34:俺はまだ……っ!!!
水鏡は移動手段としても使われている……ユヅキが空に並べた水鏡は世界に繋がり、ものすごい勢いで紫炎を送り込んでいく。
「イサネ!!……その紫炎は私の嫌な気持ちの塊でどんな影響が出てしまっているかわからないわ……だから本当にあんたのすべての力を使わないとだめかもしれないの……ごめんなさい……」
風の音が大きくしっかりとユヅキの声がイサネに届いたかはわからない……けれど、イサネは笑顔で振り向き応えてくれたように見えた。
元より覚悟は決まっている……グラウと手を取り紫炎の真下へと移動し、吸い込まれていく紫炎の先を見る。はっきりとは確認できないものの、対象になった人物が暴れている様子や、溢れた紫炎が大地を壊していく様子が映し出されていた。
「グラウ様……変身できますか?」
「……わかった」
「すみません……ちょっとだけ力が足りないかもなので……」
「元々イサネから授かった力なのだろう?遠慮することはないよ……俺もイサネの力になれるなら……本望だ」
申し訳なさそうに、不安そうな顔をして頼みごとをするイサネの頬を撫でながらグラウは半獣化し、大きな尻尾でその体を包む。
「ありがとうございますグラウ様……」
小さく呟くようにイサネをお礼を言うと、ゆっくりと目を閉じて祈り始める。その姿を確認し、グラウも目を閉じ……イサネの手に自分の手を重ね……祈る。
キラキラと輝く光の粒がイサネとグラウを中心にして広がり、空へと舞い上がり始め、数秒後に光の柱が空へと伸びていった。
頭上で直接【聖女】の祈りを強く激しく受けた紫炎が徐々に勢いを失い始め、紫炎の塊は【聖女】の祈りの塊へと変化し始めていた。
「イサネ……体が……」
「あ……」
どういう理由かはわからないが、イサネの獣化した体は元の人間の体へと戻り、グラウも半獣化が解けていた。
「……よかった全裸じゃない」
「心配するのはそこなのか……?」
元々着ていた衣服ではなく、白いドレスのような装いに変わってはいたが、グラウは本来のイサネの姿を初めて見れたことに表情を緩ませ……同時に口も緩ませた。
「イサネ……綺麗だ」
「へ?!」
ユヅキと同じ獣人ではない姿……不思議に思うことなどせず、耳の無いイサネの頭を優しくグラウは撫でる。
「め、めずらしいからですか?!」
「ちがう……」
「あ、じゃあ、あれですか?!あれ!え~と……えっと……」
真っ直ぐに言われたその言葉に戸惑いを隠せずイサネは慌てていた。
「素直に受け取ってくれイサネ……」
「…………はい」
顔を真っ赤にしてしばらくの間撫でられていたイサネだったが……ハッとして真上を見上げ、少し悲しげな顔をした。
「イサネ……?」
「グラウ様……やっぱり行かなきゃダメみたいです」
「行く……?どこへ……?」
右手を上げて指差した先は変化していたはずの紫炎の塊……バチバチと再び音を立て【聖女】の祈りを上回ろうとしていた。
「私のすべてを捧げて……この世界を守るんです!」
トンっと地面を蹴ると、イサネの体はふわりと宙に浮き、紫炎に向かって飛んでいこうとしている。
「……行くな!!ほかに手を考えて――!!俺はまだ……っ!!!」
珍しくうろたえながら必死の声を上げ、イサネを呼び止め手を伸ばすグラウ……旅立ったあの日の時のようにイサネを掴むことは叶わなかった。
「もしかしたら……もしかしたらなんですけどね……?」
ゆっくりゆっくりと……グラウから離れていくイサネ……ひとつの希望を口にする。
「……力を使い果たした【聖女】は力を失い獣となるのが本来の定めなんだそうです……いま元に戻っている状況がどうしてなのかはわからないので定め通りにならないかもしれません……もし……もし女神様が私に慈悲を与えてくださっているとしたら――」
その言葉は……イサネにとっても……グラウにとっても希望だった。
「……見つけてくださいますか?」
グラウの頬に一粒の滴が落ちる。
「探す……地の果てまでも……会いに行く……だから待っていてくれイサネ!」
目も開けられていない程の強く眩い光が降り注ぐ中……グラウは叫んだ。
「俺は……君を……!愛している……っ!!」
グラウの最後の言葉は聞こえていたかどうかはわからない……けれど……嬉しそうに微笑みながら光の中へ飛び込んでいくイサネが見えた気がした。




