第18章『追走の人造巨人』
それは歪な存在。
自然ならざる、人の手による被造物。
永き時の果てに、何故深き眠りから目を覚ますのか——
『何なのですの』
それはあまりにも突然の出来事だった。
ギガント・レインディアの定期便を走らせていた御者は、雄々しい巨鹿の背中越しに天より降り注ぐ光を見た。
山間部のギガント・レインディアが通れるように舗装された道の進路上、このまま行けばものの数分で、光の元へと辿り着くだろう。
——いったい、何が……?
初めての状況に嫌な予感がする。
引き返すべきだろうかとも思ったが、光は次の瞬間にはその輝きを失い、元の曇天の薄暗さを取り戻す。
落雷を見間違えたのだろうかと首を捻っている頃には、先の予感はとうに薄れてしまっていた。
◆
「うわぁ、でっかい岩だ」
窓の外を眺めていたすのぴが突然驚きの声を上げたので、彼の視線の先を追うと、確かに巨大な岩石が道の傍らに鎮座しているのが見えた。
「落石、でしょうか?」
バニラが首を傾げていたが、妙な違和感を覚える。
窓に近づき、その巨岩を観察してみる。
十メートルはあろう岩石の地肌には雪が積もっておらず、今し方転がり落ちてきたようにも感じられたが、視線を下に向けたところで、そのような痕跡はどこにも見当たらなかった。
まるで、突然そこに現れたかのような印象を受けた瞬間、
「——っ! お前らも来い!!」
「え!? とらさん!?」
言うが早いか、部屋を飛び出す。
何が起きたのか分かっていないようだったが、こちらの態度に異変を察してくれたようですぐさま後を追ってくる。
目指す場所は御者台。
目的地まで後数時間ということもあってか、ラウンジには荷造りを終えて下車準備を始めている客が散見された。
こちらのただならぬ様子に視線が集まってくるが、気にしている暇はなかった。
ラウンジを抜け、御者台に続く廊下と寒気の侵入を防ぐ為の二重扉をこじ開ける。
激しい物音に驚いた様子で御者がこちらを振り返り、
「な、なんですか、あなたは!?」
「説明してる暇がねぇ! もっと急がせられねぇか!?」
「山間部だとこれが目一杯なんだが……いったい何だって言うんだ?」
平野を走る分には時速三百キロにも迫る速度を誇るギガント・レインディアだが、入り組んだ道が続く山道では安全のために出せる速度は精々時速四十キロ程度だった。
——流石にダメか!
駄目で元々ではあったが、そうなると打てる手は限られてくる。
「何があったか知らないが、到着まで後二時間ぐらいなんだから、大人しく待ってて——」
だが、御者の言葉は最後まで続けられることはなかった。
耳を劈く金切り声のような何かが、辺り一帯に響き渡る。
あまりの音の大きさに思わず耳を塞いで、御者台から身を乗り出して、後方を確認する。
「とらさん、さっきのって何だったの……?」
「もしかして、何かマズイ状況でして——って、」
追い付いてきたすのぴがこめかみを押さえながら訊ねてくる。ついで、バニラがこちらの脇から身を乗り出して言葉を詰まらせる。
「何なのですの、アレーーーー!?」
バニラと共に見据える先で、巨大な岩石が蠢き、人の形へと姿を変えていく。
人造巨人。
それは古に存在したとされる人の手によって生み出された人型兵器の総称である。
古代遺跡で極稀に発見されることもあるが、
——それが、このタイミングでこんな場所に現れるってことは、転移術式か!
明らかに人為的な意図が感じられて、頭の中で警鐘が鳴り響いている。
それが杞憂であれば良かったが、悪い想像というものはどうしてこうも現実のものになるのだろうか。
起動した人造巨人が顔にあたる部分をこちらに向けたかと思うと、全身をこちらへと向き直らせ、
「来ますわ!!」
バニラが叫んだ直後に地響きを伴って、こちらへと肉迫してくる。
そのスピードはギガント・レインディアの歩み寄りと大差がないようだったが、徐々に距離が縮まってきているようにも見え、このままではいずれ捕捉されてしまうだろう。
何故という疑念はあるが、何も対処しない訳にはいかないので、御者に可能な限り急ぐよう伝えて、すのぴとバニラを連れて、今度は最後尾へ向かう。
「やるしかありませんわね!」
「ど、どうするの!?」
「とにかく最後尾のテラスへ急ぐぞ! そこであのデカブツを——迎撃する!」
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