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青色うさぎはソフトクリームの夢を見るか  作者: くどりん
北領編

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第25章『天幕下の要求者』

 欲するものを見つけたのなら、貪欲にそれを追い求める。

 生命として当然のように持ち合わせた欲求を満たすために——

『欲望のままに』

「傭兵団ニーズヘッグを束ねる<魔王>レインだ——以後、宜しく頼むね?」


 そう告げる青年——レインを見て、バニラは混乱する脳内を整理していく。


 ニーズヘッグの〈魔王〉。

 その名は裏の世界を知らない者であっても、耳にすることがあるほど、有名な呼び名である。

 北領最強と名高い傭兵団を束ねる彼個人の強さは、最早伝説の類と言っても差し障りがないほどだ。

 一人でドラゴンの群れを相手取り生還したり、国際的な犯罪を繰り返していた組織を一夜にして壊滅させたりと、その武勇伝は数限りなく語られている。


 しかし、それと同等の数で彼を畏怖させる噂が流れているのである。

 曰く、彼が赴いた戦場には血の雨が降るだとか、歯向かう者は一族郎党に至るまで殲滅させるだとか——とにかく物騒な噂が絶たないのだが、


 ——流石に、根も歯もない噂ですわよね……


 ニーズヘッグの悪い噂についても真偽が定かでないので、レインの事についても最初から疑って掛かるのは良くないだろう。

 目の前の男は、一見すれば気の良い好青年である。

 先程、〈魔王〉と名乗った際に見せた不敵な笑みに感じた威圧感は、流石団を纏める長であると物語っていたが、かといって噂にあるような恐怖を煽るような者ではないように感じる。


「じゃあこれで、危険な目に遭わせてしまったことに関しては水に流して貰えるかな?」


 と、少し自信無さげに訊ねてくる様子を見せられては、必要以上に警戒する必要はないと判断し、張り詰めていた気を緩める。


「それについては救護してもらった時点で十分だ」


 とらの言葉にぽーが頷いていたので、こちらもそれに倣う。

 レインが安心したように胸を撫で下ろすと、再び笑みを浮かべると、


「そう言ってもらえると助かるよ——じゃあ、早速なんだけど」

「あぁ、本題の方だが」


 レインに応じるようにとらが言葉を継ぐ。


 ——本題?


 そう言えば、先程とらが話し合いを始めると言っていたのを思い出す。

 何について話すのか疑問だったが、とらとレインが同じ方向へ視線を送っているのに気付き、色々なものが腑に落ちてきた。

 視線の先には、今なお静かに寝息を立てているすのぴだ。

 先程までのとらの様子と照らし合わせてみると、つまりこの場で傭兵団の団長相手にすのぴのことを口止めや不干渉にしてもらうよう交渉するということなのだろうか。


 ——どうりで落ち着いていましたのね……


 しかし、一抹の不安が残る。

 レインが如何に気の良い人物であっても、傭兵をやっている以上金を稼ぐことを第一にしているのは間違いないはずだ。

 すのぴを我が物に出来れば莫大なマナを手中に収めることになる。そうなれば、列強な国を相手に優位な交渉を行い巨万の富を得ることも出来るだろう。目先の欲を満たすだけなら、膨大な金額をふっかけて売り飛ばしても良い。

 それだけの価値がすのぴに——ワンダーラビットにあるのはレイン達も理解しているはずである。

 そんな相手に口止めを頼むと言うのであれば、それ相応の要求をされても可笑しくはない。

 しかし、有無を言わさずではなく、話し合いの場に応じてくれたのであれば、可能性がないわけではないと思いたい。

 果たしてどういう話し合いが行われるのかと構えていると、先に口を開いたのはレインの方だった。


「まず前提条件の再確認なんだけど……あの子、伝説のワンダーラビットで間違いないんだよね?」

「あぁ、間違いない」


 とらの頷きに、様子見していたぽーやチンギス達にも動揺が走る。

 その雰囲気に、彼らにはまだ詳しく話していなかったのだと理解する。

 この場に居合わせているのだから、


 ——ニーズヘッグの後には彼らとも話を付けないといけませんわね……


 と、先の事へと思案を巡らせていると、レインが特段驚いたような反応を見せずに何度か頷いてみせた。


「うんうん……そうなるとやっぱり、こちらとしての要求はこうなるよね」


 独り言のように呟き、そして一人で納得したようで、ひとつ息を長めに吐き出した後に相好を崩して、


「彼を——僕達に引き渡してくれない?」



 何も見えない暗闇の中。

 茫洋とした感覚が、辛うじて自身の輪郭を保っている。


 ——ここ、は……?


 視界が黒に塗りつぶされしまっている現状では、周囲の状況を把握することが出来ない。

 ただ、感覚器が受け取っている刺激からは何もない広大な空間を漂っているような寂寥感を覚えるだけだ。

 そもそも、自分が立っているのか横たわっているのかさえ理解していないのが現状である。

 そんな奇妙な感覚を意識した途端、これが夢か何かをなのだと思い付く。

 ならばこの状況も目覚めと共に泡沫のように消え去るだろうと考えていると、


 ——な、に……これ……


 視認出来ない何かが、全身を覆うように纏わり付いてくる。

 それは次第に体内へと侵入してきて、


「——っ!!!??」


 声にならない叫びが喉を引き裂かんばかりに発せられる。

 自分の声帯が発しているとは思えないそれが、闇の中で反響することなく響いていく。


 痛い。苦しい。嫌だ。なんで。許せない。


 叫びが自分の意思とは無関係に続く中で、脳裏に感情の波濤が押し寄せてくる。


 怒り。憎しみ。嫉妬。嫌悪。

 あらゆる負の感情がそれぞれの境界をあやふやにして、綯い交ぜにして心を埋め尽くしていく。

 抗いようのないそれに翻弄されながらも、すのぴは何かを思い出そうとしていた。


 ——僕は、これを……知っている……


 けど、それが何であるかと行き着く前に、意識が周囲の闇へと飲み込まれていった。

 お読みいただきありがとうございます! 


 少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、ブックマークやリアクション、下のポイント★1からでも良いので、反応をいただけると作者のやる気に繋がりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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