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認定試験


 王城で開かれる薬師認定試験。推薦状をもって王城内に入ると、衛兵に案内されて敷地内にある端の区画、噴水や畑が多く並ぶ場所の前にある建物へと向かった。建物は意外と大きい。広い部屋は講堂という名前らしく、国の認証を受けるためのあらゆる職に対する試験会場となっているということだった。


「……流石国の中枢じゃな」


 指定された座席に座り、周囲を見渡す。ただの会場の割に、講堂は凝った作りをしていた。天井はガラス張りで陽の光が柔らかく差し込む設計になっている。晴天時ならば明かりも不要になるだろう。曇りでも使えるようになのか、灯をともす器具が置いてあった。

 魔女ならば手元を明るくするのに火など使わない。けれど普通の人間は違う。魔力を使うということを忘れて久しい世界には、そのような力は存在しない。そもそも魔女のように魔力を使えるほどの魔法力を持っている人間は滅多にいないのだから、廃れるのも当然の結果だ。稀に生まれる膨大な魔力を持つ人間だけが扱うことができるものの、使い方を知らなければその魔力によって身を破壊されるだけ。リズは扱えるようになった。師が助けてくれたから。そのような存在がイオリスにはいなかった。それだけの話なのに、理不尽な世界だと思わずにはいられない。


 時間になり白い用紙が配られた。リズは初めて見る紙の色だ。今までリズが見てきたのは、茶色でざらざらの紙。だがこれは触ると冷たく、指を滑らせても引っかかることがない。


「第一の試験は、ここに記された問題を解くことか。確かにこれは書きやすいのう」


 問題は薬草の種類、そして器具の扱い方という基本中の基本から始まった。ここに推薦状をもって来たならば解けないはずもないものばかりだ。だが中には手が止まっている者もいた。見るからに貴族風の装いをした女性、男性たち。推薦状を渡すことができるのは、国が認めた者であるはずだが、その中に王城で働く貴族位の人間も含まれている。つまりはその身内か、それに準ずる人間なのだろう。実力がない者に認定を与えるわけにいはいかない。単純な問題さえわからないのであれば、不合格にしたところで不満もでないということか。


「そもそも当たり前のことを理解せずして、何がしたいのかわからぬ」


 リズにとっては慣れ親しんだものばかり。調合方法はリズが知っているものとは違っているが、魔力を使わない場合はどうすればいいのか。使った時と使わなかった時の違いを知るのは、人間に渡すという意味で最もリズが気を付けていることでもある。信用を得るためには、害をなすものであってはいけないから。簡単ではないが、知らなければならないこと。それを思い出しながらリズはペンを走らせる。

 実用的な問題もあったが、筆記試験で描ける範囲のことなので、さほど難題ではない。こうして第一試験を突破したリズは、次の実技試験が始まるという調薬室と呼ばれる部屋に案内された。


「ここで指定の薬を調合していただきます」

「……」


 白い衣服をまとった人間が多くいる。彼らは補佐役ではなく、監視役。一人ひとりがその手付き、結果を見定めるということらしい。この中でリズは外見年齢でいえば一番下。推薦状の年齢は二十歳と記したが、そのようにも見えていないことはわかっている。あからさまに見下した視線がそこかしこに感じられたから。


「結果は実力次第。肩書に見合うか見合わないか、それだけです。そこに年齢は関係ありません。わかっていますよね」


 明らかにリズを見下していた連中に対するものだろう。圧をかけるように監督をしている人がいえば、顔色を悪くして視線を逸らす数人たちがいた。自分より年下が受けること自体が気にくわないという人もいるらしい。少なからずこういう場にいる人間というのは、己の力にプライドを持っている。自信家が多いので、こういうことはよくあることだと別の監視役の人が教えてくれた。


「課題は裂傷を癒す薬、解熱鎮痛薬か……どれもよく使われる薬、ですね」

「えぇ。王城にいようと、城下にいようと、どちらでもよくつかわれるもの。作り慣れているからこそ、これが課題なんですよ」


 傍に監視役がいることを一瞬忘れていたリズは、慌てて口調を変える。リズが焦っていたことなど気づくことなく、監視役はリズの手元を凝視していた。魔力を使わずに、人間と同じような作り方をする。その上で効果を下げてはならない。流石にそれは無理だろうと判断したリズは、早々に諦めて魔力を使うことに決めた。そもそも魔力を可視化することが出来る人間などいない。リズは感じることができるので、それが魔力だとわかるが、他の人間は違うのだ。稀に敏感な者はいるが、それと気づくことはない。精々が「あれ?」と思う程度。この世界の人間はおおざっぱな生き物が多いので、目に見えない力は信じない。今のリズには非常に有難いことだ。


「できました」

「……速い、それに正確ですね。途中、知らない工程があった気もしますが……」

「師のやり方なので、少々独特なものがあるかもしれません」

「そうでしたか。貴女は良い師に恵まれたのですね」

「はい」


 これには素直に同意しておく。リズにとって師は恩人であると同時に、偉大な存在だから。賞賛されれば悪い気はしない。


「はい、問題ありません。効果については後程になりますので、少し日数を開けてから合否の判断になるでしょう」

「わかりました」

「貴方は……冒険者ギルドからの推薦状ですか。ならばそちらに報告するようにします」


 今日はこれで終わり。リズが作った物は実際に必要とする相手に使ってみるという。もちろん、使われる人が了承した上でだ。誰が作ったのかは知らせないのは不安だけれど、だからこそ監視役が常に傍にいて、工程を見定めていたのだろう。悪影響を及ぼすものがないのか。使用する材料が間違っていないのかを。その基準を満たした上で、実際に使って効果を確認する。確かに理にかなった方法だ。効果があるかどうかなど、使ってみなければわからない。リズもそう思うから。


 ともあれ認定試験は無事に終わった。ここまで生きてきて、これほどの緊張を強いられたは初めてなので、この日はぐっすりと眠りの世界に入ることが出来た。


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