35:……そのキツネに感謝するといい
【聖女】と【紫炎の魔女】が邂逅した日から数ヶ月経った。
【ウェスト】の王都の街中は変わらず多くの人で溢れかえり、活気に満ちていたが……本来城内にあるはずの人気はまばら……王を守る為の最低限の人員のみ駐在していた。
「世話になったなグラウ」
そんな静かな城内の謁見の間で、グラウはレパード王に別れの挨拶をしていた。
「それはこちらの台詞ですレパード王……長い間寝所をお借りした事……感謝します」
「そうかしこまるなグラウよ……その分復興に尽力したであろう?これで貸し借りはなしだ」
「ありがとうございます」
どことなくソワソワしているグラウを見てレパード王は大きな声で笑いだした。
「ははははは!!落ち着けグラウ!各地に我が国の兵も送り順調に各国の王とも連携をとっておる!!」
キョトンとしてグラウはレパード王を見た。
「安心して……迎えに行くがよい」
「はい……いってまいります」
穏やかな笑顔を向け、レパード王はグラウを見送る。足早に謁見の間を出ていくグラウの姿が見えなくなった後、レパード王は問う。
「女神も酷な事を――いや……これは粋な事なのかもしれん……どう思う?」
王座の後ろの柱と幕の間にいる人物に声をかけた。
「粋じゃないと私が困るわよ……」
「はっはっはっ!そうかそうか!ユヅキもそう思うか!」
「……なんで居るのわかったのよ」
ふうっと息を吐きながら王座に深く座りなおしたレパード王は、不機嫌そうに姿をあらわしたユヅキに優しく言った。
「心配だったんだろう?……その思いを守りの術で表したこと……大義である」
「……グラウになにかあったらイサネが泣くどころか【魔女】になって出てきそうだもの?それが困るからよ!もう【聖女】はいないんだからどうにもできないでしょ?ふんっ!」
「なんだったか……ツンデレ?というものだったか?ユヅキよ?」
「はぁ?!……知らないわよ!」
ユヅキも転生者、知らないわけがなく……何故その言葉をレパード王が知っているのか疑問だったが、謁見の間に飛び込んでくるリンクスの声に気付き、ユヅキは駆け寄っていった。
「イサネに免じてお咎め無しとしたが…………正解であったかな?……イサネよ……次はそなたが――」
ユヅキとリンクスの仲睦まじい姿とその穏やかな表情を見ながらレパード王は思いをはせた。
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草をかき分け、森に入り、山を登り……グラウは進む。
「……」
夜になり野宿もした。
「……」
村や町に立ち寄り、聞き込みをしながら進んだ。
「……」
【ウェスト】の都を出発し、旅をした跡を辿るように国を越えていく。
今までのように食事を楽しむこともなく、話をすることもなく……ただひたすらに大切な目的を探す。
「……あ~もしかして……あの時のキツネ?」
【イスト】のとある町の酒場で声をかけたアライグマの獣人が見かけたというキツネの話。
「どこで?!」
「そ、そんな睨まないでくれよ……えーっと確か……【ノース】の近くにウサギが住む村があるだろう?この間商人を送りに行った時に見たんだ!」
アライグマの獣人は言った……野宿の際、そのキツネを見た後、長旅の疲れが嘘のように無くなったと.。月明りでキラキラと光っているように見えたというそのキツネは綺麗な金色だったと……。
「もしかしてそこに行くつもりかい?」
「……あぁ」
「まぁ……あんたくらい強そうなら問題ないとおもうが……この間の地変の影響で凶暴な動物がいるみたいでさ……近々討伐隊が出るらしいって話だ……おらぁそれを知らねぇでその身だけで行ったからそいつを聞いた時にゃ肝が冷えたねぇ……よく無事に帰ってこれたもんだ」
「……そのキツネに感謝するといい」
「え?あぁ……」
釣りが出るほどの金貨をテーブルに置き、グラウは酒場を後にした。宿をとることはせず、夜にもかかわらず出立し……【チーニ村】を目指し走り出す……きっとイサネは自分の最後の力が及ばなかったことに落とし前を付ける為にその場所へ向かったのだと……。
「(女神の慈悲があったことに感謝をしなければな……それにしてもイサネ……まったく…………)」
『こういう時』のイサネの顔を思い出したグラウはフッと笑い声を漏らした。




