32:おそらくもうここからは……。
通常の状態ですら胃液を吐かせる威力、更にグラウは上着を脱ぎ半獣化し対峙する。
「これは……」
毛並みが変わっていた。
今までは全体的に白く、アゴの下から胸にかけて黒狼らしい漆黒のツヤのある毛が生えていたのだがそれがなくなり、全身が白く……それよりも輝く白銀に変わっていた。
「もしかしたら私がグラウ様の白い毛並みが好きだからああなったのかな……黒狼なのに申し訳ないな……」
「……【聖女】の影響受けすぎなのはグラウの方もあんたのことを大事に思ってるからでしょ?すっごく不服だけど上機嫌そうだしね」
ユヅキは右手を前に出し、完全獣化したクマへ紫炎の力を更に宿らせて強化していく。
雄叫びを上げて暴れるクマはグラウに殴りかかるだけでなく、周りの兵士や外壁や柱……見境なく攻撃を繰り出していた。兵士を庇いながら立ち回るグラウは少しだけ動きにくそうにしていた。
「グラウ様~~!周辺にもカゴがありますのでいつもどおりで大丈夫ですよ~~!」
「……余計なことをいうんじゃないわよ……で?聞いてあげるから話なさいよ」
「うむ……余も気になるな」
いつの間にか戻ってきていたレパード王もユヅキの隣のイサネの隣で腕を組んで立っていた。戸惑いはしたが、ワクワク顔のレパード王に物申すわけにもいかずイサネは話始める。
「【聖女】の力はもうすぐ失われます……ので……もうこんなことはやめてお母さまのところに戻りませんか?」
「……全然意味がわからないんだけど?」
「確かに的を得ていないが……イサネ、そなたのその異常な全身の獣化が関係していると見てよいか?」
「さすがレパード王様!その通りです……私が獣になってしまえば【聖女】なんてものはこの世界から消えてなくなります」
あらためてイサネの全身をじっくりと見てユヅキは、
「元々ちんちくりんだったわけじゃなかったってわけね」
「そりゃまぁユヅキさんほどナイスバディではないですけれど……私が今適当な範囲に力を使えばユヅキさんが欲している【聖女】の役割と力は完全になくなって、今やっていることも無意味になってしまいます……だから……」
そう言ってイサネは祈りを捧げようと手を合わせようとする。
「……ふうん?じゃあ私は本当の【紫炎の魔女】になるってことね」
「そうなることを望んでいる者はおらぬぞユヅキ……余も――」
「ふふ……術も効かないし……なにも思い通りにならないのね……うふふ……ふふふ……」
レパード王の声も聞こえているのかいないのか……またひとつユヅキをまとうオーラが重く暗く……キッとイサネを睨みつけ、蹴り飛ばし祈りを留まらせる……
「蹴ることないじゃないですか……いたたた」
「ねぇイサネ」
「あ、名前やっと呼んでくれた」
コロンッと転がったイサネはレパード王に支えられながら、ユヅキに名前を呼んでもらったことに何故か喜んでいた。そんな様子を気にすることなくユヅキは言った。
「あなたに華を持たせてあげるわ……【聖女】は【聖女】として……【魔女】は【魔女】として……」
「ユヅキさん!あなたはヴィランじゃないです……そんな風に思わないで!!!」
「そのとおりだユヅキ!そなたを悪者などと思っておる者はおらん!」
クマに力を送るのをやめた時、一瞬の隙が出来たことを見逃さずグラウは急所に一発拳を打ち込む。その衝撃破がクマの全身を駆け巡ると、イサネの浄化の力と同じ光が溢れ元の兵士の姿に戻りその場で倒れ、完全獣化は収まった。
イサネの無事を確認する為すぐに振り向くと、事態が変わっていることに気付く。
「イサネ……!」
半獣化を解きながら駆け寄り、イサネをレパード王から託される。
「……すまないグラウ……ユヅキに我々の声は届かなんだ……もし届くのであればあいつの声なのだろうが……全くなにをもたもたと……」
「イサネを支えていただき感謝します……おそらくもうここからは……イサネ……そうだろう?」
「レパード王の言う届くだろう声を信じたいとは思いますが……最後は……グラウ様……一緒にいってくださいますか?」
イサネの問いにゆっくりと頷き、紫炎を纏ってゆっくりと上空に浮かんでいくユヅキを見上げた。




