33:……不敬かもしれない
ユヅキは城全体を見渡せる場所で止まると、水源から水を吸いだし大きな水鏡をいくつも作りだしていく。
「ねぇ見える?ここに映っている人ぜーーんぶ私の虜なの」
【イスト】の兵、ミケ王妃……【サウス】の兵と深海の住人……【ウェスト】の兵と闘技場を仕切る者……【ノース】の山に住む民たち……それぞれの視点が水鏡に映し出されている。
「邪魔が入って少しだけやりにくくなったけれど……世界にこれだけいるのであれば十分……」
思い通りにならない……『向こうでもここでも』なにも変わらない……その考えだけがユヅキを支配し、自暴自棄になり与えられた力をすべて解き放とうとしていた。
ザワザワと大気が揺れ、青空だった空に黒い雲が集まっていき、段々と辺りが薄暗くなり風も音を立てはじめる。
「ユヅキさん!!」
「……名前を呼んでも私を止められないわよ?どうすべきか……わかってるでしょ?」
ひと際大きく紫炎が燃え上がる。
「やるべきことは分かってますよ!でも!!ユヅキさんのことを大事に思っている人たちはそんなことして欲しくないんです!!」
「そんな人……いるわけないじゃない?私が私の力を使って心を操っただけの人しか――」
先程グラウとレパード王が上った監視塔の屋根の方角からユヅキに向かって色とりどりの花が降り注いだ。
「そうだユヅキ!!私がいる!!」
そこにいたのはリンクス。片手で塔のてっぺんの鉄柱につかまり、片手には抱えきれないほどの花が抱えられていた。
「リンクスなにを言ってるの?貴方も私に騙されてただけよ?もうそんな事言う必要なんかないのよ」
「私は……術をかけられる前から君を愛していた!一目惚れだ!!!」
リンクスは真っ直ぐな瞳でユヅキに告白した。
「……やっときたかバカ息子め」
「やっぱちょっとカッコつけなんですね?親譲りかなぁ……」
「イサネ……親はレパード王だ……不敬かもしれない」
「はははは!!…………余の若い頃そっくりなのは本当だ」
イサネたちに若干の気まずい空気が流れたが、お互いにそれよりも……と、告白の結果を待つ。
「君は本当はとても優しく、他者を思いやることのできる心の美しい人だというのは知っているよ……でなければ心の底から君の事を愛しく思う訳がない」
風が強まり、全身に草や小石が当たり傷つきながらも……更に大きな声でユヅキに思いを伝える。
「そんな必死になって……ばかみたい……もうこれで終わりにして消えるしかないのよ私なんか……」
「ユヅキ!!どうしてそんな風に自分を卑下する?前から言っているだろう?君は……心も体もすべて美しい女性だ!……私の……私だけの【聖女】……それでは不満かな……?」
ユヅキの頬から耳まで真っ赤になり、今にも泣きだしそうな顔になっていく。
「なん……なんでそんなこと言えるのよ……今世界を壊そうとしてる私に……!」
「愛しているからに決まっている!!今行く!!この手を取るんだユヅキ!!」
リンクスは屋根を力いっぱい蹴り、空中に浮いているユヅキに向かって飛び出した。リンクスの思い切った行動に驚きながらもユヅキは水鏡のへ送るために力を込めていた紫炎の塊から手を離してしまった……自分のいる場所に届くわけがないのに飛び出し、風に煽られていたとはいえ確実に地面に向かっていくリンクスを……何故か見捨てることが出来なかったから。
伸ばした手はしっかりと届いた。
リンクスはしっかりとユヅキを引き寄せ、庇い、ゴロゴロと地面に転がった。
「……怪我はないかユヅキ」
「ないわよ……急に引っ張るから……ばか……」
ユヅキは寝ころびながらリンクスのほほ笑む顔を見つめ、顔の汚れを拭おうと手を伸ばした……だが、そのわずかな時間も許されていなかった。上空に浮かぶ紫炎がバチバチと今までとは違う音を立てはじめる。
「うそ……制御できない……!」
ユヅキの力は届かず弾かれ、紫炎の塊から炎が伸び、水鏡に吸い込まれていく。
「ユヅキさんあとは任せてください」
近くにいたイサネが慌てているユヅキを落ち着かせる為に声をかけた。
「あんたを貶める為にこうした……なんで……そんな風に笑ってるの?」
「安心したんですよ!ユヅキさんが【聖女】になれるんですからにこにこになりますって」
「……なによそれ……理由になってないじゃないの……でも……そう……あんたが選ばれた理由……そういうことなのね……」
「……私がユヅキさんを止めたかったのはユヅキさんの部屋にあった折り鶴……大切に飾ってあるのがわかったから……今はちょっとわがままになっちゃってますけどそれも可愛いところ……ですね!……ユヅキさん……胸を張って【聖女】としてお母さまに会いに行ってくださいね!」
暴れる紫炎を前に……ユヅキは涙を流し、イサネはグラウと共に歩みだす。




