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魔女の実験~余命を宣告された王子を救いたい  作者: 紫音
再会

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10/22

未来と過去を繋ぐ者

ようやく!


 そうして四年後。リズは心なしか己が浮足立っていることに気づく。今年は聖王歴1175年。年が変わって既に三か月以上が過ぎていた。


「……まだなのかの」


 王城からは王妃が身籠っているという話は届いていた。これまでも認定薬師として出入りをしてきたリズだ。製造する薬は評判が良く、それなりの頻度で王城にも呼ばれるようになっていた。最も顔を合わせているのは王城で常駐している薬師オーギュスであり、それ以外の人間との関わりはなるべく避けている。顔を覚えられないようにと最近ではフードを被ることも増えてきた。


『もっと顔を上げれ。堂々としていろ。それだけで周囲の評価は変わるもんだ』


 オーギュスに何度も言われた言葉。けれどリズは頑なに実行しなかった。顔を覚えられないように。ライズと言われれば、薬師として実力はあるが陰湿な女。それが王城内でのリズの評価となっている。最近では印象が朧げになるように魔力を纏わせて王城に向かうことも増えた。オーギュスにだけはきちんと顔を覚えられているのでそれはしていない。違和感を与えてしまうことはわかっていたし、あれでいてオーギュスは勘がいい人間だから。


「焦っても仕方あるまい。精々、常備薬でも製造しておくとするか」


 黒髪黒目に容姿を変えて、リズは薬草の準備を始めた。昨日採取したばかりの薬草たちはまだまだ新鮮だ。日持ちしてなおかつ街の人たちの使用頻度が高い薬から用意しよう。そう思う程度には、リズも王都に、そこに住む人々に馴染んでいた。

 その時だった。ドンドン。


「……誰じゃ、このような時に」


 薬草を選別、清潔な水で洗っている時だった。扉が大きな音で叩かれ、リズは溜息を吐く。濡れている手を手近に置いてあったタオルで拭き、ケープを羽織りながら扉を開ける。


「どうかしましたか?」


 仮面を被りリズが対応すると、そこにいたのは冒険者ギルドとりまとめ役のアレックスだった。


「ライズ、急用だ。すぐに王城に来てくれ」

「え? 依頼、ですか?」

「そうじゃない。とりあえずお前の力が必要なんだ」

「……」


 尋常じゃない様子に、リズは思考する。認定薬師として王城に出入りしているリズを呼ぶ緊急度の高い案件。わざわざアレックスを使ってまで呼びだした。確かにリズと連絡が取れる人間となれば限られてくる。オーギュスはリズの住居を知らない。だからアレックスを使ったのだろう。だがその理由は何か。


「ふむ……」

「ライズ?」

「少し待ってください。行ったところで薬草がなければ、私も対処できません。オーギュスが手間取るようなことというならば、外的要因から来るものに対してではなく内的要因から来るものでしょう」

「……よくわからんが、オーギュスのやつがお前を呼べと言ったらしい」


 薬師とひとくくりにされても、それぞれ得意分野がある。魔女たるリズは、魔法の力があるため内側から作用させる薬を多く作っていた。外傷用のも当然作れる。けれどリズの作る内服用のものは、他の人間が作るものとは全く別物なのだ。オーギュスはそれをわかっている。だからこそリズを指名してきた。


「なるべく急いでくれ、馬車を用意している」

「……そこまでか」

「ん?」

「いえ、何でもありません。いいですよ。ひとまずこれだけあれば何とかなるでしょう」


 選別途中であった薬草をいくつか手に取り、今日は使う予定のない薬草を棚から取り出した。器具は王城で借りればいい。そうしてアレックスと共に馬車に乗り込み、リズは王城へと向かった。


 案内されたのは、これまで一度も立ち入ったことのない場所だった。王城の最上階、その奥にある広い部屋。そこにオーギュスの姿を認め、リズはその目の前に横たわる者が薬を必要とする相手だと理解する。


「オーギュスさん、お待たせしました」

「ライズ……悪い、突然呼びつけて」

「いえ。それでどういう状況ですか?」


 正直に言えば、面倒ごとを押し付けるなと言いたいところではある。けれどリズとて薬師として働いているのだ。オーギュスに世話になっている自覚もある。無下にすることはできない。


「先ほど、王妃殿下が無事に出産を終えた。だが……」

「……」


 出産を終えた、その言葉が意味するものが何か。リズはオーギュスの前にあるベッドへと近づく。そこにいたのは王妃ではなかった。小さな布に包まれたもの。それが二つある。泣き叫ぶこともなく、ただ口を動かしているだけの存在。それがどういうことを示すのか。この二人は呼吸が満足にできていない状況だった。


「この、赤子……」

「あぁ。第二王子殿下と、第一王女殿下。双子なんだが……」

「……なるほど、そういうことだったのか」

「ライズ?」


 リズはその中の一人、男の赤子だというそれを腕に抱えた。周囲が騒めく中でオーギュスだけがリズの行動を止めることなく、逆に周りを引き留めてくれた。


「この時分から……難儀な奴じゃ」


 腕に抱えた子。間違いない。イオリスだ。ずっと待っていた。この子が生まれるのを。その姿を目に映すその時を。


「今はまだ早い。けれど……」


 リズは口の中で何かを呟きそっと小さな手を握りしめた。このままでは成長できずに死んでしまう。されど、まだ成長しきっていない身体には何もかもが毒となる。まだ早い。


「ライズ、わかったのか?」

「……やってみる価値はあるとだけ」

「何をだ?」


 リズはイオリスをベッドに下ろすと、もう一人の子。共に生まれたと言う女の子を視た。イオリス程ではないにしろ、この子も普通ではない。だが、だからこその双子という存在なのだろう。二人の赤子を近くに寄せて、リズは二人の手を、まだ小さくぎゅっと握りしめた様子のその手をぶつけ合わせた。それだけで二人の声が再び沸き上がる。思わずリズは耳を両手で塞いだ。


「……これは一体」


 魔力のことを言ったところで、誰にも理解されない。リズが言い出しても説得力はないだろう。ただの薬師に過ぎないライズの言葉では。

 二人の赤子が呼吸を始めた。これでもう大丈夫だと、周りから安堵の声が届いた。医者もお手上げだったというが、確かに魔力を感じることができるリズでなければ、分からない事象だった。


「オーギュスさん、これだけ小さな子に薬を与えることは害になります。共に生まれたのであれば、共に在るべき。下手な薬よりも、その方がよほど健全です」

「……」

「薬はだめですよ。私のものでも、この子たちにとっては毒です」


 リズの薬でも、ではない。リズの薬が毒だ。魔力を込めたリズの薬は特に。与えれば、二人を苦しめる。この双子はまだ生まれたばかり。しかしお互いにできないことを、生まれた時点で補い合うことができていた。魔力は内にため込みすぎると、己の身体を害する力となる。通常、大きな魔力を抱えてしまった人間は、そうして自らを滅ぼしていく。それをイオリスたちは、双子として生まれることでうまく生きようとしていたのだろう。二人で力を循環させることができる。非常に珍しい現象だった。

 そこから導き出される可能性。イオリスに双子の妹がいたことは耳にしたことがある。だが至って健康であり、イオリスのように身体が内から破壊されてはいなかった。城を離れ、大聖堂と呼ばれる機関に行き、祈りを捧げていたという。その行為は魔力を捧げる行為にほからない。要するに、祈りという行為により魔力を放出していたことで、身体が破壊されることは免れたのだろう。

 逆にイオリスは、妹がいなくなったことで魔力の循環ができなくなり、内に秘められる力が増幅してしまった。イオリスの体質はかなり特殊だった。多少触れただけではあるが、リズは一瞬冷や汗のようなモノを感じたのだ。己の力が引き寄せられるような感覚を。

 イオリスの体質、それは魔力を周囲から取り込むこと。想像以上に厄介な力だったことに、リズは頭を悩ませるのだった。






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