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青色うさぎはソフトクリームの夢を見るか  作者: くどりん
東領編I『桃色うさぎと魔法の申し子』

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第81章『繰り返されていること』

 繰り返される現象は偶然か、あるいは——

『何が起きているのか』

 

「あ〜、あんたも遭遇したのね……」


 ギルドのレルフィン支部で受付業務を担うクラリッサは、顔馴染みの依頼請負人からの報告を聞いて、またかと気怠げに呟いた。

 このひと月だけで何度耳にしたのか分からない事例に、流石に嫌気が差してきた。


 レルフィンでは現在、周辺の河川あるいは都市内に張り巡らされた水路を流れてくるゾンビが突然姿を消すという奇妙な現象が相次いでいるのだ。


 当初は、身体の大半が水中にあることから日光を浴びても焼失することはなく市街地まで流れ着いたゾンビが暴れ出すのではないかと警戒を強めていた。

 しかし、太陽が沈んだ後も活動を再開することなく、ただ流れに身を任せている姿に気を張り続けるのも馬鹿らしくなっていったのだ。

 その様子に加わり、忽然と姿を消す現象も目撃されたことから、あのゾンビは霊的な何かではないかというのがレルフィン支部における見解だった。


 頻度が高いとはいえ実害がないので、ギルドからしてみればそちらへの対処は最低レベルに等しい優先度となっている。

 除霊が必要であることを踏まえて教会にも協力を仰いでいるが、どこに流れてくるか、そしてどこで姿を消すのかは毎度異なっているので、割ける人員が限られている現状では未だ解決に至っていないというのが実情である。

 だが、


「どうやらこの騒ぎ、幽霊どうこうって話じゃなさそうだぜ」


 顔馴染みの依頼請負人——とらが神妙な面持ちで言ってくるので、面倒ではあったが耳を傾けざるを得なかった。


「……どゆこと?」


 受付カウンターに頬杖をつきながら先を促すと、厄介な事態が起きているかもしれないと知らされる。

 訊かなければ良かった、などとは流石に思うわけにもいかず、仕方ないので真面目に働くことにする。



「なるほど……つまり、あのゾンビは霊的な存在じゃなくて実在するってわけね」


 こちらの説明に目の前の女性——クラリッサが(しき)りに頷きながら、手元の羊皮紙にペンを走らせていく。

 彼女の頷きに合わせて、サイドテールに纏められた煌びやかな金髪が揺れ動くのを思わず目で追ってしまう。

 報告書を作成する表情は相変わらず半開きの目のせいで気怠げに見えるが、澄み切った翡翠の瞳からは溌剌とした気迫が感じられた。


 ギルド支部のロビーの一角。

 円形状のテーブルを囲うように座ったバニラ達は、先程目撃した消えたゾンビについての証言と推論をクラリッサに伝えていた。


「で、その証明が……バニラんの下着が腕に引っ掛かってたから、と」

「バ、バニラん?」


 唐突な呼び名に面食らってしまう。

 彼女と既知であるとらを窺い見ると、受け入れろとでも言いたそうな、諦観の滲んだ視線だけが返ってきた。

 愛称で呼ばれ慣れていないせいで驚きはしたが、悪い気はしなかったので特に訂正を求めはしない。


「……まぁ、その通り、ですわね。私のブ——下着に触れられているのですから、霊体ということはないでしょう」


 男性陣の手前、ブラジャーと言うには気恥ずかしさが勝り、言葉を濁してクラリッサの言を肯定する。


「バニラのブラが霊体に干渉出来るような力を有していたら、話は別だけどね」

「一応確認だが……ぽぽぽ神の加護を受けた神聖なブラジャーとかじゃねぇよな」


 なんだそれは。

 レインの淡々とした物言いを受けて、とらが感情を抑えた表情で問い掛けてくる。

 ふざけているのか真剣なのか判別し難い。

 昨夜に垣間見た気遣いを思えば、後者であると信じたいが。


「身に付ける物に加護を施すというのはよくある話ですからねぇ。そういう意味ではセイクリッドなブラジャーというのもあり得なくはないですよね」

「ん〜、そうなるとまた話が変わってくるね。実際のところどうなん? セイクリッドブラジャーだったりする?」

「もしそうなら、市場に流通させれば一儲け出来るんじゃ……」


 ぽーとクラリッサが真面目な表情を向けてくるが、口元が僅かにニヤついている。

 ばさに至っては一人だけ別方向で下心を漏らしているので、後で締め上げることにして今は無視する。

 とらやレインをも確認するば二人もぽーとクラリッサと同様の有り様である。


 ——はい、悪ノリ確定ですわ!


 にしても何なのだ彼等の団結力は。

 とらとクラリッサ、そしてギルドの関係者であるばさは以前からの付き合いがあるようなので良いとしても、残りのメンバーは出会って日が浅いし、クラリッサとは初対面の筈である。

 ぽーなんかは、こういうノリに乗っかるとは思っていなかったので、軽くショックである。

 唯一の救いは、すのぴとハラミが彼等のノリについていけずに困惑の表情を浮かべていることだ。


 ——お二人はどうか、そのままでいてくださいまし……


 悪い大人達に感化されないことを願うばかりである。

 などと、馬鹿をやっていては話が進まないので、


「皆さん——」


 呼び掛け、一拍。

 出来る限りの圧を放ちながら、


「——真面目にやれや」


 いけません、口調が乱れてしまいましたわ。


 閑話休題(はなしをもどしますわ)


「とにかく、私のが加護を受けた神聖な物ということではありませんので、あのゾンビが実在しているのは間違いありませんわ」

「となると、疑問点はひとまずこの三つに絞られてくるね」


 手早く文字を綴ったクラリッサが、羊皮紙をテーブルの中央へと差し出す。

 文字がびっしりと書かれた紙を覗き込み、彼女の言う疑問点を確認する。


 ゾンビはどこから流れてくるのか。

 ゾンビは何故忽然と消えるのか。

 そして、


「件のゾンビは同一の存在なのか、か……」

「だね〜。これについては次に現れたゾンビを見れば分かるかなって」


 とらの言葉に頷いてみせるクラリッサの言うように、判別方法は明確だろう。

 それは、


「バニラさんのセイクリッ「すのぴさん?」……下着が引っ掛かっているかどうか、ってこと?」


 すのぴが早速毒されてはじめてしまっていたので、睨み付けて軌道修正させる。

 表情を強張らせながら確認するような視線をこちらに向けてくるのに、ぐっと息を呑む。

 改めて言葉にされると気恥ずかしいものがあるが、彼の推測に間違いはない。


「以前までの目撃情報でも、流れてくるゾンビの体勢は一定のもののようですし、同じ個体であれば私の物が変わらず引っ掛かってるはずですの」

「目撃されるのはどれぐらいの頻度なんだ?」

「えっとね……大体一日に二、三回ってところかな」


 ヒトの目が少ない深夜のことを考慮すれば、もう一、二回は多そうである。

 ならば、夜明けまでの間にもう一度見つけられるかもしれない。


「そうと分かれば、やることは一つですわね!」

「おい、まさか……」


 とらが面倒臭そうに表情を引き攣らせている。

 勢い良く立ち上がり、彼を見下ろすようにして胸を張り、息巻いてみせる。


「些細なことかもしれませんが、騎士として明確な異常事態を見逃すわけにはいきませんわ」


 だから、


「張り込んで、繰り返される謎の現象を解明するお手伝いといきますわよ!」

「……あわよくば下着を取り返したいだけじゃね?」


 それを言うのは野暮というものですわ。

 お読みいただきありがとうございます! 


 次回、繰り返し流されてくるゾンビの謎に迫ることが出来るのか——そして、バニラはお気に入りの下着を取り戻すことが出来るのか?

 少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、ブックマークやリアクション、下のポイント★1からでも良いので、反応をいただけると作者のやる気に繋がりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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