幕間Ⅱ『精神世界の囚われ騎士』
茫洋とした世界に一人。
何を思い流離うか——
『何が起きたのか』
かぷこーんは見知らぬ光景の中で佇んでいた。
辺り一面何も存在せず、曇天のような薄暗い雲で覆われた天蓋と青黒い紋様が走った不気味な白亜の大地が延々と続いていた。
「…………」
ここは、と声を出して見ようとしたが、声が大気を震わすことはなかった。
声が封じられているのか、何らかの要因で声が響かないようになっているのか。
自身の置かれた状況が不明で、どうしようかと頭を悩ませる。
そもそも、自分は何をしていたのだろうか。
霞が掛かったようになっている脳内で、記憶の糸を辿っていく。
王の命により、深淵領域へと赴き——苦難の果てに伝説で語られるマジカルソフトを入手した、はずだ。
しかし、手元にそれを収めているはずのボックスが見当たらなかった。
それだけではない。
騎士剣や甲冑なども存在せず、軽装としての衣服を纏っているだけだった。
益々状況に対する不明が強まるばかりだったが、そこでようやく自分が夢を見ている可能性に辿り着く。
——だけど、こんな光景は見たことないはずなんだが……
夢を見るのは記憶を整理しているからという話は誰から聞いたものだっただろうか。
ならば見覚えのないこの光景は夢ではなく、幻覚の類だろうか。
しかし、推論を巡らせてみたところで、状況に変化はなく、無音の世界が続いていくだけだった。
——とりあえず、移動してみよう……
当てもなく動き回るのは本来では得策ではないのだが、このまま立ち尽くしたところで仕方がないので何か状況に変化をもたらすものがないかを探してみる。
果ての見えない世界はどこまで行っても、その景色を変えることはない。
永遠に続いていくのではないかと諦観めいたものを抱きながら、どれだけの時間を歩いただろうか。
時間の感覚すら曖昧な状況ではそれさえも不明瞭だった。
だが、変化は突然訪れた。
——霧……?
前方の地面から立ち上ってきた霧が足元を覆っていき、次第にそれはこちらの肩辺りにまで到達する。
ただでさえ理解が追いついていない状況で視界まで遮られてはかなわないと思い、来た道を引き返そうとする。
そこに巨大な十字架が現れていることに気付き、目を剥く。
先程まで存在しなかったそれには幾重にも茨のようなものが巻きついており、十字架の中央で何者かを縛り付けていた。
——あれは……
その人物に気付いた瞬間、目を奪われていた。
腰まで伸びた白銀の髪。見ただけで感じ取れる陶器のように滑らかな肌。整った相貌は静かに瞳が閉じられている。
まるで高尚な芸術品を眺めているような気持ちになり、思わずその女性に対して手を差し伸ばす。
だが、
——!!?
腕が、地面より伸びてきた影に絡め取られる。
まるで空間そのものに縫いつけられたかのように、押しても引いてもビクともしない。
影は次第にその数を増やしていき、こちらの全身を覆い尽くしてくる。
抗うことは叶わず、顔以外が飲み込まれたところで、
——なん、だ!?
影を通して何かが流れ込んでくる。
それは、怒りであった。憎しみ。悲哀。憐憫。空虚——そして、絶望。
誰のものとも分からない感情の濁流が押し寄せて、こちらを飲み込もうとしてくる。
気を抜けば、一瞬で意識を持っていかれそうになる。いや、そうなるのも時間の問題だった。
徐々に薄れゆく意識の中で、かぷこーんはこちらを睨み付けてくる何かを捉えた。
——君、は……
こちらと十字架の間で、背後の女性を守るかのように立ちはだかり、敵意を剥き出しにしている存在。
その姿を、自分は知っている。
大地に張り巡らされた青黒い紋様で全身が覆われていても、その相貌には見覚えがあった。
この状況に陥る前に出会っている彼のことを、何故今この瞬間まで思い出せなかったのか。
——すの、ぴ……
深淵領域で出会った兎人族の名を呼ぼうとするが、声はやはり通ることはなく、全てが影の中へと飲み込まれていった。
お読みいただきありがとうございます!
かぷこーんがあの後どうなったのか……
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