第54章『手掛かりを求めて』
遺された物があると信じている。
だから、それを受け取るためにも——
『見つけ出すぞ』
「ごめんなさい……僕が移動しようって提案しちゃったから……」
目の前のすのぴが沈痛な面持ちで、真紅の瞳を涙で滲ませていた。
ハラミと二人きりになった後、どう話を切り出したものかが分からずにいたらしい。踏ん切りを付けるためか、話の内容を纏めるための時間稼ぎなのかはともかく、すのぴの提案によって場所を移した先にいたのが、
「それを言うなら我々がもっと早くに供養してあげていれば」
「だから、貴方が気に病まないで、ね?」
小柄で童顔だがそれに似合わない鋭く理知的な眼光を宿す青年と物静か気品を感じさせる佇まいの女性——エッジとサーシャがそれぞれ、気落ちしているすのぴを労るように声を掛けてくる。
それでも尚、すのぴが自責を続けようとしていたので、堂々巡りになるのを防ぐために手の平を一度打ち鳴らして視線を集める。
「遅かれ早かれ、こうなってただろうよ。それにここで気付けなかったら、あいつはこの先もずっと、二人を求めて彷徨い続ける事になってたかもしれねぇしな」
そう伝え、視界にハラミの姿を収める。こちらの動きに合わせて、全員がハラミへと——手足を縛られたまま意識を失ってしまっている姿へと顔を向ける。
「とらさん……本当に大丈夫、なんですよね?」
ローウェンの不安そうな声に、安心しろと頷いてみせる。
彼の懸念はパーティーを率いる者として、当然のものであった。
シロウとユズリハの亡骸を見つけたハラミは錯乱し、手の付けようがない程に暴れていたのだ。レインを除く総出で抑え付けて、どうにか手足を拘束するに至ったのだが、その目的は周囲に危害を加えさせないためのものではなかった。
——あくまで自分に、か……
二人の命が失われていると気付いたハラミは酷く動揺し、正気を保てていたとは言えない状況だった。
認めたくない現実を振り払うように暴れ出し、力の矛先を自身に向けたのだ。殴打の果てに、首を絞めて自決しようとするのを止めた直後、糸を切断された操り人形のように意識を失ってしまったのだ。
彼に施した拘束は、目を覚ました時に再び自傷に走らないようにするためのものである。
「ローウェンの心配は最もだが、エッジ達に襲い掛からなかったのが何よりの証拠だ」
「それは、そうですが……」
ローウェン達が顔を見合わせるのを見て、ラインがそれ見た事かと溜め息を溢している。
流石にハラミの素性を隠し通せる訳もなく、ここに至るまでの経緯と併せて説明を行ったが、ただでさえヒュドラ擬きとの戦闘で疲弊している彼らの精神状態では不安を拭い去るまでには至らなかった。
それでもこちらが何日もハラミと行動を共にしている事を加味してくれたようで、
「……何かあれば、早急に対処させてもらいますよ」
「あぁ、俺達もそのつもりだ」
渋々といった様子ではあったが、折り合いを付けてくれた事でようやく本題に移れる。
「ハラミの反応からして、この二人がシロウとユズリハなのは間違いないとして……遺留品については検めたのか?」
「それはまだです。息を引き取って数日は経っているようだったので、先に防腐と浄化の処理を施していたんです」
聖職者であるエッジが医術に長けたサーシャへと目配せしながら答えてくる。サーシャも相違ない事を示すように頷いていた。
「じゃあ今からって事か」
人によっては死者の所持品を物色する事に抵抗があるだろう。実際に悪質な追い剥ぎが存在する以上、冷たい視線を向けられる行為である事に違いない。
しかし、こういった迷宮や遺跡を探索する者達は往々にして遺書や知り得た情報を発見者へ託すようにしているのである。
彼らがあのヒュドラ擬きを追っていたのであれば、何かしら気付いた事を書き残している筈である。
ボックスを所持しているのであれば、そこに収納されているのが通例であるので、
「シロウは俺が、ユズリハは——サーシャ、頼めるか」
「ええ、任せて」
死人とはいえ、女性の身体を弄る訳にはいかないので、同性かつ医者としてこの手の事に慣れている——と言うと本人からは刺すような視線を向けられるだろうが——サーシャに頼むと、向こうも話を振られると予想していたのか素早くユズリハの所持品を確認し始める。
「あったわよ」
シロウの所持品が大振りな太刀の他には僅かばかりの携帯食料ぐらいしか持ち合わせていなかったので、推測通りサーシャからボックスを見つけた旨が報される。
「よし、頼む」
「——リリース」
サーシャが静かに頷き、ボックス内に収納された物を放出するためのキーワードを呟く。
直後、ボックスが淡い光に包まれたかと思うと、周囲に光を弾けさせる。地面に降り注いだ光群が輪郭をはっきりさせていく。
本来であればボックスはマナを同期させた所有者にしか出し入れが出来ないように設定されている。例外として、所有者が絶命した事でマナの同期が切断された場合には制限が解除され、誰もが内部へのアクセスを可能とするのである。
果たして、光の膜が解けると、収納されていた物が姿を現す。
ハラミの話からユズリハは符術を使用すると聞いていたので、その情報通り様々な術式が籠められた符の束と、
「かなりの数ですねぇ」
と、苦笑を漏らすぽーだったが、他の者は自分を含め目を剥いて呆気に取られてしまっていた。
おそらくユズリハが書き溜めた手記なのだろうが、その数は優に百を超えているのだ。
いつからのものなのかは分からないが、これだけ膨大な量を書くだけ筆まめなら、ヒュドラ擬きについても事細かに記録してくれると期待が高まる。
——俺達が気付いてない事にも気付いてくれれば良いが……
それがヒュドラ擬きの対策に繋がる決定的な情報なら有難いが、そうでなくても今は僅かな情報でも見落としてはいられない。
堆く積み上げられた紙束を前に、気合いを入れ直す。
「悪いが全員手伝って貰うぞ」
各々の反応が返ってくる中、視線を今は静かな寝息をたてているハラミへと向ける。
この手記の中で、ユズリハ達が彼の事をどう思っているのかも記されているかもしれない。
それが、彼を傷付けるものではない事を祈るばかりである。
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