15:これは……。
痛みを堪えているというより、なにかに抗っている……そんな苦しみ方。突然の事で驚き、ただヴァルロス王に声をかけるしかできなかった。大きく太い腕でなにかを振り払う……風圧で焚火が四散し、散り散りになった火のついた木が周りの乾いた草木に燃え移り始めた。
「ヴァルロス王!!」
一瞬動きが止まったヴァルロス王の肩に手を添え、安否を確認するグラウ。
「…………求めるか……美しき魔女を……!!」
「ガッァ!!!」
「グラウ様!!!」
少し離れていたイサネが、ヴァルロス王の剛腕で殴り飛ばされ草木に埋もれたグラウの元に走る。しかし、その動きは止められた。
「ヴァ……ルロス王……さま……そ、の目……うっうう……ぐるじっ……!」
「……嫁探しなどと偽り…………本物の【聖女】である【紫炎の魔女】を息子を使って求める……アマロックもなかなかしたたかな女であるな……?」
「なにを……言って……」
片手で首を絞めつけられながらぶら下がるイサネ。どうにか抜け出そうともがくが、イサネの怪力をもってしても指一本外すことができない。紫炎を瞳に帯びたヴァルロス王……おそらく【紫炎の魔女】の術で大幅に強化されているのだろう。
「イサネと言ったか……その癒しの力……大人しく【紫炎の魔女】に変換せよ」
「は……ぁ?………うっ………そんなこと……できな……い」
「ふむ…………?」
「あぐっ……!!」
「イサネ!!!」
起き上がったグラウはイサネの苦しむ姿を目視し、王相手などという理由構わず半獣化して腕に噛み付き、鋭い爪を腕に深く突き刺す。流石の一撃に一瞬掴んでいる手の力を緩ませたヴァルロス王はイサネを落としてしまった。
「ゲホゲホッ!!……苦しい事ばっかり……それにできないっていうのは知らないって意味で……ケホッ」
「立てイサネ!!!逃げろ!」
「…………砂浜でみたあの光……あぁ美しき【紫炎の魔女】が……が……グ、ラ……うぐっうううう!!!!」
片膝をつき、先ほどと同じようにまた苦しみ出すヴァルロス王。やはり意識をどうにか正常に保とうとしている、まだ自分の意識がある……イサネは立ち上がるとヴァルロス王に近づいて行った。
「逃げろと……!!」
「大丈夫ですグラウ様……ヴァルロス王はとても強いお方のようです……これなら治せます」
いつも傷を治す時は相手に触れて行う癒しの力……苦しむヴァルロス王の前に膝をついて祈るイサネ。
「に……げなさ……い」
「逃げません……助けます……終わったら色々教えてもらいますからね?」
呆然と立ち尽くし、見ていることしかできないグラウ……半獣化を自然に解いてしまうほどの目の前で起きている現象と光景……その光の輝きを目に焼き付けていた。
金色の粒が舞い、白く清浄な光に包まれるヴァルロス王。二重の術に抗うことを強要され苦しみ方が尋常ではなかった。イサネの祈りの光の中でヴァルロス王は徐々に落ち着きを取り戻し、イサネを狙って振り上げていた拳をそっと……おろした。
「……もう大丈夫」
「はぁ………あぁ………ワシは……なんてことを……………」
「……ヴァルロス王………イサネ……これは……」
フラフラと立ち上がるイサネの隣に移動し、支えるグラウはまだ困惑しているようだった。
「グラウ様……説明は後で……ちょっとここ……アツ……あああ!!ちょっと尻尾!!燃えてる!グラウ様!!!」
「あ」
「鈍すぎる!!あまりにも鈍すぎる!!!」
「ふはっ!!おぬしら本当に――……いや、とりあえず逃げるぞ!」
いつの間にか火に囲まれていた3人は一旦抜け出し、ヴァルロス王が使える水を操る術を使うために水源を探いていたのだが……お互い慌て過ぎていて………林の外に出てから気が付いた。
**********
火の手があがる小さな林を覆う水の渦が雨柱となり……地面まで豪快に降り注ぎ無事に消火された。
「……………すまん」
「いえ……お互い冷静ではありませんでしたし避難優先……」
「…………焦げた」
ヴァルロス王の首に下げていた牙の飾りの中に……水はあった。




