「……なぁに?私らしくないっていいたいの?」
「いやまぁ……そうだな。もっと大きな花束を作るものだと思っていたよ」
「素直に言うのね?ふふ……私でもそう思うわ……でもね、これには訳があるのよ?」
数人のメイドを引きつれ、バルコニーの先に立ち一斉に民たちに向かっていくつもの花束を空へ頬り投げると、ゆるく結ばれたリボンが解け風に乗って花々が民たちに降り注ぐ。
「祝福を込めた花たち……幸せのおすそわけ」
「ユヅキ……ではあの空高く舞い上がっていくのは――」
「よく見てるじゃない。そうよ……私の幸せを分けてあげるの」
自分の持つ花束に仕込んだ1羽の折り鶴が空高く舞い上がり見えなくなる高さまで飛んでいった。
「こんな幸せを貰うのが私だけなんて許せないでしょう?」
温かい春の日差しで舞い踊る花たち……喜びの声を上げる民の声……隣には愛しい人。
同じ幸せを……それ以上の幸せがあるようにと思いを乗せ、満面の笑顔でリンクスと誓いの口付けを交わす。
end




