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2:おいしいものがあるらしい。

北の大地のほとんどの村や街、王都がある場所はすべて魔法のドームで護られている。

白い彫刻の女神像の下に、祝福を受けた魔法の宝石が地中に埋め込まれ、納められており、そこを中心に形成され、暮らすために申し分ない安定した環境を作り出している。


だが、一歩外に出ればそこは雪すさぶ極寒の世界。生半可な装備では進むこともままならない。


「なにが『追い出された』~ですか!完全に貴方が悪いんじゃないですか!」

「……イサネ」

「わざわざ王妃様も喜ばれて、貴方も幸せになれて万々歳!のシナリオを考えて狩猟祭の指揮も請け負って出会いの場も作ったというのに狩猟が楽しくなっちゃって結局一番取って!」

「イサネ……」


体の3倍ぐらいありそうなリュックを軽々と背負い、前を歩くグラウに向かって大声で怒っているのは従者のイサネ。吹雪が少し収まる期間を見計らい、王命通りに1年間の花嫁探しの旅にグラウと共に出立した。


「貴方に恩義があってついてきたのもありますけ――っ!?」

「ちゃんと聞いて……そこ危ない」

「ぎゃっふ!」


小言を言い続けながら歩いていたイサネは、前は見ていたものの足元は見ておらず……積もった雪の高さとうっすらと吹雪いているせいもあり、白く覆われた視界の隙間にあったクレパスに気付かなかった。


「……やはりお前は軽いな」

「壁に鼻打った……うぅ……もぉ……この荷物見てなにを言っ……あ……っ?」

「……?」


ズルンっとクレパスに落ちていく大きなリュック。

グラウも飛び込むようにしてイサネが落ちるのを阻止するために手を伸ばしたが、掴めたのは片足だった。逆さまにぶらりと浮かんで手を上げてしまう体勢……お察しのとおり、細いイサネの体から簡単にリュックは深い深い底まで落ちる。


「どおしてぇぇぇぇぇ」

「……金貨はあるよ」

「そういう問題じゃありませんっ!!!」


引き上げられたイサネはクレパスの底に向かって叫ぶ。クロウは荷物に対してあまり気にする素振りは見せず、鼻血を垂らして嘆いているイサネを見ながら言った。


「ちゃんとついてきて」

「それは……申し訳なかったです……助けていただきありがとうございます」

「最短で抜けれるように山道を選んだ俺も悪かった……こっちから行こう」


イサネの顔に両手を添え、鼻血を拭い、赤くなった額を撫で、他にケガがないかを確認して再び雪を踏みしめながら一歩ずつ前へ進むグラウ。


最初に目指す国は【イスト】……すぐ隣の国ではあるが【ノース】との間には大きく険しい山がそびえたっている。命をとして、長い時間をかけ開墾した比較的な平坦な道はあるのだが、山を大きく迂回していかなければならないため、1日でこの雪の中を通り抜けるのは難しくなる。

グラウが選んだ最初の道は単純に一直線に進む道。山を頂上まで登る必要はないルートではあるが足場がいいとは言えなかった。ひとりであれば……グラウなりにイサネを気にかけて選んだ道ではあった。


「……申し訳ありません」

「謝ることはない……確かに夜になってしまうが…………洞穴があるからそこで朝まで休もう」


スンスンと鼻を利かせて土の匂いを嗅ぎ取り見つけた洞穴に入る。

浅めの洞穴で、多少の吹雪と寒さはしのげるものの……暖を取らずに一晩過ごすのは厳しそうであった。


「……おいで」

「は?!」


荷物を失って布ひとつもない。道中の雪で濡れた服と外套がイサネの体温を奪っていく。両手で腕を抱えて摩りながら少し離れた位置で震えている様子を見て自分の懐に誘うグラウ。


半獣化し、全身に体毛を携えて。


「召使いの身ですので……」

「イサネ」

「甘えるわけには……」

「……イサネ」


モフモフとした胸毛をわざとアピールして。


「ふぁーーーふかふかぁ…………」

「……死んだらおいしいもの食べられないからね」

「え?」

「【イスト】にはおいしいものがあるらしい」


動物のモフモフに耐えるのは厳しい。ましてこんな雪山ではなおさらむりだろう。イサネは欲望に抗えず飛び込み堪能……そしてグラウの発言を聞いて眉間にしわを寄せた。


「だからまっすぐきたんですか?」

「……食べたい」

「はぁ…………とりあえずこれかじって我慢してください……ふぁ…………ひがのぼったらすぐにいきましょう…………ね」


唯一残っていた荷物、腰に下げたポーチから鹿肉を干したものをスティック状にしたものを取り出してグラウの口に押し込み、モフモフに体と顔をうずめて眠りにつくイサネ。


「(俺の好物……)」


はむはむとよく噛んで味わう。ゆっくりと飲み込み……大きな尻尾でイサネを包み、グラウも目を閉じる。

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