表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

知るという事


 数日後、冒険者ギルドへ向かうと、認定試験の結果が知らされた。当然、合格だ。少々ズルをしているのは否めないが、手段を選んでもいられない。そもそも魔女が魔力を使うことは当たり前のことだと、リズは開き直る。


「お前さんなら合格間違いなしだと思っていたが、まぁおめでとさん」

「ありがとうございます」


 ギルドの一室にあるソファーに座り、リズと向かい合う形で豪快に笑っている男。サーンス王国に来てからリズに色々と世話を焼いてくれた人物、ここの冒険者たちのとりまとめ役でアレックスという。ファミリーネームは知らない。貴族ならばミドルネームやファミリーネームがある。だが、冒険者として動く人間であればファミリネームは色々と面倒ごとに巻き込まれかねないため、名乗る方が少ないらしい。つまり、アレックスも貴族の可能性がゼロではなかった。とはいえ、リズにとってはどちらでも構わない。


「ライズ、早速だがお前さんに依頼がある」

「……早くないですか?」

「常駐希望じゃなかったから、お前さんの薬を常備でもしておきたいんだろ。あれを知れば、王城としても確保しておくべきだと思うさ」

「はぁ」


 生返事をしたリズに用紙が手渡される。依頼内容は、薬の製作。いつも行っているものだが、その量が全然違った。確かにこの量ならば常備薬としておいて置きたいのだと理解する。日持ちがするものばかりなのもその所為だ。


「そもそもなんで王城に常駐希望出さなかったんだ? そこそこ給料もいい。居住だって保証される。悪くない環境だろ?」

「……」

「認定試験を受けたのだって、そのためだと思ったんだが……王城に行きたい理由でもあるんじゃないかってな」

「⁉」


 王城に行きたい理由がある。だから認定試験を受けた。リズが受けたいと言葉にしたことはない。受けてみないかと推薦状を渡してきたのは、むしろアレックスの方だ。けれどそれも、リズが望んでいたからだとこの男は言う。


「伊達にまとめてはおらぬということか……」

「ん? 何か言ったかよ?」

「いいえ。ただ……王城に関わりたい理由はあります」

「なら、なおさら王城に住んだ方がいいじゃねぇか」


 リズは王城に用がある。確かにその通りだ。だがそれはいまではない。今向かっても、リズが会いたい人物はそこにいない。それでも王城に入り込む必要はある。そこで信頼を勝ち取る意義がある。いずれ起きる事のために、その時堂々と力になれる、傍に行ける立場にいたいから。


「アレックスさん、女性の事情に首を突っ込むのは感心しませんよ」

「悪いが俺はガキには興味ねぇんだ」

「……私は幼い子どもではありませんけど」


 むしろアレックスよりも随分と年齢だけは上だ。リズからすれば、アレックスなど青臭い子ども同然。外見年齢がそう見えることは理解しているけれども、己の半分にも満たない年齢の男にガキ扱いされるのは不本意である。仕方ないとは思っていても、道中でリズを妙齢の女性扱いしてくる者たちには、いっそのこと魔力で切り刻んでやりたい。アレックスがその連中とは違うのはわかっているし、ガキだと言いながらも一人前の人間扱いはしてくれる。あくまでリズを女性とは見ていないという軽口なのだ。


「まぁお前さんがいいならいいけどよ、コネが必要なら俺に言え。お前なら信頼できるからな」

「そんなコネを持っていることに驚きを感じますね。興味はありませんけど」

「言ってろ。それとこれ、期限はひと月ってなっているが――」

「わかってますよ。そんなに時間は取らせません。二週間程度もあれば終わります」


 二週間とリズが言葉にすると、アレックスは呆れたように笑う。


「つくづく、お前は普通じゃねぇよ」

「誉め言葉として受け取っておきます。それでは私はこれで」

「おう。無理はすんなよ」


 挨拶を交わし、リズは冒険者ギルドを後にする。一度家に戻ってから材料を取りに行くべきか。依頼された量の分を仕入れるとなれば、それなりの金額になる。サーンス王国に来てから、リズも蓄えだけは怠らなかった。最悪、金銭がなくとも生きていける。だがそれでは人の営みに紛れることはできない。それゆえの選択だ。仕入れるために使っても問題はないのだけれど、リズは自ら採取しにいくことにした。気分的に誰もいない場所に行きたい気分でもあったから。

 王都を出て、リズは植物の採取に取り掛かる。もはや癖のようなものなので、リズは迷いなく目当ての植物を採取していった。量が必要となるものの、一つ一つに重さがないので大量に採取したところで、持ち運ぶことに不安はない。


「ここいらでやめにするかの」


 あらかた採取をし終わったので、リズはその場に座り休息を取る。そうして見えるのは、王都の街並みだった。

 サーンス王国は悪い国ではない。これまで生活してきた中で、リズはそう感じていた。王国に来た当初、これまで見向きもしなかった人々の歴史について調べた。ここ百年ほど、王国は何の変りも見せていない。何代もの王がいたけれど、その誰もが前例に倣うだけで、自ら何かをしたという事実はなかった。だから名前が載るだけで、ただいるだけの王。人々の暮らしが良くも悪くも変わらないので、関心も薄れていく。この先も変わらないと。王家に誰が生まれ、誰が死のうと、噂話には上がるだけ。お飾りの王家。そんな印象をリズは抱いていた。


「それでもいつか終わりは来る。人は移ろう者じゃ。一つの刃こぼれが、やがて大きな歪みとなることとてないとは言えぬ」


 王都に暮らす者たちと関わり合っていると、リズにも想うことが出てくる。これまでになかった経験。人の営みの中で生きるということ。リズを案じてくれる者も出てきた。そんな彼らを偽りの姿のまま騙している。リズの目的のために。


「妾の目的も変わらぬ。じゃが……長い時間がかかればかかるほど、手放すことが惜しくもなるの」

 

 今は聖王歴1171年。イオリスが生まれるまで、あと四年だ。ライズとしてこの姿を見せて居られるのは、精々が五、六年といったところ。十年もすれば違和感を抱かれてしまう。その前に準備をしなければ。今はまだ、ようやく入口を見つけただけなのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ