31:俺がいく……。
しっかりと足を踏ん張り、いざ!という場面で、あ!となにかを思い出してレパード王に耳打ちするイサネ。大きくうなずいたレパード王は城内へと消えていく。
「……向かってくるかと思えばこそこそとして……締まらないわね?」
「用意周到と言ってください」
ユヅキを守るようにして自分を見るグラウを数秒見つめたあと……イサネは背中を向け、反対方向へとゆっくりと歩き出した。
「あらなに?諦めたの?」
ふふんっと鼻を鳴らして勝ち誇った顔をするユヅキは、更にグラウにベタベタと甘えるように腕に絡みついた。
「そんなわけないじゃないですか……あ……でもひとつだけ……諦めないといけないことはあるかもしれないです」
バルコニーへ上がる階段の前に来たところでイサネは振り返り、
「……グラウ様が教えてくださったおいしい揚げ菓子……一緒に食べたかったな」
少し泣きそうな表情で笑ったイサネ……しっかりとグラウを見て言った。
グラウは見ていた。
しっかりとその瞳にとらえてイサネが行ってしまうという現実を……見ていた。
「…………っ」
「え……うそでしょ……?」
グラっと体を揺らし、苦しみながら頭を抑える姿はあの時のヴァルロス王と同じだった。
「……くな」
「グラウ!!違うわ!私をみ――きゃっ?!」
術に抗う苦しみの中一瞬、自分の体に触れているのは【紫炎の魔女】だと理解し突き飛ばしていた。もう術にのまれることはないだろう……なぜなら――
「行くなイサネ!!!」
グラウが叫んだ瞬間に銀色の不思議な光がブワっと溢れだし、瞳で揺らいでいた紫炎を吹き飛ばして正気を取り戻した。イサネの元へ駆け寄り、強い力で優しく抱きしめた。
「すごいですねグラウ様……なんの力なんですか?」
「……わからない……わからないが救われたことには変わらない……イサネ……すまない」
「謝ることはなんかないですよ……おはようございますグラウ様」
スッとイサネを抱きかかえ上げ、グラウはイサネの体に頬をすり寄せる。
「またそうやって私から奪うのね……女神の代行者なのよ……私が最初に選ばれたのよ……なのにどうして……もう……」
ブツブツと言いながら立ち上がり、怪しいオーラを纏っていくユヅキは中庭へ向かってゆっくりと歩いて行く。
先ほどグラウを囲んでいた複数の兵士たちは各々配置に戻り始めており中庭は落ち着きを取り戻し始めていた。ひとりの兵士がフラフラと歩くユヅキに気付き声をかけてしまった。
「聖女……様……ですよね?大丈夫ですか?具あ――」
「……もう終わり」
装備していた鎧を弾き飛ばし、完全な獣化をして雄叫びを上げる兵士。ユヅキの術の影響も含め、大きな体と鋭く太い爪を持つ巨大なクマへと変貌し、近くにいる目に入ったモノを破壊していく。
大きな音に気付き、グラウとイサネも外に出て様子を確認して目を丸くした。
「止めなきゃ……!」
「俺がいく……イサネは隠れていて」
ドアの陰にイサネをおろし、獣化した兵士の元へ近づいていく。
「ふん……完全に獣化した者の力を舐めないで頂戴……」
ユヅキは得意げに笑いながらグラウを見ており、その後ろにこっそりと近づいていたイサネに気付かなかった。
「グラウ様は誰も殺したりはしません……それくらい技術があって元々強いんですけど――」
「だっ?!びっくりした……だ、だからなんだっていうのよ?」
「祝福を授かりし者……この意味わかりますか?」
おとぎ話の一文にあった言葉。
日々共に過ごしてきた。
傷ついた時、有事の際には癒しと加護を……。
「知らないふりしてたのね……やな女……」
「さっきのグラウ様を見てわかったって感じです……本当に全部を知っているわけじゃないですよ?知らないことだらけで……そういえば、と……あの時初めて知ったことがありましたのであなたにお伝えしておこうかなと」
「あの時……?」
「グラウ様の活躍を見ながらお話しますね……グラウ様~!!ファイト~~~!!」
逃げだそうと走り出した兵士へ腕を振り下ろそうとしている完全獣化したクマの脇腹の一点に深く重たい蹴りを食らわせ、グラウは前に立ちはだかり迎え撃つ。




